伊藤貴文
木材学会誌.61(3),105-110(2015)
大量消費の時代の終焉を迎え、長らく需要が低迷している昨今の状況下で、横並びの製品は価格競争に巻き込まれ、規模が大きく生産性が高い事業所のみが生き残るという形で、企業の淘汰が進んでいる。そのような中で、健全な経営をしている奈良県内の小規模な木材関連企業3社に照準を合わせ、各社のものづくりや製品開発などの企業活動を通して、「成功の秘訣」を探った。結論から言えば、消費者や社会のニーズを的確に掌握し、それに基づいて他と差別化した付加価値の高い製品を作ること、そのための技術開発を継続的に実施すること、その際には、国や自治体の補助事業を活用し、公設試や大学の技術シーズやノウハウをうまく利用することが重要と思われた。さらに、特化した技術を保有する企業同士が連携を図るという形で産業の集積ができれば、生き残りをかけた競争において、それは大きな強みとなるであろう
キーワード:木材関連産業、差別化、付加価値の高い製品、継続的な技術開発、産業の集積
伊藤貴文
木材工業.70(11),517-520( 2015)
不特定多数の人が利用する公共性の高い建築物の内装には、原則として不燃あるいは準不燃等の防火建材を使うことが建築基準法により定められている。ところで、その建築基準法の一部改正があり(平成10年公布、同12年施行)、それまでの仕様規定から性能規定へと移行した。不燃材料に関して言えば、それ以前は、コンクリート、レンガ、鉄鋼、ガラス、モルタル、金属板など、国土交通大臣が定めたものに限られていたが、改正後は一定の基準を満たし、同大臣の認定を受けたものについても、同等の扱いがされるようになった。これは木材業界にあって大きなビジネスチャンスであり、不燃木材に関する研究開発が各地で、企業が主体となって行われるようになった。平成13年11月に我が国初となる不燃木材が認定されたのを皮切りに、これまでに30件を超える認定がなされている。ここでは木材を不燃化するに当たっての技術的な課題と、それを著者らがどのように考え、解決したか、さらには確立した技術によって作られた不燃木材が実際に使われている事例等を中心に紹介する。
キーワード:不燃木材、技術的課題、低吸湿性
寺西康浩・海本一・松元浩*1・吉田孝久*2・古田裕三*3
木材工業.71(2),52-57(2016)
スギ心持ち正角に対する適切な蒸気・高周波複合乾燥条件を明らかとするため、本報では、高温セット時間が内部割れの発生に及ぼす影響を調べた。その結果、高温セット時間が長くすると内部割れは多く発生したが、これを調節することにより、木口付近を除く繊維方向のほとんどの部位において内部割れの発生を抑制できることが示された。本乾燥法における、スギ材に対する適切な高温セット時間は、今回の検討では、24時間と判断された。
キーワード:スギ、心持ち正角、蒸気・高周波複合乾燥、内部割れ
*1 石川県農林総合研究センター林業試験場
*2 長野県林業総合センター
*3 京都府立大学大学院生命環境科学研究科