◆「奈良県文化振興条例の制定」について
(本インタビューは令和3年5月31日(月曜日)に行ったものです。)
ポイント:
○文化振興条例には、「歴史文化資源の継承と活用」と「文化活動の振興」の2分野がある。
○文化活動において自己表現することにより、アイデンティティ、自尊心を自覚し、人の内面を豊かにする。
○文化活動はより重要になってきており、文化活動の場・機会を設けることが大切。
|
◎文化振興に係る2つの分野
文化振興条例には「歴史文化資源の継承と活用」と「文化活動の振興」という、2つの意味が入っています。この2つは互いに関係し合っていますが、それぞれ意味が違います。歴史文化資源とは文化財を含む概念です。文化財を保存だけでなくもっと活用しようというふうに舵を切ったのが、この条例の大きな意味の一つです。一方、文化活動は文化財がなくても大事なものとして存在しています。それぞれに意味があることを頭に入れて、混ぜこぜにしてはいけないという気持ちがあります。
文化活動というのは、文化財のために行うのではなく、人間が持って生まれた活動のパターンだということがだんだん認識されてきています。日本はかつて、文化活動の意味にあまり重きを置いていませんでした。生きていく、食べていくのが基本であり、その次に文化活動があると思っていました。けれども今は、人々がある程度食べていけるようになり、文化活動はより本質的な意味になってきています。特に、高齢化が進み、生きていく意味をより見つめる時代になってきたので、文化活動はさらに意味が出てきています。文化活動をどのように考えるのかということは奥深く、幅広くなってきていると感じており、文化振興条例の制定に至ったように思います。
いくら経済的に豊かでも不満が残るもので、この物足りなさを埋めるのが文化活動だと思っています。文化活動は形にはめて制約的にするものではなく、自発的・内発的、つまり心の中から出る活動として尊重し、その心の中の動きを表現しよう、伝えようということが基本になっている気がします。
◎文化活動によるアイデンティティ、自尊心の自覚
文化活動は自己表現という形にもなります。字を書いたり絵を描いたりする時に、「同じ字を書くときれいでしょう。」ではなく「どうしてこういう字・絵をかいたのか。」と聞いて、作者の内面と会話することも大事です。なら歴史芸術文化村は後者の方で、同じことを教えようということではなく、自己表現をすることで私はこういう人だったという自覚が発生し、自尊心へとつながっていきます。
自己表現することによって私はこういう者だとい
うアイデンティティを自覚することが、文化活動の大きな意味です。例えば「なぜこの色を使ったのだろう。」や「今はこの色を使いたい気持ちだったのかな。」ということを誰かに話して、「なぜこの色を使ったの?わからないけれど、こういうことかな。」と聞かれて考えたりすることで、「これは、自分の本質から出た色なのか。」ということに気づくことが、芸術の素材を使った自己認識の過程であり、自尊心につながると考えます。
◎文化活動の場・機会の提供
自己の表現はどういうことかということを常に探求しながら表現するのが人間で、それが文化活動という風に定義すると、活動の場を、機会をつくるというのが大事です。高齢者から、働いている人やこれから働こうとする人へ世代を渡って継承して伝えていくことは、いいパターンであると思います。
そのため、ある程度人生を過ごした人の活動を、これから過ごそうとする人に文化の意味とか考え方を伝えていく場が必要です。その場から視野がどんどん広がっていくこ
とで、文化活動自体がフロンティアになるというのが大きな考えです。文化活動の場・機会をつくることがその地域の、文化活動の盛んさ・高度化を表し、人の内面を豊かにしているはずです。それの場をつくろう、そういうことのできる場をつくろう、あるいは機会をつくろうというのが、奈良県文化振興条例の基本になっていると思います。
経済のお金が動いた量ははかりやすいが、気持ちの高度化した量はわかりづらい。ただ、この気持ちが高度化することが今の時代、大事だと考え、奈良県文化振興条例をつくりました。これらをどのように進めるか、これからの知恵・活動をどのように行うかが大事だと思います。