柳川靖夫・上田正文
スギ通しラミナおよび両側面にベイマツ材を幅はぎしたスギラミナの引張試験を行い、以下の結果を得た。
1)構造用大断面集成材のJASに準拠して、曲げヤング係数(MOE)と集中節径比を因子としてスギ通しラミナを等級区分したところ、全ラミナに占める低等級ラミナ(3、4等および等外)の割合は82%であり、ベイマツ通しラミナの割合である44%より高かった。
2)スギ通しラミナの引張強度は、集中節径比との間に最も高い相関が認められ、単相関係数は-0.577を示した。一方比重との単相関係数は0.173と低かった。またMOEおよび集中節径比を因子とした重回帰分析の結果、自由度調整済みの決定係数は0.475を示し、ベイマツ通しラミナの0.555より低かった。
3)スギ材の両側面にベイマツ材を幅はぎしたラミナの引張強度は、スギ通しラミナの1等とほぼ同じで、分散はスギ通しラミナに比較して小さかった。
中田欣作・杉本英明・海本 一
スギ材ロータリー単板を圧延して網状要素(ゼファー)とし、これに他材料を接着剤で張り合わせて長さ、幅ともに100cm、厚さ3mmの防草及び緑化ゼファーマットを製造した。製造工程は、ロータリーレースによる単板切削、単板の裁断、V溝ローラーでの圧延による単板のゼファー化、ゼファーの人工乾燥、ゼファーの接着の順である。防草マットとしては2回圧延したゼファーと寒冷紗とを接着して、緑化マットとしては4回圧延したゼファーと種子紙とを接着してゼファーマットを作製した。以上の工程における生産能率および製造コストを算出した。得られた結果は以下のとおりである。
1)単板は圧延回数に比例して圧延率が増加し、圧延工程での作業時間も同様に増加した。
2)接着工程は手作業により合成ゴム系接着剤をスプレー塗布して行ったが、接着剤のコストが高く、かつ、単板切削および圧延工程に比べて生産能率が著しく低くなった。
3)接着により作製したゼファーマットでは生産能率が低く、製造コストが高い結果となったが、これらは主に接着工程に起因している。接着工程の前にゼファーを十分に乾燥させる必要があるとともに、接着工程の機械化は困難であると考えられるため、製造工程の改良を行う必要がある。
中村嘉明
スギ辺材ほか8樹種の心材からなる杭試験用材に、IF-1000を主成分とする乳剤を加圧式注入処理した後、野外に接地ばく露して、15年間、継続的な耐朽性の観察評価を行った。それによって、乳剤が効果的に浸透して耐朽性の向上が認められるか、さらには乳剤が加圧式注入用木材防腐剤として適しているか否かを考察した。結果は次のとおり要約された。
1)加圧式注入処理後に測定した乳剤処理液の樹種別注入量は、水溶性防腐剤と比較して劣らなかった。また、処理液に乳化の破壊が生じた形跡は認められなかった。
2)地際部においても防腐効力の持続性が顕著に認められた。しかし、明らかに処理樹種本来の耐朽性や浸透性に応じて、耐用年度に差異が認められ、薬剤成分の浸透は得られたものの、必ずしも充分でなかったことが裏付けられた樹種が存在した。
3)加圧式注入用木材防腐剤として乳剤の適正は、乳化技術の向上を図れば、さほどの懸念はないと推測された。
4)IF-1000乳剤処理杭はいずれの樹種や部位においても、無処理杭に比べてほぼ2倍以上の耐用年数が査定された。地際部でも特にスギ辺材では、9ないし10年の長い耐用年数が査定された。
5)IF-1000製剤は著しい劣化環境に置かれると、漸次、効力が減衰するため、効力持続期間はおよそ10年と推定された。
田中正臣・福本通治・藤平拓志・小畠 靖
人工同齢林の直径分布を表す確率密度関数としてWeibull分布は広く利用されており、前報では推定分布・予測分布にWeibull分布を活用した。しかし、その母数の推定には幾つかの手法があり、それぞれ得失があると思われる。
そこで、本報告では母数の優良な推定方法を調べるため、西沢法、最小二乗法、モーメント法の3通りの推定法を使って、実際の直径階別本数分布(実測分布)にWeibull分布を当てはめ推定分布とし、実測分布と比較・検討した。
比較を行った結果、モーメント法が三通りの母数推定法の中で優良と思われた。しかし、モーメント法による推定分布の最小直径階が0となる場合や位置の母数αが負となる例があり、今後に課題を残した。
米田吉宏・和口美明・柴田叡弌
伐採跡地に成立した広葉樹二次林において間伐をおこない、強度間伐区、弱度間伐区および無間伐区を設定した。有用樹種を対象に、間伐後5年間の直径成長量から間伐効果を検討した。強度間伐区の上層木には間伐による直径成長促進がみられたが、弱度間伐区の上層木には間伐効果は認められなかった。下層木には間伐効果は認められなかった。上層木と下層木の直径成長量には大きな違いがみられ、下層木の直径成長量はきわめて小さかった。上層木では胸高直径の大きい個体ほど直径成長量が大きい傾向があった。各個体の直径成長には、その個体の周囲にある上層木密度が影響していたが、下層木密度の影響は小さかった。強度間伐区では、ツガ、ヤマザクラ、ミズナラおよびミズメの直径成長が促進されたが、ブナには間伐効果はあらわれなかった。弱度間伐区では、ミズキとミズナラに間伐効果が認められた。
小畠 靖
ヒラタケの発茸能力に優れた菌株を効率的に選抜する方法を見いだすことを目的に、15菌株を用いて、菌糸体伸長速度、培地分解力の指標としての培地重量減少率、子実体収量を調べ、これらの形質間の相関について検討し、以下の結果を得た。
(1)PGA培地における菌糸体伸長速度、おがくず培地の重量減少率、ビン栽培における子実体収量は菌株間で有意な差がみられた。
(2)菌糸体伸長速度とおがくず培地における菌糸体蔓延日数との間に相関はみられなかった。
(3)菌糸体伸長速度および菌糸体蔓延日数と子実体収量の間には相関はみられなかった。
(4)小型容器を用いたおがくず培地における菌糸体の成長は、ビン容器を用いた場合と同様な傾向を示した。このことから、小型容器を用いる方法は、菌株特性を調べる簡易な手段として有効であると考えられた。
(5)おがくず培地の重量減少率と子実体収量の間には相関はみられなかった。
以上のことから、ヒラタケについては、菌糸体伸長速度の測定による子実体収量の推定は困難であると考えられる。
衣田雅人
ハタケシメジ4菌株について、培養日数の異なる菌糸体および子実体の傘と柄各部分の抽出液を用い、ポリアクリルアミドゲルを支持体としたスラブ式垂直電気泳導法によって、3種酵素のアイソザイム分析を行った。酵素は、エステラーゼ、リンゴ酸脱水素酵素およびパーオキシダーゼである。エイテラーゼの菌糸体からのザイモグラムを比較することにより、4菌株は相互に識別されたが、子実体からのザイモグラムでは、3系統が相互に識別された。リンゴ酸水素酵素の菌糸体および子実体からのザイモグラムでは、4菌株の識別が可能であった。パーオキシダーゼの菌糸体からのザイモグラムは不明瞭で、活性が弱いバンドが検出されただけであり、子実体からのザイモグラムは明瞭であったがバンド数が少なく、4菌株の識別は不可能であった。また同じ菌株でも菌糸体の培養日数や子実体の部位が異なれば、バンド数が変わりRf値の異なるバンドが出現した。
吉岡佳彦・渡辺和夫・河合昌孝・小畠 靖
マンネンタケの菌床栽培を図るため、その生理的性質および培養特性について検討を行った。また、生理的性質ではマゴジャクシとの比較を試みた。結果は以下のとおりである。
(1)PDA平板培地におけるマンネンタケの菌糸体生長を、15~35℃の範囲で測定した。
最適温度は30℃であった。一方、マゴジャクシの最適温度は、25~27℃であり、33℃以上では生長しなかった。
(2)マンネンタケおよびマゴジャクシはラッカーゼ活性を有し、両者とも白色腐朽菌である。しかし、マゴジャクシはフェノールオキシダーゼ活性が弱く、ペルオキシダーゼ活性がなかったことから、リグニン分解能はマンネンタケより劣ると考えられた。
(3)マンネンタケおよびマゴジャクシともα-アミラーゼ活性が認められないことから、デンプンの分解はグルコアミラーゼにるよるものと推定された。すべての供試菌株はプルラナーゼ活性を有していた。
(4)マンネンタケは、針葉樹おが屑に比べ広葉樹おが屑をより分解した。また、マゴジャクシも同様の結果であったが、マンネンタケに比べると分解力は劣っていた。
(5)マンネンタケのおが屑分解力は、培養温度や培地含水率に影響された。
(6)おが屑培地を用いて培地pHの変化を調べたところ、菌糸の生長に伴いpHの降下が見られた。
(7)培養過程における酸素消費量は、ヒラタケやエノキタケに比べ、低い値を示した。