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奈良のむかしばなし

世界遺産の「紀伊山地の霊場と参詣道」。その中の熊野古道小辺路は、高野山と熊野を結ぶ道だ。
高野山を出ると、道はほどなく奈良県の南西部にある吉野郡野迫川(のせがわ)村に入り、そのまま村を縦断する。山また山に囲まれた、緑深いこの村に伝わるお話ー。
昔、寺に和尚と小僧がいた。ある日、小僧が山へ栗拾いに行くと、お婆(ばば)が現れ、「わしの家に来い。栗飯をどっさり食わしたろ」と言った。
寺に帰り、その話をすると、和尚は「そりゃ、きっと山姥(やまんば)や。行ったらあかん」と言った。だが、小僧はどうしても行くと言う。和尚は有難い呪文を書いたお札三枚を持たせた。小僧は山の中の婆の家でおいしい栗飯をどっさりよばれ、眠り込んだ。婆は、「こりゃ、うまいこといったわい」と、包丁を研(と)ぎ始めた。
小僧が小便に起きた時、折からの雨だれの音が、「婆に食われる。はよ、逃げよ」と聞こえた。小僧は慌てて便所に入り、柱にお札を一枚貼り付け、窓から逃げた。
婆が便所の外で、「小僧、まだか」と言うと、お札が「まだや」と答えた。やがて、逃げる小僧に婆が追いつくと、小僧が二枚目のお札に「川になれ」と言い、また逃げた。だが、婆は川を渡り、追いついてきた。小僧は三枚目のお札に「砂山になれ」と言い、寺に逃げ帰った。
その砂山をのぼって追いついてきた婆に、和尚は「まあ、そこに座って餅でも食え。どうだ、二人で化け比べしよう」と言った。欲深い婆は大入道に化けたが、和尚が「小さくは化けられまい」と言うと、こんどは小豆に化けた。和尚はその小豆を餅に包んで食べた、という。


小辺路は、熊野古道の中でも屈指の険しさで知られる。果てしなく続く高い峰々、震えるばかりの深い谷、山姥が現れそうな寂しい峠道。村は今も、山のどこかに山姥が隠れているような、そんな昔話を彷彿(ほうふつ)とさせるのどかで静かな山里である。

 
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