奈良県林試研報No.22(要旨)

スギ人工同齢林における林分収穫予測システムの開発(第1報)
Weibull分布による直径分布の予測

田中正臣・福本通治・藤平拓志

 奈良県吉野郡に設定した4箇所のスギ人工同齢林固定調査地から10標本の直径階別本数分布を求め、Weibull分布を用いた成長モデルによって直径分布の予測を行った。そして予測分布と実測分布を比較し、Weibull分布による直径分布の予測の適合性について調べた。
 平均胸高直径Dならびに断面積平均胸高直径Dgを知れば、r関数を用いてWeibull分布の尺度の母数bと形の母数cが推定できる。
 初めに調査地の上層樹高から地位級を決定し、地位級別樹高成長曲線式(樹高と林齢の関係式)によって林齢と地位級に対応する樹高Hnを求めた。そして、林分密度管理図の作成に用いた諸式を使ってD・Dgを算出した。位置の母数αについては、いずれの調査地においても間伐が行われていたため、実測の最小胸高直径を用いた。
 予測分布と実測分布の間で適合度検定(X2検定)を行った結果、10%の有意水準で10標本のうち6標本が棄却された。実測分布の直径階別立木本数にバラツキがあるため、実測分布を直接Weibull分布に当てはめて求めた推定分布と予測分布の間で適合度を調べると、有意水準10%で6標本のうち2標本が棄却された。
 Weibull分布による直径分布の予測は2箇所の調査地において、ある程度適合することが認められたが、残りの2箇所ではWeibull分布を適用することに問題があった。

 

 

奈良県における神社のスギの衰退

柴田叡弌・米田吉宏・和口美明・隅孝紀

 奈良県おけるスギの衰退状況を把握するために、1989年2月から1992年2月にかけて、129カ所の神社の境内に成立しているスギの衰退を調査した。調査した366本のスギのうち82本(22.4%)が衰退していた。また、48カ所(37.2%)の神社で衰退が認められた。これらの衰退がみられた神社は奈良盆地周辺に多い傾向が見られた。

 

 

ナフテン酸銅処理木材における薬剤分布と防腐効力の発現

酒井温子・中村嘉明

 薬剤の分布と防腐処理木材の防腐性能について、ナフテン酸銅溶液を加圧注入した正角材を用いて検討した。用いた樹種はヒノキとベイツガで、ヒノキは辺材と心材を含み、背割りがあり、ベイツガは心材のみであった。得られた結果は、以下の通りである
1)ヒノキ辺材部分では、放射組織への良好な浸透がみられたが、ベイツガ心材部分では、放射柔細胞への浸透が悪かった。このため、板目表面やまさ目表面からの浸透に依存せざるをえない正角材の中央部では、材表面付近の薬剤量はベイツガよりもヒノキの方が多い等、組織構胞と薬剤の浸透・分布状況には関連があった。
2)ヒノキの辺材部分は充分な薬剤の含有により、また心材部分は薬剤が浸透しなかったが、材が本来持っている耐朽力により、正角材全体が高い耐朽性を示した。一方、ベイツガは本来耐朽性が低い材であるため、薬剤が浸透した部分と高い耐朽性を示した部分は一致した。この正角材の場合、先端部から繊維方向10mmまで、および中央部においては材表面から繊維に垂直方向に数mmまでの範囲しか高い耐朽性が付与されておらず、割れや摩耗、人為的な切断等により内部が露出すると、環境条件によっては急速に腐朽が進むと予想された。このため、薬剤の浸透性が悪く、しかも、材そのものの耐朽性が低い材料の場合、インサイジング等で注入量を増加させる必要があると考えられる。

 

 

建築用材8樹種におけるCCA2号、3号木材防腐剤の防腐効力

中村嘉明

 前報に引き続き、素材の耐朽性が異なる8樹種の心材とCCA2号および3号木材防腐剤相互の関係における、防腐効力の発現傾向と有効注入量下限値を知るために、JIS A 9302「木材防腐剤の防腐効力試験方法」に準拠する腐朽試験を行った。CCA1号(前報)、2号、3号を総括した結果は次のとおりである。

1)樹種とCCAの組み合わせにおける有効注入量下限値を推定し、それら相互に差異があることを明らかにした。
2)それらの値はいずれの樹種においても、規格に示されたCCA系木材防腐剤の吸収量適合基準を上回り、耐朽性が低い樹種を例に挙げれば9~11kg/m3の薬剤収量が必要であろうと推定された。
3)樹種と薬剤との関連において、防腐効力をより明確にして、実用的な要求性能に応じた薬剤注入量を知るためには、腐朽試験期間および薬剤処理濃度を多段階に設定して検討することが望ましいことを明らかにした。
4)CCA1~3号の防腐効力の違いは、それぞれの銅化合物の含有量(平均値、%)に従い、2号(19.6)>3号(18.5)≧1号(18.1)に一致する傾向が確認された。

 

 

ミツマタ内樹皮パルプシートの強度的性質と光学的性質

伊藤貴文

 ミツマタの内樹皮を根元、中央、穂先の3つの部位に、重量を基準としてほぼ3等分し、NaOH、Na2CO3の水溶液およびその混合液を用いてパルプ化試験を行った。次いで、その繊維の形態や構成成分とシートの強度的性質および光学的性質との関係を明らかにした。
(1)穂先部の繊維は他の部位の繊維より、繊維の長さと幅が小さく、繊維壁が厚いことが明らかになった。一方、樹皮を構成する成分は穂先部でポリフェノール成分が他の部位より多いほかは、部位による差はほとんど認められなかった。
(2)各部位の蒸解収率はほぼ等しいが、結束繊維に由来するスクリーン粕は穂先部のパルプに多く、穂先部組織への薬剤浸透が困難であることが示唆された。
(3)穂先部のハルプシートの引き裂き指数は他の部位のシートのそれよりも明らかに低いが、これは穂先部の繊維が短いことに起因していると思われる。
(4)繊維の形態が異なるにもかかわらず、各部位の比散乱係数はほぼ一定値を示した。これは穂先部において、比散乱係数に及ぼす正・負の効果が相殺された結果であると考えられる。すなわち、他の部位の繊維に比べて、穂先部の繊維は細く、また、若干ではあるが繊維壁断面積が小さいので、単位質量当たりの表面積は大きいと考えられる(正の効果)。一方、穂先部は薄壁要素が多く、繊維間結合面積を大きくしている(負の効果)。
(5)穂先部の比吸収係数は他の部位よりも大きな値を示したが、これは穂先部のポリフェノール含有率が高いためと推測される。

 

 

集成材用ベイマツラミナの引張強度

柳川靖夫・上田正文

 ベイマツ材を使用して、通しラミナ、縦つぎを有さない幅はぎしたラミナおよび縦つぎ材の両側面に幅はぎしたラミナの引張試験を行った。結果は以下のとおりである。
(1)構造用大断面集成材のJASに準拠して通しラミナを等級区分したところ、1等ラミナの引張強度の平均値および最小値は、他等級ラミナのそれらより高かった。
(2)通しラミナの引張強度は、集中節径比との間に最も高い相関関係が認められた(r=-0.662)。また通しラミナの引張強度は、比重、MOEおよび集中節径比を因子として予測が可能であった(R2=0.580)。
(3)材縁部の節を有する通しラミナの引張強度の平均値、最小値および最大値は、1等および2等では、いずれも中央部の節を有する通しラミナのそれらより低かった。
(4)縦つぎを有さない幅はぎしたラミナは、集成材梁の引張側外層用ラミナとして十分な強度を有していた。
(5)縦つぎ材の両側面に幅はぎしたラミナの引張強度は縦つぎ材より高く、分散は少さかった。その平均値は、通しラミナの1等と2等の中間の値を示した。

 

 

奈良県における製材品の含水率および寸法変化の調査・分析

久保 健・小林好紀・山田英之・小野広治

 奈良県内の製材工場、製品市場および建築現場の各流通段階において、国産針葉樹建築用材としてのスギ・ヒノキ製材品の含水率、割れ、寸法変化等の実態について調査を行い、その特徴を分析した。これにより得られた知見は次のとおりである。
(1)スギ正角材は、製材工場、製品市場のいずれにおいても、含水率が高くそのバラツキ範囲が大きい。また、これらは人工乾燥されないまま取り引きされている。
(2)スギ平割材には、製材工場では高含水率材が多くみられたが、製品市場では乾燥材も比較的多く含まれていた。
(3)製材工場におけるヒノキ正角材の含水率は、辺材率により異なるが、一般的に心材の含水率が低く乾燥しやすいので、人工乾燥が比較的普及している。そのため、建築現場で施工される時点では、ほとんどの材がJASの乾燥材基準D25をクリアしており、含水率分布のバラツキも小さい。
(4)ヒノキ平割材は、製材工場では含水率のバラツキが大きい傾向がみられたが、積極的に乾燥されるために、建築現場で施工される時点ですべての材がD25の基準を満たしていた。

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