ふるさとを想う |
東京の建設会社に勤めるタカオは、中学の同窓会に出席するため20数年ぶりに帰郷した。駅前の風景はあいかわらず懐かしい。
タカオは野球部でともに頑張っていたヨシオと会えるのが楽しみだった。彼が自慢のグラブさばきで見せてくれたファインプレーは数知れない。
いつだったかヨシオの家へ遊びに行った時、近くのグローブ職人さんの仕事を見せてもらったことがあった。職人のおじさんは、子どもの頃ひどい差別があって、あまり学校に行けなかったそうだ。
「おっちゃんのグローブはうちのムラの自慢や。せやのに、なんで部落差別なんかあんねやろ。」そう言ったヨシオは、こぶしを固く握りしめていた。
誰でも自分の大切なふるさとがあるのに、それが避けられたり、嫌われたりするとはどういうことか。今でも不動産取引で差別につながる情報が流されたり、不正な方法で他人の住民票等を入手して、身元調査をしたりということが起こっている。「こんなことは許されないはずなのに………」
万葉集にも詠まれた美しい山の姿が、タカオのすぐ近くに見えた。 |
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