大阪府・和歌山県に隣接する、五條市。市街地を東西に吉野川が流れる。今回はその吉野川の激しい水音を止めた弘法大師の不思議な法力のお話。
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昔、弘法大師という偉いお坊さんが五條の榮山寺(えいさんじ)で修行をしていた。 お寺のすぐ下を流れる吉野川の川音が昼も夜も「ザーザー」とやかましく、音が気になり勉強に集中できないと困っていた。 そこでお大師さんは、「ひとつ御仏にお願いしよう」と言い、早速、激しく流れる川に向かってお経を唱え、「音を立てないでください」と祈られた。 すると、不思議、今までザーザーと鳴っていた川音がピタリと止んだ。そこで、川は「音無川」とよばれるようになったそうだ。 このお話には、「お大師さんが筆を投げて静めた」という説や「石を投げた」という説もあり、いずれにしても弘法大師の不思議な力が「音無川」の由来となっている。
奈良時代の古刹、榮山寺のすぐ前、道路を隔てて吉野川が流れる。見ると、川面はあっと息をのむほど美しいエメラルドグリーン。流れも水音もない。川幅も狭く、深い淵の両岸には巨岩奇岩が並ぶ。だが、ここも、かつては川音も激しかったのだろうか。 榮山寺から吉野川を下ると、五條市の新町通り(旧伊勢街道)。 慶長十三(一六〇八)年、松倉重政は関ヶ原の戦いの功績により一万余石の大名として二見城に入った。二見城のある二見村と、町場として栄えていた五條村の間に整備されたのが商家が並ぶ新町。かつては伊勢、大和、紀伊への街道が交差し、人や物の往来で賑わった。 新町通りの入り口にある栗山家住宅(重要文化財)は慶長十二(一六〇七)年の棟札があり、建築年代のわかるものとしては日本最古の民家とされる。 現在は、重要伝統的建造物群保存地区に選定されている「五條新町」。今も江戸時代から昭和戦前の重厚な瓦屋根と格子の情緒ある家並みが残る。
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