「あっ、燃えてきた」。竃(かまど)の前の子がほっとした様子で火吹竹(ひふきだけ)を口元から離すと、釜はベテラン主婦たちに引き継がれます。江戸時代以来の伝統的な町並みが連なる橿原市今井町。その一画にある旧米谷(こめたに)家住宅(国指定重要文化財)に3月初め、卒業を控えた今井小6年の有志が先生、保護者、保存会の人らと茶粥(ちゃがゆ)を作って味わいました。
茶粥は町民の暮らしに溶け込んでいた大和の日常食。今井町は安土桃山時代に活躍した茶人・今井宗久(いまいそうきゅう)ゆかりの地でもあり、茶粥体験会はそんな町に根付いた茶の文化を伝えようと開かれています。明日香村産の米を大和茶で炊き、赤膚焼の器に注いだ茶粥には吉野杉の割り箸を添えるなど、「ほんまもん」にこだわります。
江戸時代、商都・今井は自治の特権が許され、町民は環濠(かんごう)の清掃や火災の際の消火手順などの「町掟(まちおきて)」を独自に定めました。会長の西川禎俊(よしとし)さんは「協力、助け合い、あいさつなど伝えたい町の美風はたくさんあります」と話し、子どもたちは「火起こしをして昔の人の苦労がわかった」「箸袋の言葉が一人ひとり違っている」と会員の思いをしっかりと受け止めていました。
公衆道徳や人への配慮、防災などを盛り込んだ町掟は、いわば当時の「町民憲章」。そんな町衆の心の支柱を次代へと伝える営みは、連綿と続いています。
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