平成29年10月「統計から見た奈良県のすがた」について

-知事から職員に向けてのメッセージを、県民の皆さまにもご覧いただきます。-

「統計から見た奈良県のすがた」についてについて
       (職員向けメールマガジン 平成29年10月20日号掲載)

統計を重視した施策の展開

知事 統計を重視した施策の展開が今の行政には求められています。統計の重視とは、エビデンスベースドと言われるような行政・政治の運営手法と言い換えることが出来ます。政策を思い込みや観念的なもので進めるのではなく、エビデンスすなわち実証をもとに進めるものです。統計結果があればこれを根拠として具体的に何がどのように変わったかということを説明できますし、またその変わった内容・根拠をベースとして次なる展開を検討することにつながります。

 PDCAサイクルを検証するうえでも統計が求められており、そのうち「C」にあたるチェックの分野でエビデンスベースドの考えが大いに役立ちます。したがって、PDCAとエビデンスベースドはペアになるものと思われます。

 統計に基づくエビデンスとは具体的にどのようなものかということを、「健康寿命を延ばす」ことを例に挙げてみます。「人の健康寿命が○歳まで延びた」ということは絶対基準ですが、「健康寿命が全国第○位」ということは相対基準です。奈良県の場合、平成27年の調査結果では、男性は3位、女性は28位となっています。このように相対基準はランキングとして表されることが多いのですが、奈良県のランクは少しずつ上がってきているため、健康を取り巻く環境が改善されていると言えます。健康寿命が全国的に延びていると言われますが、この良くなっているという点は数字を用いて説明しなければ目に見えてきません。

 また、障害者の民間企業における実雇用率が、奈良県は2,60%でありこれは全国1位となっています。健康づくりや障害者に対する施策等に努めてきた結果がPDCAのC、チェックの段階で統計上も表れてきています。

 
統計から見る行動指標と成果指標
 統計から行動指標と成果指標を導くこともできます。先ほどの健康寿命を例にあげると、「健康寿命を0.5歳延ばしたい」、「健康寿命のランキングを全国1位にしたい」ということは成果指標です。これを達成するため、「もっと野菜を食べよう」、「がん検診を受けよう」と掲げることが行動指標となります。行動指標については、自分で取り組む目標なので具体的にイメージしやすいのですが、成果指標はそうではありません。様々な取組の結果がどうなったかということを示す指標になるので直接的な目標にすぐにはなりません。

 似たものでアウトプット指標とアウトカム指標があります。アウトプット指標は「ある取り組みがある結果に直接結びつく」ということを示すもので、行動指標・成果指標と似ていますが同じではありません。両者で表される数字に異なるものはありますが、目標を決めて達成度を判断しようとする点は同じです。達成度について評価を行うことは行政として大きなチェックポイントといえるものですので、統計に基づくエビデンスの考え方は重要です。 

 

◎統計を活用した市町村への関わり

illust 統計については、県だけでなく市町村のレベルも上げていきたいと考えています。例えば、健康増進のために総合型地域スポーツクラブが市町村別にどれだけ設置されているのかを調べると、様々な違いが明らかになりました。なぜ違いが生じているのかということを、設置が進んでいるところと進んでいないところの違いを分析することにより、遅れている市町村に対し、県から取組を促すなどのアクションが行いやすくなります。

 市町村に対する成績表とも呼んでいますが、様々な施策についての市町村のランキングを出すことも県の役割の一つです。ランキングを出したことにより大きく改善された市町村もあります。努力したら変わるんだということを数字で「見える化」することも重要です。


◎統計から奈良県の強み・弱みを把握

  また、施策全体の中で、全体のバランスがとれているか、どのようなトレンドが出ているかを確認することも行っています。例えば、達成度をレーダーチャートグラフで表現した場合、全国平均であればその形は丸くなります。全国平均を下回るものがあればその部分がへこんできます。デコボコがある場合等、全国平均と比べてどのようになっているかという点で判断しています。

 奈良県の場合、経済の分野は大変収縮しています。様々な点で経済面が弱いことを示す結果が出ている一方、住まいという面から見ると割と良い傾向が表れています。つまり住まいに関して奈良県は良いのではないかと説明できます。

 観光に関する分野においては、特に「訪れる」という面から見ると良い面も悪い面も表れてきます。文化財が多いということは強みと言えますが、宿泊客が少ないということは弱みとなります。弱みを抱えているため、レーダーチャートグラフが丸くなっていない=バランスがとれていないことを認識したうえで、全国平均を下回っている分野を伸ばす方向性を定めることが必要です。このように判断していく際にも統計を利用しています。

 

◎統計リテラシーの向上について

知事  行政の「見える化」がよく言われていますが、現実を「見える化」するためには統計を活用する他ありません。統計でしか見えてこないものを分析するために苦労や工夫をしてきたおかげで、奈良県の統計リテラシーが向上してきていることは非常に喜ばしいことです。情報やデータと言われますが、データは数字等が単に並んでいるだけのものであり、意味のあるように並び替えなければ役に立ちません。

 例えば、あるランキングについて、北から順に市町村を並べただけでは判断しにくいのですが、成績の良い順番から並べることにより、なぜこの市町村は成績が良いのか、もしくは悪いのかといった分析の材料となります。これらの結果を縦軸と横軸に入れ込み、4象限で分析することで、項目間の相関関係から問題点の把握、今後取り組むべき事項の優先順位といった判断材料等に関する新たな示唆を得ることができます。統計の使い方次第で分析の幅が更に広がっていきます。

 様々な分析結果については、県政を推進するうえでの大変有力な武器となります。分析力を向上させるとともに、分析結果を検討し、より良くするためにはどうすれば良いか知恵を絞っていくことが重要です。

◎統計から見た様々な分野における奈良県の躍進

illuts 統計から奈良県の様子を見ると、様々な分野で奈良県の躍進を見ることが出来ます。こんなに奈良県が良くなってきたのかととても嬉しく思っています。

 経済の分野では、かつては工場立地件数が少なかったため、年々努力してきました。近年は毎年20件を超える工場が県内に建ってきましたが、平成28年は32件となり、全国12位、近畿では2位となりました。障害者の雇用率は先にも述べたとおり、全国1位となりました。

 医療の分野では、「がんによる死亡者の減少」という目標に対して、平成17年の調査結果※は、奈良県は全国34位で大変低かったのですが、10年後には全国9位となりました。この10年間の死亡率の改善幅については全国1位となっています。

 因果関係を分析することで、改善につながる取組を導き出すことができます。この取組が良い結果に結びついたと意識することで、さらに取組を推進しようという意識につながります。このことで良くなった取組や数字がいくつもあります。

※75歳未満年齢調整死亡率

◎統計の整備や利活用のさらなる推進に向けて

 

  奈良県を取り巻く絶対基準の数字が良くなっていけば、その良さを体感することができますが、どの程度良くなってきたのかということはそれだけではよくわかりません。全体の中でどの程度のレベルまで求められているのかということは統計でしか説明できないと思っています。そのため奈良県では、統計の整備や利活用について、今後も力を入れていきたいと考えています。