◆「奈良県の更生支援の取組」について
(本インタビューは8月25日に行ったものです)
ポイント:
(1)地方の立場から出所者の更生支援に取り組むことに
(2)困難に遭っている人であれば、障害者でも出所者でも同様に支援する
(3)出所者に就労の道をつけるため、県が財団を立ち上げて出所者を直接雇用
(4)県の取組を通じて、罪を犯した者に対する社会通念が変わっていくことを期待
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◎地方の立場から出所者の更生支援に取り組むことに.jpg)
私が参議院議員の時、法務委員会に3年いて、刑務所の視察などで出所者の関係にふれ合いました。そういうきっかけがあって、出所者を県で直接雇って更生しようという事業を始めたところ、更生は司法行政の中にありますが、外とつながっていないことがわかってきました。刑務所の中にいる間や保護観察の時は司法行政の中で更生事業がありますが、刑が満期になると司法行政は及ばなくなります。今の刑法の考え方では、罪を償った人には普通の扱いをするので、精神的に傷ついたり、社会的にハンデを負ったりした人を更生する仕組みが日本にないことがわかりました。それをどうするかという問題に、地方行政の立場から直面しました。
そのような折、保護司の全国大会での講演依頼をいただきました。保護司は保護観察が終わった後も出所者と個人的に付き合いますが、それは法の枠組みの外になっています。司法行政はここまで、となっているので、誰かが拾わないといけません。保護観察後のことが残されているということがわかってきたので、「保護司の嘆き」というペーパーを書きました。保護司は「利他心」でいろいろ取り組まれていますが、更生に入り込んで気持ちが移ってしまうと、精神的にしんどくなってしまいます。利他心がないとできない仕事だけれども、利他心が溢れると大変だよということで、保護司の嘆きをどのように励ましましょうかというお話をしました。「地方の矯正行政にも力を入れないといけない」という発言をしたところ、その会に野沢さん(元法務大臣)と横田さん(元法務省矯正局長、元最高裁判所判事)がおられて、地方からそういう声がかかるのは大歓迎という雰囲気で、私は「横田さんに手伝っていただけるなら」と思わず言ってしまいました。
◎困難に遭っている人であれば、障害者でも出所者でも同様に支援する
取組の
スタートでは、横田委員長による勉強会に集まっていただいた方々が素晴らしかったです。更生支援の取組が大事だとすごく思っておられる方ばかりでした。
委員の方がおっしゃったのは、「障害者の困難と出所者の困難とは、イタリアでは同一視され、同じ扱いをされている」ということでした。日本では制度的にも社会通念的にも、出所者は悪いことをした人であり、出所者と障害者は随分ステータスが違うのが現実です。一方、イタリアのようなキリスト教の文化では、困難に遭っている人は差別しないと言われ、目からうろこが落ちる発見でした。
◎出所者に就労の道をつけるため、県が財団を立ち上げて出所者を直接雇用.jpg)
生活が困難になった人は生活保護等の仕組みがありますが、罪を犯して困難に遭っている人は罪を償っても困難に遭い続け、再犯率が高くなる構図が見てとれました。
そのため、県は障害者も出所者も同じように福祉の分野で扱うということから発想して、出所者の「困難」の第一は、一人で経済的自立ができないことなので、就労の道をつけようということになりました。アメリカでもヨーロッパでも、キリスト教の国では、罪はここまでと割り切って、あとは自分で頑張って能力をつけようということで、アメリカでは出所者の職業教育が州知事の権限になっています。しかし日本では、そのような職業訓練の仕組みが文科省でも厚労省でもないということで、地方が横から入って、司法行政に接続して福祉の分野でするべきではないかいう発想が事業の入口でした。
どのようにしようかという議論をしていく中で、就労の道をつけるために、インターンシップをする組織があった方が良いだろう、そして、以前に出所者の更生に取り組んだときに県で雇い入れた経験があったので、インターンの母体になる県の組織で出所者を雇い入れて就労の道をつけるという手法を思いつきました。それを経常的にできるよう、財団を設立し、そこで雇い入れて給料を出せば安定するのではと考えました。
どのような職業につけるのかについては、五條市のバイオマス発電の会社から、バイオマスの材木がなかなか出てこないというお話があったので、バイオマス搬出事業を財団の事業にして、出所者が森で働くという道がないかと考えました。最初の事業として、五條森林組合と共同で行うバイオマス搬出事業という道が出てきました。
◎県の取組を通じて、罪を犯した者に対する社会通念が変わっていくことを期待
これからは、出所者が実際に更生されて、世の中に出て行く人が一人でも増えるように、輩出していく義務があると思っています。
出所者の方々には、いろいろ難しい経験をされ、傷ついておられる方が多いと伺っています。奈良県のこの財団のような矯正施設では、とにかく誕生日会を開催してください、あなたは祝福されて生まれてきているはずだから、身近な肉親がそばにいなくても、肉親代わりの者が誕生日会という形で愛情を注げるようにしてください、というお願いをしています。
以前の社会では障害者への差別がありましたが、パラリンピックなどを通じて、障害者が普通の人と一緒に世の中に出ることが普通になりました。社会通念は変わりますので、障害者だけでなく、犯罪者に対しても社会通念が変わってくることを期待しています。そして社会通念という阻害要因がだんだん薄くなっていくことを、このような事業展開の中で実現できれば嬉しく思います。