研究報告No.41再録

スコア表とGISを用いた林地生産力分布図の作成

和口美明・齋藤 愛*1・田中和博*1

日本森林学会誌.93 (5), 235-238 (2011)

 

 地域や流域といった広い範囲を対象に林地生産力の分布を把握することは、森林資源を持続的かつ有効に利用する上で極めて重要である。広い範囲を対象に林地生産力の分布を把握するためには、局所ごとに林地生産力を推定する方法と、その推定方法を広い範囲に適用する方法を併せ持つ必要があり、前者としてはスコア表の、後者としては地理情報システム(Geographic Information System:GIS)の活用が考えられる。本報告ではスコア表とGISを活用して林地生産力分布図を作成する方法を紹介した。本作成方法は、1) 作成手順が合理的で理解しやすい、2) スコア表がいくつもの地域で既に作成されている、3) それらのスコア表が採用している多くの環境要因において主題図がGISを用いて作成できる、そして4) 主題図の作成に利用できる基盤データが数多く提供され、かつ容易に入手できる、といった特長を有していることから、多くの地域に適用できる実用的な方法であるといえる。

キーワード:林地生産力分布図、スコア表、GIS、地位指数

 

*1 京都府立大学大学院生命環境科学研究科

 

 

物質分配から見た成長と生存のトレードオフモデル

今治安弥*1・清和研二*2

日本生態学会誌.61:329-333 (2011)

 

 森林の種多様性を説明するモデルの1つに成長と生存のトレードオフモデルがある。このモデルは、明るいギャップで成長率が高い種は林内では生存率が低く、逆に暗い林内で生存率が高い種は明るい林冠ギャップでは成長率が低いといった、光環境傾度に沿った成長と生存のトレードオフを仮定している。ギャップが形成された光環境の不均一な森林でこの関係が成立すれば、これらの種は共存できるというものである。林内での生存率には病原菌や植食者などに対する被食防衛能力、あるいは一旦被食された後での再生能力が大きく関わっている。しかし、これまで、防御や被食後の回復のためにどれくらい植物が投資しているのかについての知見は少なく、防御・貯蔵両者への分配を同時に測定した研究は少なかった。そこで、耐陰性の異なる落葉広葉樹2種の実生を対象に、ギャップと林内での成長・防御・貯蔵への炭素分配パターンを調べた。ギャップと林内の両方で、耐陰性の高い種は低い種に比べて成長よりも防御へより多く炭素を分配し、逆にギャップで耐陰性の低い種は成長に多く分配した。このような種間の物質分配パターンの違いが結果的に成長と生存のトレードオフを成立させているものと考えられた。さらに、耐陰性の高い種では貯蔵より防御に優先的に炭素を分配していた。これら2種の物質分配パターンの違いは、個々の種にとって最適な物質分配パターンがあることを示唆している。

キーワード:種多様性、耐陰性、防御、貯蔵、競争

 

*1 奈良県農林部林業振興課     *2 東北大学大学院農学研究科

 

 

促進劣化試験および屋外曝露試験で評価した木材保存剤処理集成材の接着耐久性
(第1報)
促進劣化試験で評価した接着耐久性

柳川靖夫・増田勝則

木材学会誌. 57 (4), 211-222(2011)

 

 屋外曝露試験と促進劣化試験とを関連付けるため、および木材保存剤が接着耐久性に及ぼす影響、あるいは試験片寸法、密度、接着剤が接着耐久性に及ぼす影響を調べるため、ラミナを5種類(ACQ、E-NCU-E、CUAZ2、E-NZN、AAC)の木材保存剤(薬剤)で処理して作製した5プライのスギ集成材から幅10㎜および25㎜の小試験片を採取し、促進劣化試験として煮沸繰り返し試験および減圧加圧繰り返し試験(処理回数:2、5、10、20回) を行った。その結果、せん断強度の低下の度合いと薬剤間でせん断強度に差が生じることとは必ずしも対応しておらず、促進劣化試験前には25㎜幅>10㎜幅および高密度>低密度であったせん断強度は、促進劣化試験後に10㎜幅>25㎜幅となり、密度間でのせん断強度の差は消滅する傾向が見られた。木部破断率の判定に際し、接着層が確認できない破断部分を深木部破断と規定した深木部破断率は2回の促進劣化試験により増加した。

キーワード:促進劣化試験、接着耐久性、スギ、集成材、木材保存剤

 

 

促進劣化試験および屋外曝露試験で評価した木材保存剤処理集成材の接着耐久性
(第2報)
屋外曝露試験で評価した接着耐久性および促進劣化試験との関係

柳川靖夫・増田勝則

木材学会誌.57(5),265-275 (2011)

 

 ラミナを木材保存剤(ACQ、E-NCU、CUAZ2、E-NZN、AAC)で処理して作製した集成材の屋外環境下での接着耐久性について、ブロックせん断試験片を使用して調べた。屋外曝露試験の劣化条件は促進劣化試験よりも緩やかであることを示唆する結果が得られ、屋外曝露試験においては、試験片の幅や密度、あるいは接着剤の種類が接着耐久性に及ぼす影響は促進劣化試験より小さかった。木部破断率は促進劣化試験とほぼ同じ結果が得られ、接着層が確認できない部分を「深木部破断」とした深木部破断率は、促進劣化試験とは異なり顕著な増加を示さず木材の劣化が軽微であったことが示唆された。3種類の解析手法により、1次回帰式を基に促進劣化試験での各処理回数に対応する屋外曝露試験での曝露月数をそれぞれ算出した結果、処理回数もしくは曝露月数を常用対数として計算した場合、実測値を直接対応させて求めた処理回数に対応する曝露月数に最も近い数値を示した。

キーワード:接着耐久性、集成材、屋外曝露試験、スギ、木材保存剤

 

 

屋外環境下等で使用される木質軸材料の接着耐久性

柳川靖夫

木材工業.66(5),265-275 (2011)

 

 構造用部材としての集成材および単板積層材(以下木質軸材料)は、数十年程度の供用期間を前提としているため耐久性が必要とされる。これら木質軸材料の耐久性を左右する要因として、使用環境や管理手法等を別とするなら、まず接着耐久性が挙げられる。そのため、集成材もしくは単板積層材(以下LVL)の日本農林規格(以下JAS)では、使用すべき接着剤や満たすべき接着性能が規定されており、構造用部材には高い耐久性を備えた接着剤を使用する必要がある。したがって、JASを遵守して製造した木質軸材料を屋内で適切に使用するなら、供用期間中に接着強度が大きく低下することはないものと予想される。しかし、屋外環境下や土台等で長期間使用される木質軸材料では、雨水、日光、湿度変化に伴う含水率変化、あるいは木材腐朽、さらには木材保存剤(以下薬剤)による処理と言った要因が接着耐久性に影響を及ぼすと考えられる。そのため、これらの要因が木材の接着耐久性に及ぼす影響を明らかにし、供用期間中における接着性能の変化を予測することが望ましく、屋外環境下で木質軸材料を使用することを想定し、その長期の接着耐久性を調べるために、乾燥・湿潤処理を繰り返す促進劣化試験や、あるいは屋外曝露試験が実施されてきた。本報告では、主としてこれらに関する既往の研究を紹介するとともに、屋外環境下等で使用される木質軸材料の接着耐久性に関する問題点や関連する研究を紹介した。

キーワード:木質軸材料、屋外曝露試験、接着耐久性

 

 

金属を含有させたヒバ精油の木材防腐防蟻性能

酒井温子

木材保存.37(5),221-228 (2011)

 

 ヒバ精油を木材表面処理用の防腐防蟻剤として活用するために、ヒバ精油内の防腐防蟻成分の揮散性や光分解性の抑止策として、精油内に金属イオンの導入を試みた。その際、金属塩を溶解させた水溶液とヒバ精油を攪拌することで、ヒバ精油に金属イオンのみを移行させることができたが、金属によって移行した量は異なった。今回試みた中でヒバ精油への移行量がもっとも多かったのが銅で、次いで鉄、亜鉛の順であった。次に、ヒバ精油および金属を含有させたヒバ精油を用いて、JIS K 1571に準じた室内防腐性能試験を行った。腐朽による木材試験体の質量減少率を3%以下にするには、ヒバ精油をそのままで使用した場合には、処理溶液中にトロポロン類が1.2%以上必要であったが、銅を含有させた場合には0.4%であった。この銅含有ヒバ精油は、防蟻効力も有し、鉄腐食性や吸湿性についても性能基準を満たした。

キーワード:ヒバ精油、金属、防腐防蟻効力、錯体、トロポロン

 

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