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お雛(ひな)さまが運んできた
城下町の出会いと交流 |
日本屈指の山城として名をはせた高取城。弥生3月、その城跡へと続く土佐街道を歩くと、町家で愛蔵されてきた雛人形が出迎えてくれます。去年始まった「町家の雛めぐり」では、町内42軒が雛人形や自宅を公開。各家伝来の人形を囲み、訪れた人と住民がおしゃべりに花を咲かせました。
幼い頃、戦時中で雛まつりを祝えなかったという観光客は、町家で話し込むうち「高取で自分の雛まつりがやっとできました」と涙声に。耳を傾けていた住民も、手に手を重ねます。雛めぐりを企画した実行委員会の野村幸治(のむらゆきはる)代表は「観光客の一番の望みは地域の人との交流。住民の願いと訪れる人の思いを一致させるよう、知恵を出し合っています」と地域活動に邁進(まいしん)しています。
とはいえ、課題も浮上。街道沿いには急きょ、トイレが増設されましたが、その費用は住民が町の特産品などを販売して捻出(ねんしゅつ)しました。求めるより、まず地域で実践。そんな高取マインドの定着とともに、空き家だった町家が資料館などの「もてなしの拠点」として、次々に息を吹き返し始めたのです。
来る人と迎える人をつなぐ縁結び。蔵から目覚め出たお雛さまには、そんな新たな役目が与えられました。春の訪れとともに、街道筋では今年も人々が楽しげに故郷(ふるさと)を語り、心を通わせ合うのでしょう。
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