奈良県林試研報No.25(要旨)

シイタケ菌床栽培における子実体発生に及ぼす諸要因について

渡辺和夫

 耐熱性のビンと袋を用いてシイタケ菌床栽培を行い、菌糸体の培養・熟成過程における重量減少率、含水率、乾燥重量減少率(分解指数)および空隙率の変化を測定し、これらの要因と子実体の発生量および発生個数との関連を検討した。結果は以下のとおりである。
1)殺菌後の含水率が60%~63%の培地では、培養過程における含水率の増加量と子実体発生および発生個数の間に負の相関が認められた。
2)培養終了時における培地重量減少率及び空隙率は、子実体発生量および発生個数との間で正の相関が認められた。
3)分解指数と子実体発生量および同じく発生個数の間に相関は認められなかった。分解指数は、培地重量減少率と含水率の増加量の関数で表すことができた。したがって、分解指数は子実体の発生と正と負の要因を含むことが明らかになり、子実体の発生とは相関しないと考えられた。
 これらの結果から、シイタケ菌床栽培では、重量減少率、空隙率及び含水率の変化量は菌床の熟成過程を判断する指標になるが、分解指数は適さないと考えられた。

 

 

腋芽培養によるシダレザクラの繁殖(第1報)
改変MS培地による培養及び馴化・育苗

田中正臣

 シダレザクラ成木からの組織培養による繁殖技術の確立を目的に腋芽を用いて培養を行った。
 シダレザクラを繁殖する上での問題点を明らかにするために、培養培地に植物成長調節物質とショ糖を含む改変MS培地を使用し、発根した苗条の馴化・育苗を行い、繁殖方法について検討した。
 継代培養では、3代目以降、苗条の増殖率は頭打ちになり、枯損率が増加する傾向が見られた。
 発根培地へ移植した苗条のうち11.3%が発根した。馴化・育苗過程では枯損する幼苗が比較的多く、枯損しなかった幼苗では伸長成長が見られなかった。
 シダレザクラの腋芽培養による繁殖は可能であるが、培養・馴化・育苗の特徴として、移植(継代)を重ねると枯損しやすい傾向がうかがわれた。

 

 

受光伐による林内相対照度の誘導技術に関する研究(第2報)
16年生スギ人工林における林冠開空面積、胸高断面積合計、幹材積合計と林内相対照度の対応関係

和口美明

 林冠開空面積、胸高断面積合計および幹材積合計の3因子が、受光伐を計画する際の指標として有効であるかどうかを検討するため、16年生のスギ人工林で3回に分けて間伐を実施し、各回の間伐に対する林冠開空面積、胸高断面積合計および幹材積合計の変化量の配分パターンと、間伐に伴う林内相対照度の上昇量の配分パターンを比較した。
 林冠開空面積の増加量の配分パターンは林内対照照度の上昇量のそれと同じで、しかも両者の配分割合は3回の間伐ともかなり近い値となっていた。
 このことは、林冠開空面積の増加量と林内相対照度の上昇量の間に量的な対応関係があることに加えて、その関係が直線で表現できる可能性があることを示唆しており、林冠開空面積が受光伐を計画する際の指標として有効であると考えられた。
 一方、胸高断面積合計や幹材積合計の減少量の配分パターンと林内相対照度の上昇量のそれを比較すると、両者の対応関係は1回目の間伐と2回目以降の間伐で異なっていた。
 それは、調査対象とした林分が過密な状態であったことが原因であると考えられ、胸高断面積合計や幹材積合計を受光伐を計画する際の指標として利用するためには、間伐前の林分の状態を過密な場合とそうでない場合に分けて、方法を検討する必要があると考えられた。

 

 

木質構造建築物の接合板としてのスギ強化LVLの製造(第1報)
フェノール樹脂含浸処理を施した圧密化単板の性質

中田欣作・杉本英明・海本 一・川井秀一

 フェノール樹脂(PF)含浸処理を施したスギのロータリー単板を熱板プレスで圧縮して、密度の異なる圧密化単板を作製し、単板の樹脂含浸性、圧密化単板の寸法安定性および曲げ性能を検討した。得られた結果を以下に示す。
1)PF水溶液は常圧下での浸せき処理で容易に単板に含浸されPFの重量増加率(WPG)は含浸時間の対数に比例して増加するとともに、PF濃度に比例して増加した。
2)丸太は水槽中において、常温での浸せき、60℃での加熱24時間及び煮沸24時間の3条件での処理後に単板切削を行ったが、煮沸処理後の単板では他の処理よりWPGが低くなった。
3)PF含浸処理により圧密化単板の寸法安定性は著しく改善され、促進劣化処理後の厚さ膨潤率はWPG25%以上で7%以下であった。
4)圧密化単板の曲げヤング係数および曲げ強さは密度に比例して増加し、密度1.2g/cm以上の圧密化単板のそれらは、それぞれ30GPa、250MPaに達した。しかし、PF濃度30%では、両者ともに低下する傾向が見られた。

 

 

木質構造建築物の接合板としてのスギ強化LVLの製造(第2報)
熱板プレスによる無処理単板の圧密性

中田欣作・杉本英明・海本 一・川井秀一

 含水率(MC)を12、22および27%に調湿したスギのロータリー単板を、接着剤を塗布せずに2枚あるいは9枚積層し、熱板プレスを用いて各種の温度で元の厚さの1/3まで圧縮し、圧縮過程での応力、圧縮前後でのMCおよび厚さの変化を検討した。得られた結果を以下に示す。
1)単板の初期MCが高い方が、かつ、熱板温度が高い方が、圧縮過程での応力は低くなり、特に、圧縮度が10~50%付近の応力の高原域においてその傾向が顕著であった。
2)熱板温度90℃以上において、熱圧後の単板のMCは、積算温度(温度・時間の積)に比例して減少した。熱圧後の単板厚さは、熱圧後のMCに比例して増大したが、これは、圧縮変形が部分的に回復したためであり、初期MCが高いものほど、そのばらつきが大きくなった。
3)初期MCが高い単板では、熱圧時間を長くすると、厚さのばらつきは小さくなったが、仕上がりMCは変化しなかった。加圧および解圧による息抜きを3回繰り返すことにより、仕上がりMCは低下し、厚さのばらつきもより小さくなった。初期MCの高い積層物では、中心層付近のMCを下げるためには、この息抜きが効果的であると考えられる。

 

 

アゼライン酸充填処理による木材の寸法安定化

伊藤貴文

 木材の寸法安定化を目的として、ジカルボン酸による充填処理を実施した。アジピン酸、アゼライン酸およびセバシン酸をそれぞれ、エタノールと水との混合溶媒に溶解し、ヒノキ辺材試験片中に十分含浸させた。送風乾燥器を用いて溶媒を除去した後、70~180℃で試験片の乾燥を終えた。
 その結果、アゼライン酸処理が最も高い寸法安定性を試験片に付与できることが明らかになった。
 また、乾燥温度が高いほど、大きなバルキングが得られ、それによって、高い寸法安定性が木材に付与された。
 20g/100mlのアゼライン酸溶液を含浸し、140℃以上の温度で乾燥した試験片では、抗膨潤能が85%~100%に達し、吸湿による寸法変化がほとんどない材料を得るに至った。
 さらに、全乾と飽水を繰り返す乾湿繰り返し試験を実施したところ、薬剤の流脱は発生するが、ポリエチレングリコールに比べて、その率は低く、ある程度の耐候性が期待された。
 また、アゼライン酸やセバシン酸で処理した試験片では、乾湿繰り返し試験の初期に、顕著なバルキングの増加とそれに伴う寸法安定性の向上が認められたが、その後の寸法安定性の低下は比較的小さかった。これは水の注入に伴い細胞内孔に充填されていた薬剤が細胞壁中に運ばれ、 一次空隙内に移動したためと考えられる。

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