飼い主に寄り添うためのペットサービスを
企業基本情報
犬野苑(いぬのその)の特徴を教えてください
犬野苑は、ペットホテルや長期預かりの「老犬ホーム」を中心に、トリミングやしつけレッスン、散歩代行などの愛犬に向けたサービスを提供しています。
主に普通のペットホテルでは預かりが難しいシニアやハイシニア犬などを対象に、極力ゲージなどに入れない自由な環境で、スタッフが24時間体制で同室にて寝泊りをする形でお預かりしているのが特徴です。敷地内にはドッグランも併設しており、こちらは地元のお客様にご愛用いただいています。
起業のきっかけや思いを教えてください
もともとは主婦でパート勤めもしていましたが、6年程度前のこと、私に乳がんが見つかったことで、生活が一変しました。投薬の副作用や通院・入院のためにパートを辞めざるを得なくなりましたが、加えて私の通院や入院時、飼っていた犬を預けるためのペットホテル探しに苦労しました。
老犬だったのですが、預かる側にすればハイリスクなので初めてのペットホテルでは預かってくれません。何度か利用したことがあるところでも、予約状況によっては預かってくれるとは限らないし、闘病中、家族として一緒に過ごしてきた愛犬に癒される一方で、愛犬のために自分の治療に専念するのが難しくなるというジレンマを抱えることになったのです。
そして、他にも私と同じように愛犬と今までどおりの生活を続けることが困難になる例が少なからずあることを知りました。例えば、愛犬の介護と仕事の両立が難しい、愛犬の介護と家族の介護が重なっている、体調がすぐれず愛犬の世話ができない、老人ホームの入居に愛犬を連れていけないなど、人の数だけ様々な事情があるでしょう。
「飼い主が安心して愛犬を預けることができれば、心に余裕を持って生活できるようになり、愛犬との時間も充実するのではないか」「飼い主の想いを受け止め、寄り添い、見守ることで、飼い主の心に余裕を取り戻していただけるのではないか」と考え、それらを実現できるような場所を作りたいと考えました。
これまでの困難やご苦労・失敗について教えてください
ペットホテルは「動物取扱」の業種区分のため、物件探しが難航しました。「ペットホテルをやりたい」と不動産屋さんに相談しても、「ドッグカフェにすれば?」と推し進められそうになったこともありました。
やっとご縁があってならまちの物件が決まり、大家さんも「改築などは好きにしてくれていい」と言ってくれたものの、下水道が通っていませんでしたから、キッチンなどの水回りと、手洗いを増築し、全面的にリフォームするのにとてもお金がかかりました。
事業計画で想定していた客層や客単価などの見込みが甘く、オープンした後から経営を軌道に乗せるのが大変でした。一番期待していた老犬預かりの予約が0の月もありました。予約表を見ながら「来月は0ではありませんように」と拝んでいました(笑)
どのように事業を軌道にのせていきましたか?
とにかく周知をしようとまずはチラシを3000枚刷って、ポスティングに行きましたが集客できたのは0件でした。次にInstagramやFacebookにも投稿をしましたが大きな反響はありません。
そんな中、最も効果的だったのは犬の飼い主つながりの口コミでした。犬の飼い主は、飼い主同士のコミュニティーがありますので、「近くに老犬も預かってくれるペットホテルが出来たよ!」と情報が巡っていきます。日々、ひとりひとりのニーズに応えながら真摯に営業するとことで、着実にお客様が増えていきました。
大変な時はついてんやわんやしてしまいますが、何度か繰り返すと耐性ができてきて、慣れて対応することができます。それと、しんどかったことをしんどかったと思うと余計に気持ちが沈んでしまうので、「なんとかなる」という思いで日々を乗り越えています。
これまでの成果と今後の目標について教えてください。
創業から二年が経ち、「犬野苑」の認知度が上がり、コンスタントに予約が入るようになりました。経営が軌道に乗ってきたことで、料金改定や店舗営業時間を無理のない形へと見直しができるようになり、今年の二月から料金の改定と店舗営業時間の短縮を実施しました。
また、お預かりする犬の種類も、本来の目的に立ち戻って、老犬を中心にすることにしました。若く元気な犬は一般のペットホテルで預かってもらうことができるので、基本的にはお断りしています。
さらに、これからは短期預かりだけではなく長期の預かり・老犬ホームの予約を増やしたいところです。飼い犬を引き取るという方法がありますが、そのような形を取らなくても、老犬ホームという形態があること、手放さなくても済むことが周知されればと思います。預かりの方法も短期よりも長期になれば、経営的には安定した収入に繋がりますし、犬もこちらも慣れることができるメリットがあります。
一番伝えたいのは、困っている方に「安心して老犬を預かってくれる場所がある」ということです。特にご高齢の方はネットを見ない人が多いので、どのように情報を伝えていくかが課題ですが、SNSなどはお子さんの目に触れるような形にして、親御さんに知らせてくれるといいなと思います。
ほかには、奈良県に限らず県外の奈良が好きな方に老犬ホームを利用してもらいたいです。定期的に奈良観光に来て、愛犬の様子を見にきてもらい、飼い主に余裕がある生活を送っていただければうれしいです。
事業展開を目指す女性へのメッセージをお願いします
みなさんには、自分のやりたいことをだけ、自分が得することだけでなく、人のためになるようなことを探してほしいです。一人では何も出来ません。出来ないことは出来ないと言えば、誰かが助けてくれます。そしてそれが巡っていくのです。
私は乳がんが見つかった時が人生の折り返し地点でした。「このまま専業主婦として過ごしていくのか?」と自分の将来を考えました。そんなとき、良くしていただいた先輩にお礼をしようとして、「先輩にしてもらったことは後輩に返すものだよ」と言われたことを思い出しました。人に何かを返していきたいと強く思ったから、今があると思っています。
さらに私は乳がんという病気になったことで、人生を改めて考えることができました。「病気をしてよかったかも」とさえ思うほどです。「犬野苑」立ち上げの思いとともに、同じような病気になった方にも「こんなことができる!」ということを伝えられたら幸いです
(12月13日 取材)
印刷用PDF(浦詰さん記事)(pdf 668KB)