令和3年3月「新たな森林環境管理制度」について

 ◆「新たな森林環境管理制度」について
 
(本インタビューは令和3年2月24日に行ったものです)

 

ポイント:

○森林環境管理の考え方を、木材の栽培でなく、山を山として維持するという考えに変えた。

〇山を山として維持するために、森林の管理(伐採届の管理権限)を市町村から県が引き受ける。

〇県が職員としてフォレスターを雇い、森林管理を行う。

 

 

 

◎山を山として維持する(新しい森林環境管理の考え方)写真

 奈良県の森林環境管理制度には大きな特徴が幾つもあり、今までの森林管理制度と全く違うところがあります。
 これまでの日本の森林管理は、材木を切り出すことが大きな目標であり、山の値打ちは材木だと思われてきました。それでは危ない。なぜかというと、山を山として維持する努力がなくなってくる。材木を切り出して後は放っておくと、土がしっかりしないでどんどん流れていく。また、植え替えを行う時に、幹の太い木、早く成長する木ばかりを植え、早く切り出して、次に同じように植え替えると山が弱くなります。
 スイスや南ドイツの森林環境管理は、山が弱くなった経験、災害が起こった経験から、そのような木ばかりを植えるのではなく、山の様子を見て、何を植えればいいか判断するやり方で、それを日本で初めて導入します。日本で初めてということをあまり宣伝していませんが、すごく大きな意味があります。森林は、材木を切り出すのを主たる目的とせず、山を山として維持することを主にするという、哲学的に大きな違いがあります。
 具体的にどのようにするかというと、恒続林(多種多齢の地域植生で構成される針広混交林)という考え方になりますが、自然の山は、針葉樹だけでなく広葉樹も入ってきていますので、なるべく自然な状態に戻せば山が強くなるという思想です。植え替えの時に、同じ種類を植えず、針葉樹と広葉樹を混ぜ、山の性質にもよりますが、山を観察して植え替えていきます。
 (条例名「奈良県森林環境の維持向上により森林と人との恒久的な共生を図る条例」の)「森林と人との恒久的な共生」というのは、森林の切り出しだけではなく、山は山としていてくださいね、ということです。

 

 

 

 

◎森林の管理を市町村から県が引き受ける
 
なぜ、恒続林ができなかっイラストたというと、私有林だから、皆儲かる幹の太い木、早く成長する木に向かいました。それを抑制するには、行政の管理が必要となります。
 木材を切り出す管理は、市町村が伐採の届けを受けることになっています。しかし、市町村だけで伐採届の管理を行うのは、人員の問題などがあり、なかなか難しい。
 私有林だと、適時に儲からなくても切り出すということをせず、儲かる時だけ切り出します。このようなことは非常に危ないと思えて、伐採届の管理は、日本の森林法では市町村に権限が下りていますが、県に権限を譲ってもらい、県が管理しましょうということになりました。

 

 

 

 

 

 

 

◎フォレスター制度の構築イラスト

 その思想に基づいた山の管理を具体化したのがフォレスター制度です。フォレスターが現場に行って、次に植える木の種類の指示を行うなど山の管理を行うというものです。
 スイスのフォレスターには、この木は何年後に切りなさいということまで指示できる権限があり、それは実際に山を見てみないと判断できません。これを日本で初めて奈良で実行するということです。
 フォレスターという、山に入りその山を見る能力のある人を育てないといけませんので、奈良県フォレスターアカデミーを令和3年4月に開校します。
 フォレスターは県職員になりますが、市町村の権限を実行するので、市町村の森林環境譲与税を充てて下さい、県も職員の人件費を出しますので、と合わせ技でしました。基本的には市町村の権限を県に移譲することに賛成いただき、いよいよこれからスタートします。
 スイスのフォレスターのような人を、奈良県フォレスターとして育てたいと思います。スイスのフォレスターと交流して、奈良県のフォレスターもいいところ出てきたよ、という風になるとよいですね。

 

 

 

 

◎県産材の安定供給と利用の促進について

 森林環境管理と併せて、違う条例になりますが、県産材の利用も促進します。
 山の木を切り出す時に、売れるところだけを切り出すのではなく、根元から、細い幹の部分まで、ABC材と言っていますが、すべてを供給することを目指しています。
 例えば、今まで売れない木は、木質バイオマス等その他の用途として活用する等、処分の仕方を工夫するといった川下対策を行うことによって、山の木が流れるようにするというのが、もう一つの条例(奈良県産材の安定供給及び利用の促進に関する条例)の意味になります。
 木材利用というのは、住宅利用も大きな需要としてありますが、切り出しコストに見合うようには売れない面があるため、流通全体として流れるようにしましょうというやり方を目標にしています。

 

 

 

◎終わりに知事写真

 フォレスター制度を作ったきっかけは、新聞の書評で村尾行一さんという方の本が掲載されていて、その本には日本の林業は木材栽培業で、木材栽培業というのはおかしい、山の管理がうまくいかなくなる、災害が起こるものだと書いてあり、これはすばらしい考えだと思って、村尾さんに来ていただき、条例が出来上がりました。
 また、スイス・ベルン州との交流や元スイス・リース林業教育センター校長のアラン・E・コッハーさんとの繋がりもあり、理屈の面は村尾さんに教えていただき、実践の面はコッハーさんに教えていただきました。
 ベルン州との交流やコッハーさん、村尾さんという人脈の中でフォレスター制度が出来上がりました。不思議なことが起こるもので、それは同じタイミングでおつき合いがあったからです。
 日本で初めての条例が策定され、この先50年、60年かかりますが、奈良の山は他とは違うふうになればと思います。