奈良県立三室病院は生駒郡三郷町の大和川のほとりに1979年に開設されました。開設時には7診療科、200床でしたが、1987年には12診療科、300床の総合病院として再整備されています。その後、心臓血管外科、循環器内科、消化器内科が次々と増設されるなど、地域の高いニーズに応えている病院です。
2008年には豊富な臨床経験を持つ循環器専門医を揃えた心臓血管センターを開設し、奈良県全域の開業医や病院と厚い連携を保ちながら、心臓血管疾患の治療に取り組んでいます。 また、本年4月には最新の高精細多目的血管撮影装置2基を導入し、心臓、頭部、腹部の血管の検査・治療の分野において、現在、県のトップレベルの受入体制を整えています。
「奈良県西和病院群」としての臨床研修のプログラムは、「自ら考え、問題を解決していく能力」を養い、「人格を涵養する」ことを基本理念としています。プログラムの必須科目は初年度に三室病院で「内科(総合診療、循環器内科、消化器内科)」を6カ月、「救急部門」として三室病院で麻酔科を1カ月、県立奈良病院救命救急センターで2カ月、そして次年度に県立五條病院で地域医療を1カ月履修することが基本となっています。
また、必修期間を除く14ヶ月のうち選択必修科目として外科、小児科、産婦人科、麻酔科、精神科のうち2科目以上を構成病院群の中から選択し、その他の期間を選択科目として、各協力病院等の設置診療科から自由に選択できることも特色です。
- まず、医師を目指した動機からお聞かせください。
- 西川:医師というより、小児科医を目指していたという感じですね。小学校6年生のときに、子どもの救急患者がたらい回しになっているというニュースを見ました。親に言わせると、私は泣きながら、そのニュースに見入っていたらしいんですね。子ども心に「子どもたちを助けられないのはおかしい」と思い、そのときに小児科医になりたいと決めました。
- 藤田:小さい頃から生物が好きで、理科の教員を目指し、大阪教育大学に入学しました。そのうち研究の方が面白くなってきたので、京都大学の大学院に進み、遺伝子の研究を専攻したんですね。修了後も専門を生かした仕事に就いていたのですが、試験管を振って研究し、薬を作って多くの患者さんを救うよりも、効率の面では悪いのかもしれませんが、一人一人の患者さんを診たいと思うようになり、医学部に再入学しました。
- 大学時代を振り返って、どんなことが思い出になっていますか。
- 西川:弓道部の活動や大学祭で委員をしたことなど、ワンシーンごとに思い出があります。弓道部は6年生で引退後も頻繁に顔を出していました。部活動では上下関係ですとか、同期との繋がりですとか、情報を共有して仲間と協調していくことの大切さを学びましたね。それは今、チーム医療に携わる中でとても役に立っています。
- 藤田:若い同級生と関わり合う時間を作りたかったのですが、医学部に入学したとき、子どもが3歳と1歳だったんです。妻は働いていますし、私の方が時間に融通が利きましたので、育児に追われていた生活でした。
- 西川先生はずっと小児科を目指していらっしゃったんですか。
- 西川:実際に実習に行きますと、産婦人科でお母さんのケアをすることにも興味が持てそうでしたし、もともと憧れていた救急でも強い印象を受けました。でも、やはり子どもが好きでしたし、仕事は大変なのですが、自分がきつくても、子どもを助けてあげたいと思い、初志貫徹しました。
- 藤田先生は専攻を決めていらっしゃいますか。
- 藤田:大学のときから、がんに関わりたいと思っていました。純粋な生物学を学んでいたとき、遺伝子の研究が進んでいけば、がんは制圧できるだろうと言われていましたが、実際にはその道のりは遠いです。画期的な治療法も出てきてはいますが、完全に抑え込むのは難しいでしょう。そこで、がん治療に深く携われ、手術のみならず、化学療法や放射線療法などのバリエーションもある外科を専攻しようと決めました。また性格的にも、細かく診ていく内科よりも、スパっと切れる外科の方が向いているかなと思いました(笑)。
- 初期研修を奈良県立三室病院に決めた理由をお聞かせください。
- 藤田:近くに住んでいますので、三室病院が症例数が多く、「一生懸命やっている病院だ」と、地元での評判が高いことを知っていたことが大きいですね。6年生のときは大学病院でもいいなと漠然と考えていまして、大学病院の方も「変えていこう」という気風が出始めていました。しかし、私はへそ曲がりなものですから、「変えると言われても」と思うようになりました(笑)。三室病院は病院全体で研修医を育てていこうという雰囲気があり、年齢のことを考えますと、多くの症例があることにも惹かれました。
- 西川:私は既に奈良県立医科大学の小児科に入局していまして、大学病院で初期研修を行いました。2年目では選択期間があり、三室病院の小児科にお世話になったんですね。学生時代のクリクラでも西野部長に教えていただいたことがあり、身近な病院ではありましたが、初期研修で来たときには症例の豊富さに驚きました。大学病院は長期入院の患者さんが多く、専門的な治療が中心です。私としては物足りない気持ちがあったので、三室病院で学べたことは大きかったです。現在は引き続き三室病院で後期研修を行っています。
- 奈良県立三室病院の研修プログラムを教えてください。
- 藤田:1年目は三室病院で内科を6カ月、外科を3カ月、県立奈良病院の救命救急センターで2カ月、三室病院の麻酔科で1カ月でした。2年目はハートランドしぎさんの精神科で1カ月、県立奈良病院の産婦人科で1カ月、国保中央病院の内科で2カ月、三室病院の小児科で2カ月、大和郡山市の保健所で1カ月、選択が5カ月となっています。選択では外科を希望しています。
- イメージ通りの初期研修ですか。
- 藤田:回る科によって、様々な差がありますが、やりたいことをやらせていただけて、満足しています。特に内科では、やりたいと思っていたことのほとんどを経験させていただけました。
- 奈良県立三室病院で勉強になっていることはどんなことでしょうか。
- 西川:先生方は患者さんが診察室に入ってきただけで、顔色や目つきから様々なことを判断されるので、すごいです。長く通院している子どものお母さん方からも信頼があり、お母さん方に先生方がどのように接していらっしゃるのかを見るのは勉強になります。外来でシュライバーについたときは、先生方から「今の子はこういう子なんだけど…」と教えていただいたり、説明の仕方を勉強させていただいたり、全てを「見取り稽古」しているところです。また週に1回、抄読会があり、日本語だけでなく、英語の文献も読んでいます。先生方の勉強に対する姿勢もとても素晴らしいですし、私自身も学ぶ機会を多く作っていきたいです。
- 藤田:内科で初めて入院患者さんを渡されたとき、自分がやらなくてはいけないんだということに改めて気付かされ、自分で動いていくことの大切さを学びました。ある程度は任せていただけるのですが、間違っていることには「違うよ」と指摘してくださったり、そのバランスが私には合っていますね。内科だけでなく、他科でもそうですし、任せていただける部分としなければいけない部分のバランスがうまく取れている病院だと思います。
- 印象に残っていることはありますか。
- 西川:元気になって退院していった子どもさんが再入院になったときに「先生がいるから、ここに来たよ」と言ってくれたときは嬉しかったですね。
- 藤田:私も患者さんが良くなって、「ありがとう」と言ってくださったときは単純に嬉しいです。今は小児科を回っていますので、元気になっていく様子がよく分かり、嬉しいのですが、内科や外科だと亡くなる患者さんもいらっしゃいますし、辛いこともあります。三室病院は循環器に力を入れていますので、突然、心臓や呼吸が止まる患者さんも少なくはないので、「ほかにできることはなかったのか」と考え、カルテを見て反省しますね。
- 西川先生も辛いことがありましたか。
- 西川:重症の子どもさんが救急で来て、時間のかかる処置をし、薬のタイミングも適切だったんですが、結局、県立医大の附属病院に搬送になり、亡くなるということがありました。何とか、こちらでできることはなかったのかと思うと、辛かったですね。
- 初期研修に関して、不満や改善してほしい点はありますか。
- 藤田:特性上、仕方のないことなんですが、全ての診療科が揃う大学病院と違って、外部病院での研修が多く、飛び回らないといけないことですね。もちろん、外部病院でそれぞれの流儀や治療方法などを勉強させていただけるのは良い面も多いのですが、1、2カ月で異動していくのは旅をしているようで落ち着きません。薬の名前も違いますし、オーダリングもパソコンだったり、手書きだったりしますので、覚えるのも大変です。ある程度、覚悟していたことでしたが、実際に経験してみると、やはりきつい面もありました。
- 西川:あとは官舎の環境でしょうか。病院の敷地内に小奇麗なワンルームマンションみたいなのがあると、転々と研修先を変わる先生方も楽だと思うんです。それから電子カルテを導入していただきたいです。紙カルテだと、先生方の文字を解読するのに時間がかかりました(笑)。
- 指導医の先生方のご指導はいかがですか。
- 西川:小児科は西野部長のほか、スタッフの先生方は3人いらっしゃいます。小児科の先生方は日頃、子どもさんと接していらっしゃるだけに優しい方ばかりですね。指導も具体的で的確ですし、私自身に考えさせるチャンスも作ってくださいます。
- 藤田:特定の指導医が研修医につくわけではなく、皆さんで見てくださっているという感じです。廊下などで出会った先生にも気楽に尋ねられますし、どなたにも相談できますね。1対1でついてしまうと、どうしても徒弟制度みたいになりますから、科の垣根がなく、全員で見てくださるのは有り難いです。
- カンファレンスはどのようになさっているのですか。
- 西川:小児科の場合は特にカンファレンスという形ではやっていません。毎日2回、看護師さんからの申し送りがありますので、そこに同席しています。病棟スタッフ全員で全員の患者さんを診ているという雰囲気です。朝の申し送りでは夜勤の看護師さんが報告し、午前中のことを昼間の申し送りで伺っています。
- 藤田:内科では様々なことを細かく尋ねられましたね。外科は内科が診断をつけた後、どうするのかということをメインに話し合っています。手術をするのか、しないのか、化学療法をどうするのかといったことに加えて、放射線治療は三室病院ではできないので、他院に送らざるをえないのですが、その判断などの議論の場ですね。
- 当直の体制について、教えてください。
- 西川:輪番日を皆で分担し、研修医は指導医の先生につきます。朝はそのまま外来に突入することもあります。立て込んでいなければ、初診を担当させていただけますが、普段は基本的な処置が中心です。今は後期研修医なので、初診を全て診ていますが、指導医の先生も近くで見守ってくださっています。
- 藤田:内科も小児科と同様に輪番日に指導医の先生と2人で当直し、初診を研修医が行っています。
- コメディカルのスタッフとのコミュニケーションはいかがでしょう。
- 西川:大学病院よりも年齢層の高い看護師さんが多いからでしょうか、広い心で接してくださっているように思えます。ベテラン看護師さんは頼りになりますね。患者さんや患者さんへのご家族への気の遣い方を日々、勉強させていただいています。
- 藤田:シャキっと働いていらっしゃる看護師さんが多く、頼みやすいですね。時には、きついことも言われます(笑)。1年目で右も左も分からなかったときに、輪番日で慌てていたら、点滴など、次々に質問してくださって、何とか対応できました。
- 今後のご予定をお聞かせください。
- 西川:奈良県立医大の小児科の後期研修は外部病院1年、大学病院1年、NICU1年となっていまして、今は三室病院で外部研修を行っているところです。来年から2年間は大学病院での後期研修になりますが、その後のことは未定です。今は何を学んでも目新しいので、後期研修のうちに専攻したい分野を見つけていきたいと思っています。
- 藤田:西川先生の場合、後期研修医の外部での研修先として今、三室病院に来られていますが、私としては後期研修医の研修先ということであれば、三室病院で後期研修を行いたいですね。医局に入るかどうかのこだわりはないのですが、年齢のこともありますので、悠長なことはしていられません。症例が多く、積極的に手を動かしていける病院で後期研修ができたらと思っています。
(※三室病院では現在西川研修医を含む3名の後期研修医が在籍中。平成22年度より新たに2名の募集を予定。)
- 現在の臨床研修制度について、ご感想をお願いします。
- 西川:私が考えるスーパーローテートの最大のメリットは他科に知り合いやツテができるということです。それから選択期間が長い病院は羨ましいです。ただ、選び方によっては良くも悪くもなるでしょう。将来像をしっかり持っている方には良い制度だと思いますが、ぼんやりと過ごしてしまったら、ポリクリの延長になってしまいそうです。
- 藤田:外科医としての経験を早く積んでいきたいので、小児科にいても「子どものアッペ、来ないかなあ」と待っているところはありますね(笑)。ただ、どの科でも患者さんが来て、検査や身体所見というプロセスや根っこの部分は同じで、外科との違いは手術をするか、しないのかというだけだと思います。三室病院は循環器に力を入れていますので、心電図を勉強させていただけたことは私にとってのメリットでした。一人の患者さんが内科を受診した後、外科で手術をして、さらに他科へという流れを理解し、手術でも外科と麻酔科では考え方や見方が異なることを学べたのも良かったです。スーパーローテートはやる気のある人にとっては良いシステムですが、何でも診られるというのは何でも適当になってしまう恐れがあります。今後、自由度が高くなっていくようですが、抜けてしまう科も出てくるでしょうし、その点は心配ですね。
- 初期研修の病院を選ぶにあたってのアドバイスをお願いします。
- 西川:自分が求めていることが存在している病院に、きつくてもあえて飛び込んでいけば、その後の人生が全く変わったものになると思います。私は最初の科が循環器科で、とてもきつかったのですが、そこを乗り越えられたことが今のモチベーションにつながっています。
- 藤田:まずは大学病院か市中病院かという選択があります。大学病院は重症度が高い患者さんが多いですが、1人の患者さんに対して、背景などをじっくり考える時間があります。そういう時間を持つことは悪いことではありません。一方で、市中病院は症例数が多く、経験を豊富に積める点で魅力的です。ただ、10人ぐらいの担当患者さんを持つと、忙しくて、指示出しだけで終わってしまうこともあります。やっつけ仕事になりがちですので、振り返りの時間を確保することが難しくなります。どちらにも一長一短ありますから、自分の将来や適性を見極めて選ぶことが必要でしょう。
- 最後に、ご趣味などのプライベートについて、お聞かせください。
- 西川:アロマが好きですね。部屋にアロマポットを置いていますし、お風呂の中にアロマオイルを入れたりして、楽しんでいます。それから温泉ですね。先日は熊本の黒川温泉に行きました。
- 藤田:平日は子どもの世話などもあって、子どもが起きる前や寝た後に自分の時間となりますので、週末はたっぷり寝だめですね(笑)。それからパソコンに向かって、のんびり過ごしています。
- タイムスケジュール
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西川先生 (小児科の場合)
6:00 起床 7:00 出勤 8:00 病院到着、病棟回診 8:30 申し送り、病棟回診 9:00 病棟での処置、外来での処置、
外来シュライバー12:30 申し送り 13:00 昼食 14:00 外来、心エコー、腹部エコー、
外来シュライバー17:00 病棟回診、病棟業務 19:00 退勤 20:00 帰宅 24:00 就寝 藤田先生 (外科、手術日の場合)
5:00 起床、子どもの世話 7:30 準備 8:00 出勤 8:10 病院到着 8:30 病棟業務 9:00 外来での処置、外来シュライバー 10:30 手術 15:00 術後管理、病棟回診 18:00 何もなければ退勤 18:30 帰宅、家事 21:00 勉強 1:30 就寝