-知事から職員に向けてのメッセージを、県民の皆さまにもご覧いただきます。-
「奈良県における農地マネジメントの推進」について
(職員向けメールマガジン 平成29年5月22日号掲載)
◎県内の耕作放棄地について
奈良県内の農地の約2割が耕作放棄地となっており、全国的に見てもその割合が高い状況です。農地をたくさん整備したにも関わらず、なぜ放棄されてしまうのか、農地の管理に何か至らないところがあったのではないか、このようなところから、検討をはじめました。
耕作放棄地が増加している一番の要因は、少子化が進み、農業の後継者がいなくなっていることであると思います。儲かる産業であれば後継者も出てくると思うのですが、農業はそうではなく、むしろしんどい産業であると捉えられていることも後継者不足につながっています。
このような状況の下で、「奈良県における農地マネジメント」を考えることとしました。
◎奈良県の農業産出額について
奈良県の農業産出額は約400億円ですが、これは全国で下から3番目です。農地面積が奈良県と同等である神奈川県の農業産出額は約800億円なので、約半分となっています。
※下から、東京都306億円、大阪府341億円、
奈良県408億円の順。神奈川県は808億円
神奈川県より農業産出額が低いのは、高く売れる野菜や畜産物など収益性の高い作物が少ないからです。収益性の高い野菜や畜産物を作るためには、人手も必要となりますが、作物が少ない農地は、農業産出額が低くなり、担い手不足の問題と相まって、人手が集まりにくく、結果としてますます農業産出額が低くなってしまうという問題があります。
このような問題点を踏まえ、農地マネジメントを推進するにあたり、「人と農地のマッチング」と「工業ゾーンへの転換」といった2本の柱で農地マネジメントを考えていきたいと思います。
◎人と農地のマッチング
県内の耕作放棄地は山間部・中山間部に多いのですが、このあたりは獣害に遭いやすく農地の維持に人手がかかってしまうため、結果として耕作放棄地となってしまっています。
県内の耕作放棄地は山間部・中山間部に多いのですが、このあたりは獣害に遭いやすく農地の維持に人手がかかってしまうため、結果として耕作放棄地となってしまっています。
しかし、このような場所であっても「農地として整備したい」と言うと集まってくれる人も出てくる。効率的な農業の実現や耕作放棄地の解消のためには、やる気のある農業の担い手に農地を集積させることが重要です。これをうまく行っていくのが「人と農地のマッチング」です。
また、「人と農地のマッチング」を検討する際には、「特定作物の設定と農業のブランド化」と「農業の効率化・省力化」という2つの観点も考慮する必要があります。
《特定作物の設定と農業のブランド化について》
従前より、県では農業産出額を高くするために、農業のブランド化や、特定作物に狙いを絞ったうえで高く売れる農作物を作っていこうという試みを行っています。
県内の特定作物としては、平群町の小ギクが例として挙げられます。平群町では、小ギク農家が多数あり、町全体で産出できることから、平群町の特定作物として小ギクの売り出しが可能となっています。ある程度の産出量がなければ地域の特産品としての売り出しが難しいため、平地や中山間地で地域の特産物を決めていただく必要があると考えています。個別にイチゴを栽培したり、鶏を飼われている方もいますが、これを地域全体でみて効率的に行うことができないか、特産品としてブランド化できないかということも今後検討する必要があります。
《農業の効率化・省力化について》
農業経営についても、子育ての時間の確保や家庭内での時間の確保という観点から、家族の負担の軽減に向けた効率的・省力的な農業経営を検討する必要があります。
農業の省力化により、出来るだけ高く売れる農作物を効率的に生産できないかということも農地マネジメントの課題です。
◎工業ゾーンへの転換
「人と農地のマッチング」を進めたとしても、県内の耕作放棄地が大きく減少するほどの担い手が農業に戻ってくることは現実的には難しいと思います。
耕作放棄地となってしまった農地に担い手が戻ってきてほしいと思う人がいる一方、そのような土地を「工業ゾーン」に転換したいと考えている人もいます。所有する農地全てを工業ゾーンに転換したいと考えている人はなかなかいませんが、例えば、京奈和自動車道の周辺で虫食い状態となっている耕作放棄地を所有されている人の中には、京奈和自動車道に近いところは工業ゾーンに転換し、少し離れた場所で農業を行いたいと考えている人もいると思います。限りある資源である土地(農地)を有効に活用するため、利用目的に応じたゾーニングを行い、計画的な土地利用を進め、無計画な乱開発を抑制することも農地マネジメントの1つです。
しかし、農地の工業ゾーンへの転換だけが農地マネジメントではありません。農地を集約化し、農業を振興するエリアを創出することも重要です。このようなエリアを「特定農業振興ゾーン」と名付け、生産性・収益性の高い作物の導入と、同エリアへの担い手への農地集積を進めることにより、農業産出額の向上を図ります。担い手を積極的に集めていくことや、特定作物として振興される作物を作り、地域の特産物として売り出すことも農地マネジメントの1つです。
特定農業振興ゾーンで地域の農業産出額の維持・向上を実現することにより、工業ゾーン創出で失われる以上の農業産出額向上を目指し、農業産出額ベースでの農地総量について検討していきます。奈良県の農業政策の目標は、総量の確保にあります。総量の確保に向けて、県では農地の集約化やアクセスの整備、貸し手・借り手のマッチングを農地マネジメントとして進めています。
◎農地マネジメントの推進に向けて
道路が出来ることにより、工業ゾーンとしての価値が向上します。工業ゾーンの創出は地域の雇用にもつながります。奈良県は兼業農家が多いため、工業ゾーンにある工場に通勤し、工業ゾーン外の農地で自作するという人も増えてくるかもしれません。
田原本町や川西町、三宅町などの京奈和自動車道の沿線にある町では、側道が整備されているため、工業ゾーンとしての需要が高い地域があります。耕作放棄地は少ないのですが、ここを工業ゾーン化するとともに、耕作放棄地が多い地域を新たに特定農業振興ゾーンとして、農業を振興していくための農地にできればと考えています。
現在、農地マネジメントとして、磯城郡と周辺の地域で工業ゾーンと特定農業振興ゾーンをどのように折り合いをつけていくべきかについて研究を進めているところです。
今後、県内で工業ゾーンの創出が進んでいくと、平野部で農地と工業ゾーンの併存に向けた農地マネジメントが大きく取り上げられると思います。この中で、県内の特定農業振興ゾーンをどのようにして作り上げていくのかを検討していくことになります。
今回説明した、県内の耕作放棄地や農業産出額、人と農地のマッチングの課題に取り組むことで、「奈良県における農地マネジメント」を一層推進していきたいと考えています。