平成30年6月「奈良県における国保県単位化の取組」について

◆「奈良県における国保県単位化の取組」について

【ポイント】

・市町村規模により保険が影響を受ける現状を解消 国民健康保険の県単位化
・地方分権改革により、国と県、県と市町村の関係が変化 上下・主従の関係から対等・協力の関係に
・国と地方の新たな関係:地方の「縦突進」と国の「横展開」
・奈良モデルの定着 市町村と協働して安定した医療提供と保険制度の構築
・平成36年度からは、同じ所得・世帯構成であれば、県内のどこに住んでも保険料水準が同じとなることを目指します
                                       


◎地方分権改革による国と県の関係、県と市町村の関係の変化
知事_
 平成11年に成立、翌年に施行された地方分権一括法により、国と地方は対等な関係になりました。そして、国の事務と地方の事務を分ける形となり、地方の自由裁量の範囲は広がりました。
 しかし、地方分権一括法では、県と市町村の立ち位置についてははっきりと規定されていませんでした。私は、国と地方が同じ立場で、県と市町村も平等、同じ立場だと考えていました。地方分権一括法により、現場に近い各地域から知恵を出さなければいけない時代になっています。

 

◎国民健康保険(国保)の県単位化が平成30年4月からスタート

 社会保障の現場において医療と介護を支えているのが、健康保険と介護保険です。介護保険は市町村運営ですが、国民健康保険はこの4月より県営化しました。
 奈良県の医療については、12年前に起こった医療事故をきっかけとしてその必要性について認識したところであり、県の医療を良くしようとこの10年一生懸命取り組みました。
会議
 奈良県の医療において、持続性のある医療制度とするには、地域医療の提供(受益)と保険料負担(負担)が課題でありました。この受益と負担の関係がアンバランスであることを解消するために、国保を県単位化しようとする動きが出てきたのですが、知事会の中でも、少数ですが、国保の県単位化を主張される知事がおられ、私も、その方々の仲間として県単位化に賛成と主張してきました。
 旧運輸省時代に自動車損害保険の担当局長をしていたこともあり、保険は土台が広い方が安定するという観点がありました。奈良は医療サービスの提供体制が貧弱な環境にあり、国保が県単位化されないと大変影響を受ける小さな市町村があることを念頭において、平成24年から国保の県単位化を提唱し、市町村と協議を行ってきました。知事会の中でも、国保の県単位化に賛成する知事と共に、都道府県が中心になって一体的な制度を作るべきだと訴えてきました。
 そして、平成30年4月からようやく、県が中心になって保険を一体的に運営する制度がスタートしました。国の制度が奈良県の考えに追いついてきました。

◎地方の「縦突進」と国の「横展開」

 地方分権の考え方の基本は、失敗しても良いから、やり方を工夫して突出する地域が出れば良い、というものです。これを地方による「縦突進」と言っています。
 国は、縦突進、ラグビーでいうタックルを受けると、どういう動きをすればこれが良い突進力になるのかを見ています。そして、良い突進だと思えば、国はプレイヤーとして、このやり方を「横展開」します。特に、社会保障の分野は、地方の「縦突進」と国の「横展開」による支援という役割分担の形が見えておもしろいと思っています。
  

◎安定した医療提供と保険制度の構築illsut

 このように制度がスタートしましたが、これを平成36年に向けて定着させるという課題が残っていますので、市町村と一緒に取り組んでいこうと思っています。この背景には、奈良モデルという県と市町村の協働関係がだんだん定着してきたということがあります。
 例えば、県と市町村が連携して、南和の三病院を合わせて、過疎債を活用して一つの医療企業団を作りました。県は過疎債の対象とはなりませんが、市町村の起債償還額の約60%を県が負担する形で、病院もできました。このことで良い医師も集まり、南和の医療提供は前進しました。しかし、小さな市町村が多く、高齢化も進んでいる南和地域は、負担面つまり保険料の面では課題が多いため、国保を県単位化することで、南和の保険は安定すると思います。これを、南和だけでなく、県全体について取り組もうとしています。急性期医療からリハビリ、退院後の在宅医療等の地域包括ケアまでの一貫した動きを地域において確保するため、地域医療構想の実現を目指しています。
 このように、医療サービスの県内での均一化を図ると同時に、市町村とともに健康を増進することにより、無駄な医療を無くし、医療費を抑制することで、医療提供と負担のバランスを取ることができる仕組みをこの4月からスタートさせました。これは、奈良県が現場のことを考えながら市町村と合同で取り組む奈良モデルの延長だと思っています。
 また、奈良県の「縦突進」がうまく行けば、国が「横展開」をしようという動きになっており、実際、国の社会保障制度改革推進会議でも奈良県がプレゼンを求められました。

◎保険料の県内統一化について知事


 県内で保険料が同じ水準となることが社会保障の理想の形です。平成36年度には、同じ所得・世帯構成であれば、県内のどこに住んでも負担は同じだということを実現することを明確な目標にしています。市町村別の負担については所得の差がありますし、所得は低いにも関わらず医療費は高いというバランスが取れていない市町村もあります。これを、バランスが保たれた同一の保険集団にしませんかというのが、今回の国保の県単位化の取組です。隣の町は保険料が上がっても良いけれど、うちは嫌だというのが人情ですが、そうすると保険制度として維持できません。保険制度は税金で回っているのだから、小さく回すよりも、大きく回すことにより、負担の公平化を図り保険制度を維持する方が良いと考えています。