令和4年2月「なら歴史芸術文化村の開村」について

 ◆「なら歴史芸術文化村の開村」について

  (本インタビューは令和4年1月19日(水曜日)に行ったものです。)


 ポイント:

 

 1.方向性・コンセプトを良化しながら場所・財政・内容の検討を進め、3月21日開村を迎える。

 2.「『なぜ?』が芽生える。『知る』を楽しむ。」というコンセプトが、なら歴史芸術文化村の楽

  しみ方の大きな基本。

 3.なら歴史芸術文化村を継続して広く楽しんでもらうことが運営主体の課題。

 

 

 

◎3月21日開村-これまでの経過

 なら歴史芸術文化村をつくった経過としては、もとから言うと、東京藝術大学の古美術研究施設が奈良県文化会館の横にありますが、奈良市内で他にも芸術家が集まれる場所はないかということから話が始まりました。

 もう一つは、フランスのパリ郊外にマルローという文化大臣が作ったヴィラージュダルティスト(Village d’Artiste)という芸術家村がありますが、それは面白い試みで、パリの郊外に家を建てて各国の芸術家を住まわせています。

 この二つがきっかけとなり、芸術家村がつくれないか発想し始めました。芸術家が住んで地元の人に芸術を教える、あるいは作品を残すというようなことができないかと検討を始めましたが、そこからだんだん形ができてくる中で、「芸術家を住まわせる」から「芸術活動をしてもらう」方向にシフトし、芸術文化活動の拠点というようにコンセプトが変わっていきました。場所を選ぶに当たっては、文化財の多い奈良市からあまり遠くならないようにということで、天理市の杣之内町が、構想の一候補として浮上してきました。

 芸術家村の施設が必要になりますが、一松君という人が国から来ていて、副知事までして帰ったのですが、地方創生拠点整備交付金というハードにも使える交付金を適用することまでやってくれて、これが動き出したという経緯があります。きっかけは東京藝術大学の話からきて、一松君が来て、整備交付金を適用することで一気に浮上し、財政的にも可能になりました。

 このように場所と財政の支援体制が決まり、どのような内容にするのかを並行して検討する中で、良いメンバーに集まっていただきました。検討委員会には佐藤禎一さん、絹谷幸二さん、浮舟邦彦さん、大沼淳さんなどに入っていただいて、どのような考え方で作ろうかという話が進みました。そして、いよいよ予算を付けて工事が始まりました。その一方、運営の内容をどのようにするかについて、コミッションを組織化し、青柳正規さんや籔内佐斗司さんなどに委員にご就任いただき、なら歴史芸術文化村の活動について知恵をいただいてきました。

 このような経緯があり、321日に開村することとなりました。

    

◎「『なぜ?』が芽生える。『知る』を楽しむ。」

 芸術文化活動の内容を積み上げてきた中で、今話に出てきていますのは、芸術文化を出汁のような味付け役にして、「『なぜ?』が芽生える。『知る』を楽しむ。」という活動をなら歴史芸術文化村でしてもらうことです。芸術文化活動の本質的なところであって、人間は生きている間には不思議に思うことがたくさんあるので、それを少しでも知ると、すごく楽しいと感じるということが芸術文化活動の基本にあると考え始めました。高齢者にも若い人にも教え込むのではなく、自分で「なぜ?」を芽生えさせて、その理解が進むと楽しいことがありますよという村にしようということになっています。

 それは、特定の文化の中で特定のものを奨励するというタイプではなく、いろいろな文化がある中で、どうしてそのようなことができるか、やっているのかという異文化理解まで視野に入ってきます。これは今の時代、とても大事だと思います。異文化交流というコンセプトが入ってきたことで、奈良の文化を奨励する、日本の文化を高度化するという従来の文化振興の手法とは、全く異なります。「知る」を楽しむことが一番大事なことです。どのような文化でも、それぞれ値打ちがありますので、「なぜ?」そういう文化があるのかということを楽しみましょう。「なぜ?」を芽生えさせて楽しみましょう、知って楽しみましょうというようなコンセプトになって、これはなら歴史芸術文化村の楽しみ方の大きな基本になりました。奈良の文化財や日本の文化を振興するというよりも、いろんな文化を楽しみましょうということです。

 奈良には文化財が多いので文化財との対話型鑑賞、あるいは文化財を修復したりするときの対話型鑑賞のなかに、「なぜ?」が入ってくる。対話で返事があると、「そうなのか」という理解につながる。これはとても良い芸術文化の基本になり、「なぜ?」と「そうなのか」が対話型鑑賞の大きな基本になってきます。お子様などもおられますので、体験は大事で、いろいろなものを作ったり、見たり書いたりすることで、人間の感じ方、理解の仕方が発展してきました。このように覚えましょう、書きましょうではなく、このように書くのはどうしてか、何か違いがあるのかということを、好きなように書くことから体験しましょう、このように書くべきと教え込む体験ではなく、手探り体験で好きなように書いて楽しみましょう、というようなことが基本の考えです。これはすごく進んだ考え方だと思います。それを、なら歴史芸術文化村で実行しようと思います。

 なら歴史芸術文化村は、天理市の杣之内町にありますが、眺めの良いところから地元の地域を楽しむことができ、近くの山の辺の道を歩くことや石上神宮に行くことで、その空間を楽しむというように、なら歴史芸術文化村の中にないものも楽しむことができます。自然の環境と、芸術文化の頭脳・感性を使う体験、あるいは対話型鑑賞はそれぞれ違う分野の活動ですが、人間だから色んなことをすることが大事で、それができる良い環境があるところだということです。さらに、食事や買い物、観光を楽しむことも、この場所で実行できます。ホテルや道の駅を併設するなど、複合的な施設になっていますので楽しみです。

 芸術文化活動を通じて「知る」を楽しむ、あるいは体験を通して感性を楽しむとともに、地域を楽しむ、食を楽しむこともできます。これは比較的新しい考え方で、このような施設は奈良県では珍しいことかもしれません。


◎今後の展望

 なら歴史芸術文化村という言葉にとらわれず、広く楽しんでもらいたいと思います。対話型鑑賞や体験を通して楽しんでもらうことを、どのように元気に継続していくかという課題が、我々運営主体にあります。

 楽しむパターンや楽しみ方をどんどん実行して発展させていきますと、とてもいい施設になると思います。歴史・芸術・文化の体験では、昔の歴史そのものを体験することはできないけれども、その意味を知る体験ができます。どのように体験を実行していくかは、これからの知恵だと思います。関係者の方々にいろいろと知恵を絞ってもらい、実行、実現できることを期待しています。