平成29年7月「奈良公園周辺の賑わい」について

-知事から職員に向けてのメッセージを、県民の皆さまにもご覧いただきます。-

「奈良公園周辺の賑わい」について
       (職員向けメールマガジン 平成29年7月20日号掲載)

奈良公園の歴史

知事 奈良市に以前から人口が集中しているのは、今の近鉄電車が奈良公園の近くまで乗り入れて大阪と鉄道で結ばれるなど、交通の利便性が良いことが理由の一つとして挙げられます。そもそも鉄道が整備されたのは、お参りの目的となる社寺がそこにあったためで、かつては、大都市から橿原神宮や伊勢神宮、東大寺などへお参りするために鉄道が利用されていました。今では、その社寺の周辺に住んで大都市へ通勤するという手段に変わり、奈良市はこのような状況の下で発展しました。

 奈良市の中でお参りの目的となった東大寺・興福寺・春日大社については、現在はその境内が奈良公園の一部となっています。奈良公園は、明治時代に、興福寺旧境内地の風致景観を守るため、この一画を公園としたことが始まりであり、日本を代表する公園として広く親しまれています。社寺一体となって守られてきた奈良公園には世界中から多くの観光客が訪れています。奈良県庁も興福寺の旧境内に建っていますが、これも歴史的な配置だといえますね。

 

 

奈良公園までのアプローチ
illust 奈良公園は、市街地のすぐそばに閑静な公園の佇まいが今もなお残っているということに大きな価値があると思います。今も奈良公園内の社寺にお参りする方が多いのですが、山辺の社寺にお参りする場合は坂を登ることになります。また、歩いてお参りすることが多いため、足をとても使うことになります。欧米の公園は平坦であることが多いのですが、日本の公園は坂が多く、園内に社寺がある奈良公園は特にその傾向が顕著であり、高齢者にとっては厳しい環境です。

 奈良公園を訪れる観光客の多くは東大寺大仏殿に向かいます。大仏殿付近の県営駐車場や民間の駐車場への車で朝夕にかけて慢性的に混雑しますが、これが奈良公園全体の渋滞に繋がっています。渋滞問題の解決のため、奈良公園の来訪者には、奈良公園から離れた場所に駐車してもらい、そこから各地点にアプローチしてもらう手法が効果的だと考えられますので、県ではぐるっとバスの運行や(仮称)登大路バスターミナルの整備に取り組んでいます。

 

 近年、ならまちが急速に賑わっているとのことですが、その理由の一つとして、ぐるっとバスがならまちを回るようになったことが挙げられると思います。地域住民の努力があってこそですが、交通体系の整備がまちの賑わいに結びついているのは非常にうれしく思います。

 

 第二阪奈道路を利用して奈良県を訪れる方には、JR奈良駅前の駐車場に駐車し、ぐるっとバスに乗って奈良公園やならまちを訪れていただきたいと思います。奈良県での滞在時間を延ばしてもらうため、様々な取組により、奈良公園周辺での賑わいを創出していきたいと考えています。

 

 

 

 

 


◎奈良公園に欠けていたもの、これまでの取り組み

 

illust 奈良公園の価値を保存管理することは重要なことですが、必要とされるものも建てていなかったという点は残念でもありました。園内はとても広いため、トイレや休憩所が必要です。また、観光客が多く訪れる場所であるにも関わらず、宿泊施設が不足していた等、奈良公園には欠けていると思われる点がいくつもありました。

 今まで奈良公園に無かったものについて、公園の佇まいを残しつつ、どのように整備していくかという点が奈良公園のプロジェクトの中心となっています。園内のトイレや歩道については順次整備を進めています。県庁東交差点から大仏前までの歩道を整備したことは、歩行者の安全確保のため非常に有効な取組だと考えています。また、奈良公園といえば「鹿」ですが、鹿を保護するための鹿苑の整備も進めています。

 

 

◎「吉城園周辺地区」・「高畑町裁判所跡地」の整備について
知事 吉城園周辺地区にはサンフランシスコ講和条約の批准書に署名された御認証の間が残されている知事公舎や興福寺の子院であった旧世尊院などがあります。また、高畑町裁判所跡地にはかつて、民間の別荘や、志賀直哉や武者小路実篤などの文豪が茶の湯文化を楽しんだ文化的価値の高い庭園等がありました。これら価値の高い庭園などを一般の方々に広く利用していただくため、宿泊施設の整備や庭園の復元に取り組むことで、奈良公園の価値をさらに高めていきたいと考えています。

 両地区については、保存管理・活用事業にかかる優先交渉権者が選定されるとともに、文化財保護法に基づく現状変更についても文化庁から許可されたので、これから整備が進められていくことになります。


 

◎「世界に誇れる奈良公園」を目指して
 奈良公園の特色として、奥山から外山・里山を経て市街地までの距離が非常に近いことも挙げられます。奥山の原始林の保存は大事なことなので、手を入れなくても保存できていれば問題ないのですが、保存のためにはあえて手を入れなければならない場合も出てきます。

 奈良公園は奥山から市街地までを含む広い公園なので、快適に公園まで来ていただくことやお参りいただくためには様々な配慮が必要となってきます。長年維持してきた佇まいと来訪者へのおもてなしを向上させていくのもこれからの大きな目標です。

 

illust 大仏殿をはじめ、世界的にも有名な文化財を目当てに、外国から多くの観光客が奈良公園を訪れています。奈良は渡来文化に大きく影響を受けたため、外国との交流により奈良に来られた高僧や仏師がいらっしゃいます。日本のはじまりの場所としての「奈良」の歴史を多くの方に知っていただけるよう、外国語での説明を更に進めていく必要があると思います。奈良公園の案内や説明について、ユニバーサルに展開していくことがこれからの大きな課題です。

 

 現在よりさらに良い環境や景観となるように、誇りや自信を持って奈良公園の整備を進めて行くことが県としての大きな使命であると感じています。また、整備にあたっては、既存の各種規制を遵守することは当然としつつ、多方面にも配慮し、県民の賛同を得ることを心がけています。今後も様々な課題に気を配りながら、奈良公園の保存と活用に力を入れていきたいと考えています。