研究報告No.39再録

強化LVL接合板および接合ピンを用いた木質構造フレームの開発(第2報)
モーメント抵抗接合としての強化LVL接合の特性

中田 欣作・小松 幸平*1

木材学会誌.55(3), 155-165(2009)

 

  強化LVL接合の強度特性を検討するために,柱-土台接合部のモーメント加力試験および箱型ラーメン架構の水平加力試験を行った。柱-土台接合部は,モーメント加力試験において最大荷重を示した後も緩やかに荷重が低下し,接合ピンが集成材にめり込むことにより回転角が増加する粘り強い接合性能を示し,その接合効率は30%,塑性率は6.97であった。接合ピン1本当たりのせん断性能を基にした線形応力解析では,柱-土台接合部の回転剛性および最大モーメントの計算値は実験値と良く一致した。スパン2730mm,高さ2730mmの箱型ラーメン架構は,水平せん断試験において柱-土台接合部と同様の粘り強い接合性能を示し,その短期許容せん断耐力は,見かけのせん断変形角が 1/120rad時の耐力で決定される5.7kNであった。箱型ラーメン架構の柱-梁接合部および柱-土台接合部に発生するモーメントは,モーメント加力試験での最大モーメントとほぼ一致した。

キーワード:強化LVL接合、木質構造フレーム、モーメント加力試験、水平加力試験、線形応力解析 

1 京都大学生存圏研究所 

 

 

強化LVL接合板および接合ピンを用いた木質構造フレームの開発(第3報)
柱梁強化LVL接合と柱脚金物接合による門型ラーメン架構の性能

中田 欣作・小松 幸平*1

木材学会誌.55(4), 207-216(2009)

 

 強化LVL接合板と接合ピンを用いた柱梁接合部と柱脚金物に強化LVL接合ピン(B1タイプ)あるいは丸鋼ドリフトピン(B2タイプ)を用いた柱脚接合部を組合せた門型ラーメン架構を作製した。モーメント加力試験において柱梁強化LVL接合部はあそびが小さく粘り強い強度性能を示したが,柱脚金物接合部はあそびが大きく粘りのない接合性能を示した。門型ラーメン架構の水平加力試験では,柱梁接合部と柱脚接合部の回転剛性の比によりそれぞれにモーメントが分配され,柱梁接合部が降伏耐力に達した後に柱脚接合部が降伏耐力に達した。門型ラーメン架構の最大耐力および破壊形態は柱脚接合部により決定され,B1およびB2タイプの門型ラーメン架構の短期許容せん断耐力はそれぞれ8.0kNおよび11.9kNとなった。稲山式により求めた門型ラーメン架構の反曲点高さはひずみ度分布より求めた実験値とほぼ一致し,本式により耐力および変形の予測が可能であった。

キーワード:強化LVL接合、木質構造フレーム、水平加力試験、柱梁接合部、柱脚接合部

1 京都大学生存圏研究所

 

 

FRPによる木橋の補修およびFRPを接着した集成材接合部の含水率

柳川靖夫・宮武 敦*1・林 知行*1・藤田和彦*2・山本 健*3

第8回木橋技術に関する論文報告集. 91-97(2009)

 

 ポリビニルアルコール繊維を使用したFRPを表面に接着し、屋外環境下で使用される木橋部材の劣化部分の補修を試み、またFRPの接着や上面カバー、あるいは木口面被覆により部材端部の接合部の含水率増加を抑止することを試みた。その結果、木口面被覆は含水率の増加を抑止する有効な対策であり、また、例え腐朽が発生する含水率状態にある部材端部の接合部であっても、木口面を被覆することにより顕著に含水率が低下することが判明した。木口面の被覆のみならず、FRPの接合部への接着および部材上面カバー等の措置を適宜組み合わせることにより、長期にわたり部材接合部の含水率を増加させることなく、一定値以下に保つことができる可能性が示唆された。

キーワード:FRP、補修、ポリビニルアルコール、含水率、集成材

1 独)森林総合研究所 
2 広島県立総合技術研究所林業技術センター
3 広島県立総合技術研究所西部工業技術センター

 

 

素材および処理木材の野外耐朽性評価

酒井温子

材料.58(4),271-279 (2009)

 

 奈良県森林技術センター明日香実験林で長年にわたって実施してきた野外杭試験に関する総説。素材(無処理木材)と薬剤で処理された木材を対象とし、実験方法や得られた結果の一部を紹介するとともに、他の試験地で得られた結果との比較や、他の試験方法で得られる耐朽性に関する情報との相関等について解説を行った。

キーワード:木材、処理木材、耐朽性、野外試験、耐用年数

 

 

 

家庭用品規制法に対応した改良クレオソート油の性能

酒井温子・岩本頼子*1・伊藤貴文・増田勝則・今村祐嗣*2・大藪芳樹*3・木戸 徹*3・吉田善彦*4

木材保存.35(4),160-170 (2009)

 

 従来のクレオソート油には、おそらく発がん性を有するとされる3成分が含まれている。家庭用品規制法によりこの3成分が規制の対象となったため、従来のクレオソート油からこれらを含む留分を除去し、濃度をそれぞれ1ppm以下にしたところ、防腐効力の低下が認められた。しかし、3成分が除かれたクレオソート油にインデン・クマロン樹脂を5%以上添加すると、高い防腐効力が発現することが明らかになった。以上の結果を基に完成した改良クレオソート油について、JIS K 1571:2004に準拠して、注入処理用木材保存剤としての性能評価のために、室内および野外防腐性能試験、室内および野外防蟻性能試験、鉄腐食性試験を、また表面処理用木材保存剤としての性能評価のために、室内防腐性能試験、室内防蟻性能試験および鉄腐食性試験を実施した。一部の試験には、従来のクレオソート油も比較のために使用した。その結果、改良クレオソート油は、従来のクレオソート油と同様に、いずれの性能基準も満たしていることが確認された。

キーワード:改良クレオソート油、生物劣化抵抗性、インデン・クマロン樹脂、発がん性物質

*1 奈良県景観・環境局環境政策課 
*2 京都大学生存圏研究所
*3 東邦液化ガス株式会社
*4 環境配慮型クレオソート油R普及会

 

 

ヒノキ単木の陽樹冠基部における幹断面積成長量と陽樹冠体積増加量の関係、およびその応用

和口美明・上田正文*1

Journal of Forest Planning.14(1),27-32 (2009)[英文]

 

 奈良県内のヒノキ同齢林6林分から採取した112本のヒノキを対象に、陽樹冠基部における幹断面積成長量と陽樹冠体積増加量の関係を調べた。両者の関係は原点を通る一次式で近似できた。樹高、幹材積成長量、および陽樹冠基部高の実測値と、陽樹冠体積増加量から推定した陽樹冠基部における幹断面積成長量の推定値を使って得た幹断面積成長量の垂直分布の、実測値に対する誤差は、陽樹冠基部における幹断面積成長量の実測値を使って得たそれよりも大きかった。しかしながら、その差は実用上十分に小さく、結論として、陽樹冠基部における幹断面積成長量と陽樹冠体積増加量の関係は原点を通る一次式で表現できるという仮定は、ヒノキ単木の幹断面積成長量の垂直分布を推定する上で有効であると考えられた。

キーワード:陽樹冠体積増加量、陽樹冠基部における幹断面積成長量、比例関係、ヒノキ

*1 京都府立大学農学部

 

 

ヒノキ同齢林における幹断面積成長量の垂直分布

和口美明

Journal of Forest Planning. 14(2),79-82 (2009)[英文]

 

 本報告ではヒノキ同齢林の平均木における幹断面積成長量の垂直分布の実態を示した。使用したデータは森林総合研究所関西支所が長期間継続して測定している、紀伊半島に設定された5つのヒノキ収穫試験地における測定結果である。それらの測定では幹形は測定されていないので、樹高と胸高直径の平均値を使って幹形を推定し、期首と期末におけるそれらの差を幹断面積成長量の垂直分布として推定した。これらの林分における幹断面積成長量の垂直分布の形は単木のそれによく似ていた。そして、その形は林分内における個体間の競争状態を反映していた。したがって、平均木における幹断面積成長量の垂直分布はヒノキ同齢林の密度管理を計画する上で役立つ指標であるといえる。

キーワード:幹断面積成長量、垂直分布、ヒノキ、密度管理

 

 

スギの雄花生産量の年変動に影響を与える至近要因としての個体内資源量の評価

宮崎祐子*1・大澤剛士*2・和口美明

Journal of Forest Research.14(6),358-364 (2009)[英文]

 

 スギ花粉による花粉症を発症する人の数は増加傾向にあり、深刻な社会問題となっている。スギの雄花生産量には年変動があるため、その生産量を予測することが花粉症対策のために求められている。著者らはスギの雄花生産に年変動を与える要因として個体内資源量動態に着目し、解析を行った。また、被陰処理により個体内資源量の操作実験を行い、個体内資源量が雄花生産量に与える影響の検証を行った。その結果、前年夏の気温と降水量および前年に雄花量がその前の年よりも増加することが、雄花生産量に負に影響し、前年夏の日射量、および個体の胸高直径が雄花生産量に正に影響することが予測された。操作実験の結果、被陰処理により個体あたりの雄花生産量は有意に減少し、根の非構造体炭水化物量が正に影響することが示された。これらの結果から、スギの雄花生産量の予測には個体内資源量をパラメータとして考慮することが有効であることが示された。

キーワード:人工被陰、雄花生産、マスティング、資源動態、非構造体炭水化物

 

*1 現在、北海道大学創成研究機構 
*2 神戸大学(現在、神奈川県自然環境センター)

 

 

ササの開花特性と遺伝構造から示すジェネットの非一回繁殖性

宮崎祐子*1・大西尚樹*2・日野貴文*3・日浦 勉*4

Journal of Plant Research.122,523-528 (2009)[英文]

 

 ササ類は開花・結実の豊凶がきわめて明瞭で、生涯で一度のみ繁殖すると考えられている。しかしながらササ類は個体識別が困難であるため、これまで開花個体群のジェネット構造を把握し、その一回繁殖性について検証されることはなかった。今回、オモエザサ(Sasa pubiculmis)を用いてジェネット構造と4年間の開花パターン、およびラメット間の生理的統合について調べ、その繁殖特性について検討を行った。その結果、開花稈は全て同一ジェネットに属し、ジェネットの占める面積は3ha以上に及んだ。しかし、同一ジェネット内の稈は全て開花せず、大別すると、全ての稈が開花していない部分、開花稈と非開花稈が混在している部分、ほとんど全ての稈が開花している部分が同一ジェネット内に同時に存在した。一斉開花後に地上部が枯死した部分の地下茎からは、翌年以降に新しい稈や花序が再生する現象がみられた。開花する部分は年毎に変化したが、同一ジェネットでも4年間でまだ一度も開花していない稈を持つ部分も存在した。またラメットの生理的統合を調べるため、13Cを用いてトレース実験を行った結果、非開花稈から地下茎で繋がった開花稈へ13Cが転流していた。これらのことから、オモエザサは一斉に開花はするものの、必ずしもそのジェネットは一回繁殖型の生活史を有していないことが分かった。

キーワード:AFLP、クロナール植物、長寿命植物、マスティング、一回繁殖

*1 現在、北海道大学創成研究機構 
*2 森林総合研究所関西支所(現在、森林総合研究所東北支所)
*3 北海道大学環境科学院
*4 北海道大学苫小牧研究林

 

 

クマイザサにおけるマイクロサテライトDNAマーカーの開発

宮崎祐子*1・大西尚樹*2・平山貴美子*3・永田純子*4

Conservation Genetics.10,585-587 (2009)[英文]

 

 クマイザサは日本の冷温帯地域とその周辺に広く分布するササ類である。著者らは本種において8遺伝子座のマイクロサテライト領域を単離した。対立遺伝子数は2から8で、1遺伝子座あたりのヘテロ接合度は0.13から0.74であった。8遺伝子座のうち7遺伝子座についてはミヤコザサにおいても多型が観察され、他種のササにおいても増幅が認められた。これらの遺伝マーカーはササ属において、クローナル構造の識別や集団遺伝学への応用が可能である。

キーワード:クロナール植物、ササ、種間増幅

*1 現在、北海道大学創成研究機構 
*2 森林総合研究所関西支所(現在、森林総合研究所東北支所)
*3 森林総合研究所関西支所(現在、京都府立大学)
*4 森林総合研究所

 

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