奈良のむかしばなし


奈良のむかしばなし
奈良に古くから伝わる
むかしばなしをご紹介します。
面塚と結崎(ゆうざき)ネブカ
文・山崎しげ子
 奈良盆地のほぼ中央、川西町結崎。能楽観世(かんぜ)流発祥の地として知られる。春は桜並木が美しい寺川の堤に沿った公園に「面塚」と、「観世発祥之地」と刻まれた石碑が立つ。今回はこの面塚にまつわる不思議なお話。
 遠く、今から約六〇〇年も昔の室町時代のこと。ある日、空がにわかに曇って大きな音とともに、翁の面と一束のネギが天から降ってきた。驚いた村人は、そこを塚として面をねんごろにおさめ、ネギは近くの畑に植えた。
 また、こんな別の言い伝えも残る。当時結崎に清次(きよつぐ)(のちの観阿弥(かんあみ))という猿楽師(さるがくし)が住んでいた。能楽の前身、猿楽の座「結崎座」を率い奈良、京都の社寺の祭礼に奉仕していた。
 ある日、京都の三代将軍足利義満から演能の話が舞い込んだ。清次は緊張し、近くの糸井神社に成功を祈って日参していると、ある晩、不思議な夢を見た。天から翁の面と一束のネギが降ってきた。翌朝その場所に行くと、本当に落ちているではないか。清次は瑞兆(ずいちょう)と喜んだ。
 いよいよ将軍の御前で披露する日、清次はその翁の面を付け懸命に演じた。将軍はたいそう喜び、清次はお褒めの言葉を頂いた。
 大和には、当時、結崎(観世)、円満井(えんまんい)(金春(こんぱる))、外山(とび)(宝生(ほうしょう))、坂戸(さかど)(金剛(こんごう))の大和猿楽四座があった。中でも結崎座の観阿弥、そして優美な容姿の天才世阿弥(ぜあみ)の父子が、足利義満の保護を得て、それまでの滑稽な物まねなどを中心とした猿楽を、幽玄美を追求した芸術性の高い能楽へと発展、完成させた。
 さて、能面とともに天から降ってきたというあの一束のネギ。今は結崎ネブカの名で奈良県から「大和の伝統野菜」として認定されている。江戸時代には広く栽培されていたが、一度途絶え、また復活した。柔らかくて甘味があると人気だ。秋から冬にかけて出荷され、広く奈良県内の店頭に並ぶ。
面塚
 観世流第二十四世宗家 観世左近師の筆で「観世発祥之地」と記された石碑が寺川沿いにある。寺川の改修により二度位置を変えて現在の位置にあり、周りを囲む玉垣には全国の観世流能楽師らの名が刻まれている。
 川西町では、小学校の総合学習の一環として能楽師の指導を受けており、昭和47年に発足した「結崎観世会」も活動するなど、能楽の取り組みが盛んに行われている。
物語の場所を訪れよう
面塚(川西町結崎)へは…
近鉄橿原線結崎駅より南西へ約1.4km
地図
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