令和4年6月「 地域における多様な人材の育成、就労の促進及び再就職の支援に関する条例の制定」について

 ◆「地域における多様な人材の育成、就労の促進及び再就職の支援に

 関する条例の制定」について

  (本インタビューは令和4年5月16日(月曜日)に行ったものです。)


 ポイント:

 

1.世界的にも大変重要な政策分野となっている雇用政策に関して、本県においては、地域雇用戦略を

  実現していくにあたり中心となるものとして、条例を制定。

2.地域雇用戦略は、若者の雇用の確保(県内就業率の向上)や、学び直しのためのリカレント教育に

  よる再就職支援などが主な目的。

3.条例発の施策としては、大和平野中央構想における県立大学工学系新学部の設置や、再就職が困難

  なシングルマザーへの支援など。

4.「多様な人材の育成」「就労の促進」「再就職の支援」を施策展開の3本柱とする地域雇用戦略

  と、産業政策の両者を推進することにより、条例の基本理念の現実化を目指す。

 

 

 

◎条例制定の背景と目的

 今、雇用政策を達成することは、世界中の国や地域の大きな目標となっています。雇用を創出し、所得を上げなければ政治にならないということが実情だと思います。それほど、地域雇用戦略は大事な分野だということを強調したいと思います。特に、奈良県が地域雇用の分野に重きを置いてこなかったことを極めて深刻に捉えていることが、この条例の背景にあります。

 この条例は、奈良県の地域雇用戦略の中心となるものです。奈良県の地域雇用戦略とは何かということが表されていますが、端的に言うと、若者の雇用を確保することが大きな目的です。若者の県外流出防止と言い換えてもいいかもしれません。条例には、地域雇用戦略を実現するためにこうしようということが書かれていますけれども、この条例の底地には、これまでの奈良県の事情があります。

(これまでの奈良県の事情)

 若者の県外流出防止について、奈良県は過去、それほど熱心ではなかった気がします。奈良県において、一時、表面的に県外流出防止が図られたように見えたのは、人口増によるものです。人口が増えていると、若者が県外へ行かないと少し勘違いしたかもしれません。住宅(人口)が増えたのは、大阪へ通勤するための住宅という鉄道会社の戦略によるものです。住宅が増えると経済が回るように見えますが、長期的に見ると、ニュータウンは必ずオールドタウンになります。例えば、子供が20年、30年住み、育った時にはどこで就職されるのか。奈良県に就職先がないと、家業でもない限り、県外への流出がありきたりになり、若者の県外流出度が一番高い県になってしまいます。

 住宅が増える時にそのようなことが起こり得るということを見透かしていれば、また政策も違っていたのかもしれませんが、当時は住宅があれば良く、公害産業と言われた工場など来なくていいという考え方があり、こうした考えが現状のもとになっていると思われます。

 

若者と女性の県内就労促進

 これまで若者の県外流出を防ぐということは、産業戦略と言ってもいいと思います。

 若者の県外流出をどのように止めるかについては、一つは、工場の誘致などによる雇用の場の創出です。あるいは、成果として出てくるものですが、GDPを上げることです。途中の成果が見えるものとしては、工場の立地件数や就業地別有効求人倍率などがあります。知事に就任して5、6年というわずかな期間で、今まで低かった求人倍率がどんどん上がり、近畿で一番になってきたことから、わずかなことでも地域の経済、労働の需給バランスが動くということが分りました。有効求人倍率という労働環境の大きなメルクマールがずっと増えていることは、求人(需要)の割合が大きくなり、求職(供給)の割合が相対的に小さくなってきているということです。

 しかし、この労働マーケットには、女性はあまり出ていません。女性が働き手になるということは普通のことになってきましたので、そのような労働マーケットを作ること、そのための産業マーケット、つまり雇用創出の基盤を作ることという産業振興が第一であり、その次に労働マーケットとのマッチングを行う、これが就労の促進ということになります。

 


◎地域雇用戦略の3つの柱

 施策展開の3本柱(多様な人材の育成、就労の促進、再就職の支援)の中でも、就労の促進は一番大きな地域雇用戦略の柱と言えます。就労の促進は産業政策と裏腹になりますが、就労を促すためには、産業があればすべてうまくいくわけではなく、マッチングが大事です。その時に選択肢が狭いと、離職率も高くなります。選択肢が広い東京には自分が気に入る職場があるのではないかと思い、東京に行く人もいます。自己実現を図ることは若者の当然の要求ですから、地域でも自己実現が図れるようにすることが、就労の促進の大きな目的になります。

 しかし、地域雇用のマーケットは限られており、マッチングがうまくいかないことがありますので、離職される方に再就職の支援をすること、何度離職してもこの地域では再就職できるということを達成することが、条例の目的となります。そのためには、再就職する仕組み、つまり再マッチングと再教育が必要です。日本では、初任教育は就職先の企業が担う傾向があり、「就職」ではなく「就社」という実情がありました。そうではなく、「就職」してその職が気に入らなければ、あるいはマッチしなければ、離職して再就職をされても良いということを奈良県でできるようにすることも、この条例の大きな目的となります。

 そのためには、再教育、リカレント教育が必要です。例えば、学生時は工学部だったけれども、違う分野の商業を学ぶ、あるいは学生時は商学部だったけれども、工学を学ぶというようなことです。年を取ってからではなく、早い時期に分野の違うリカレント教育を受けることもできるようにすること、これは、この条例の大きな目的です。

 すなわち、まず、就労の促進を図る。その中には再就職の支援というものがあり、そのためのリカレント教育による人材の育成もあるということが、この条例の目的です。このようなことを実行するものとして条例から発した中には、県内に工学系の教育のフィールドがなかったことから、県立大学に工学部を作ろうということがあります。また、再就職で困難に合われているシングルマザーが、奈良では温かく扱われて、自分の手で稼げる、子供を育てられる県にしようということがあります。これらが就労の促進と再就職の支援といったこの条例の目的に結びついた施策になってきています。

 

 

基本理念の現実化を目指して

 この条例の基となる思想や目標に照らして、政策を実行することを続けていきたいと思います。条例を制定するだけで終わりではなく、産業政策と地域雇用政策の両者を推進していくことで、これが実現できると思っています。人材育成のための実学教育、インターンシップ、再就職の支援などを順次進めていますが、これらはみんな基本理念が一貫しており、一貫した中での中心的なものがこの条例だと思っています。この条例の理念が現実化できることを本当に願っています。