研究報告No.40再録

銅系木材保存剤を加圧注入した杭の耐久性(1)
銅の吸収量と耐用年数の関係

酒井温子・岩本頼子*1・中村嘉明*2・小林智紀*3,4

木材保存.36(1), 17-22(2010)

 

 奈良県森林技術センター明日香実験林では、JIS K 1571:2004に準拠した野外防腐性能試験を実施している。薬剤が加圧注入された寸法30×30×600mmのスギ辺材試験体を、半分の長さまで地中に埋め込んで設置し、1年に1回引き抜き、被害度を調査してきた。 CCA3号、NCU乳剤およびキトサン銅で処理された杭の被害経過において、地際部の被害の開始年、進行速度および耐用年数は、いづれも銅系保存剤であるにもかかわらず薬剤ごとに異なった。これらに、既報にて被害経過を示した8-オキシキノリン銅とACQ1号を加えた5種類の銅系保存剤で、銅の吸収量と耐用年数の関係をみると、いずれの薬剤においても、銅の吸収量が約0.5kg/㎥で明日香実験林において約10年の耐用年数が期待できることが明らかになった。しかし、銅の吸収量が0.5kg/㎥以上、および耐用年数が10年以上の領域では、薬剤によって付与できる耐用年数に差が生じ、銅の吸収量が1.0kg/㎥の場合、耐用年数は、CCA 3号では約21であるが、他の薬剤ではそれ未満の年数となった。

キーワード:野外試験、耐用年数、銅、木材保存剤、劣化

*1:現、奈良県景観・環境局環境政策課  *2:現、ウッドモンド技術士事務所
*3:ケミプロ化成株式会社   *4:現、三和インセクティサイド株式会社

 

 

 

木材保存の現状と将来[5]
木材防腐剤、防かび剤(3)  天然系薬剤

酒井温子

防菌防黴誌.38(8),527-537(2010)

 

 現在、日本で一般に広く使用されている木材用の防腐剤や防かび剤には、天然系薬剤はほとんど見られない。今回は、既往研究より、天然系薬剤の現状として、日本において伝統的に使用されてきた薬剤、植物体に由来する成分、微生物に由来する成分、抗菌成分の固着剤としての利用などについて解説し、今後の実用化の可能性について考察を行った。

キーワード:木材保存剤、防腐防かび効力、天然系化合物

 

 

大断面スギ心材の乾燥と薬剤注入(1)
注入時の含水率とインサイジングが薬剤浸潤に及ぼす影響

酒井温子・寺西康浩・海本 一・増田勝則・田中陽子・伊藤貴文・桃原郁夫*1・
    矢田茂樹*2 ・藤本登留*3 ・蒔田 章*4 ・茂山知巳*5 ・山口秋生*6 ・手塚大介*7

木材保存. 37(1) , 12-19 (2011)

 

 大断面無垢スギ製材を対象に、一定の品質を確保し長期優良住宅等にも対応できる加圧注入処理技術を開発することを目的に、注入時の含水率とインサイジングが、スギ心材の薬剤注入量や浸潤度に及ぼす影響について検討した。その結果、注入時の含水率が低いほど、薬剤注入量や浸潤度は高くなる傾向が見られたが、含水率が約20%であっても、インサイジングを施していないスギ心材に加圧注入法により薬剤を注入した場合、製材のJASに定める薬剤浸潤度の基準(80%)に合格するのは、1/2~2/3であった。しかし、注入前にインサイジンを行い、含水率を約50%以下まで低下させてから薬剤の加圧注入を行うと、すべての試験体が90%以上の高い浸潤度を示し、JASの浸潤度の基準に合格した。

キーワード:スギ心材、乾燥、含水率、インサイジング、薬剤注入、薬剤浸潤

 

*1:(独)森林総合研究所  *2:元 横浜国立大学  *3:九州大学大学院農学研究院
*4:大日本木材防腐㈱  *5:㈱ザイエンス  *6:越井木材工業㈱ 
*7:兼松日産農林㈱

 

 

過熱蒸気処理条件と発現する耐朽性・寸法安定性

伊藤貴文・増田勝則・安島 稔*1

 

第25回日本木材保存協会研究発表論文集.8-14 (2009)

 

 処理槽内の温度分布が少ない過熱蒸気処理装置を製作して、それによる加熱処理を、温度と時間を変えて行い、耐朽性や寸法安定性等、付与される性能について検討した。
処理に伴い発現する耐朽性や寸法安定性は、処理温度と時間に依存した。その一方で、加熱処理時の重量減少率をx軸に、抗菌操作時の重量減少率やMEE、ASEをy軸に取ると、処理の温度や時間に関係なく、前者と後の三者はそれぞれ、同一の線上にプロットできる関係にあることが分かった。樹種による相違も認められ、同一の処理でも付与される耐朽性には差があり、240℃°8時間の処理で、木材保存剤の性能基準を満たしたのは、スギとベイツガで、ヒノキやベイマツ、アルダーではその基準値に及ばなかった。モウソウチクは、供試したいずれの木材よりも、軽度の処理で高い耐久性が発現した。加熱処理により生じる重量減少率と抗菌操作時の重量減少率との間には、スギ辺材と同様、一定の関係が見られた。しかし、両者の関係にも樹種による差があり、スギとベイマツ、ヒノキとベイツガはそれぞれ同一のライン上にプロットが並んだ。処理に伴う重量減少率を同一にして比較すると、発現する耐久性は、スギ=ベイツガ>ヒノキ=ベイマツ>アルダーとなった。

キーワード:過熱蒸気、耐朽性、寸法安定性

*1:㈱ヤスジマ

 

 

吸湿性を抑えた不燃木材の創成

伊藤貴文・横谷 昭*1・春日二郎*

第26回日本木材保存協会研究発表論文集.32-37 (2010)

 

 ホウ酸あるいはリン酸ジグアニジンを主剤として、その溶解度を高める助剤に炭酸アンモニウムまたは、炭酸水素アンモニウムを用いることで、不燃材料の認定基準である「コーンカロリーメータによる20分間での総発熱量8MJ/㎡以下」を達成できる濃度の薬液が、室温レベルで調製できた。これらの助剤を用いたのは、薬剤含浸後に行う60℃程度の温風乾燥で、二酸化炭素とアンモニアガスと水に分解され、吸湿性が高いアンモニウム塩が処理木材中から分解除去されると考えたことによるが、実際の実験でもそのことが証明され、吸湿性が極めて低い不燃木材を作ることができた。さらに、ホウ酸を主剤としたときには若干のホウ酸ナトリウムと酸化ジルコニウムを添加することで、また、リン酸ジグアニジンを主剤とした場合にはコロイダルシリカやホウ酸を少量添加することで、その総発熱量を抑制することができ、スギ材にあっては、その密度に関係なく、安定した不燃性能を得ることができた。          

キーワード:不燃木材、リン酸グアニジン、ホウ酸、炭酸アンモニウム、炭酸水素アンモニウム

*1 :㈱ヨコタニ

 

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