◆「ジャポニスム2018:響き合う魂」における奈良県の取組について
【ポイント】
・奈良の文化財を海外へ発信 仏像展示とジャポニスム2018
・精神的な味わいの深い春日若宮おん祭がパリで大好評
・海外展示の醍醐味 パリの方々の目線を通して奈良の魅力を再発見・再確認
・奈良の観光戦略 アメニティの強化に加えて、海外プロモーションも強化 |
◎ 奈良の仏像海外展示について
ジャポニスム2018は、2016年5月安倍総理大臣とフランスのオランド大統領(当時)との話し合いで決まった、パリを中心にフランスで日本の文化を発信するイベントです。当時、県は奈良の文化財の魅力を海外へ発信するため、仏像を海外で展示するプロジェクトを進めていました。そのような中で、ジャポニスム2018の一環として行いたいという話があり、ジャポニスム2018の公式企画としてギメ東洋美術館で開催することとなりました。
◎春日若宮おん祭と「スピリチュエル」
無形文化財も含めて奈良の文化財の魅力を海外に発信しようとする中で、ジャポニスム2018の公式企画「『地方の魅力』-祭りと文化-」において海外で初めて「春日若宮おん祭」をアクリマタシオン庭園で10月21日、22日の2日間披露しました。1日目は2万7000人(主催者調べ)という大勢の方が来られました。会場となった庭園が狭かったこともあり、見物客が「お渡り式」の行列のすぐそばに迫るほどの大盛況でした。会場となった庭園が3万人近い見物客で埋めつくされている様子に担当者が驚いていました。私が参加した2日目も引き続き大勢の方にお越しいただき、初めて目にする春日若宮おん祭を興味津々でご覧いただきました。
日本の祭りや踊りは賑やかなものも多く、例えば、阿波おどりや信玄公祭りなどは表象的にきらびやかで賑やかなものですが、春日若宮おん祭は、静かでとても精神性が深いものと評価されたような気がします。
このことは奈良公園のポスターにも表れています。「Escapade
Spirituelle」フランス語で「精神的な味わい深い散歩」という題がつけられた、とても良いポスターです。私は「スピリチュエル」という言葉が大好きですが、奈良の本質を表したこの「スピリチュエル」がポスターや春日若宮おん祭の行列を通して、パリの人々に感じていただけたと思います。
精神性とは、私は神との結びつきだと思います。神との結びつきには様々な形があり、祈りというのも一つ。祈りについても、こちらから何かをお願いするだけでなく、神からの語りかけもあると思います。これは神と我々との交流になり、これは奈良だけでなく日本全体に通じることですが、祭の中に神との交流という雰囲気を無言で醸成する伝統があると思います。約900年続いている春日若宮おん祭という奈良の伝統の中でもそれは表現され、行列や「スピリチュエル」のポスターを通してパリの人々が感じたことではないでしょうか。
◎海外展示を通して奈良の魅力を再発見
奈良の文化はとても奥深いですが、私たち自身がその価値をよく知らないまま保存していた面があったのではないでしょうか。私たち自身が価値をしっかり理解した上で、海外の人々にその魅力を感じてもらうことが、文化の海外展示の本質的なポイントです。我々日本人が思い
もよらない新たな魅力や価値を海外の人々が発見してくれるかもしれません。これが海外展示の醍醐味です。
今回の展示を通して、春日若宮おん祭には精神の味わい深さが内在していること、そして精神性があるからこそ、伝統と言われるまでに長く続いてきたのだと再確認できました。その意味で、春日若宮おん祭のお渡り式を海外で行ったことは大きな意味がありましたし、ギメ東洋美術館での仏像展示でも同様のことが起きるかもしれないと期待しています。
海外で展示を行うことで、奈良の魅力を再発見できるだけでなく、海外の人々に奈良に興味を持っていただき、実際に奈良に来ていただける可能性も高まります。もちろん、海外でも儀式の行程等を見て感じていただくことはできますが、海外と奈良とでは環境も異なるので、奈良で見るとまた違った面を感じていただくことができます。精神性や神との会話というのは、ロジックで説明するよりも実際に体感いただくものですので、現地に来ていただくのが何よりです、と言いたいです。
ジャポニスム2018における奈良ゆかりのものとして、オープニングでの河瀨直美監督の新作映画の上映がありました。河瀨直美監督は東京オリンピックの公式映画監督にも指名されましたので、大変うれしく思っています。
◎奈良の観光戦略 海外プロモーションを積極的に
パリでは奈良の文化の展示に加え、大阪万博のプロモーションも行いました。同行された関西経済連合会の方々はプロモーションに奔走されておられたので、2025年の万博開催地が大阪に決まったことを大変うれしく思っています。
プロモーションの一貫として、関西経済連合会と一緒にレセプションを行い、200人以上の方にお越しいただき、そこでパリでは初めてとなる奈良の宣伝を行いました。ヨーロッパで単独での宣伝は今回が初めてです。奈良には世界中の人々に来ていただいていますが、どこで観光プロモーションを行うことが効果的なのかわからなかったので、今までは、関西空港に着いた人々を奈良県に誘導することや奈良に訪れていただいた方に口コミで良い印象を広げてもらうことが一番の宣伝だと考え、アメニティーの改善に力を入れてきました。しかし、今回改めて奈良は海外からの人気が非常に高いと感じました。パリのジュンク堂書店に置いていたフランス語の奈良のリーフレットが半日で無くなったと県の担当者から聞きました。このように、奈良という素材は海外から興味を持たれていることがわかったので、今後は自信を持って海外プロモーションを増やしていきたいと思います。
しかし、宣伝が良くても、実際奈良に来られてがっかりされては意味がないので、今後も奈良のアメニティーをもっと改善していきたいと思います。そして、実際に来てみたら、宣伝よりもさらに素晴らしかったと思っていただくのが戦略の大きな要です。アメニティを向上して、あわせて海外での広報をもっと積極的に行い、奈良の宿泊客を増やしていきたい、このような観光戦略を考えています。