伊藤貴文・加藤賢二・西村眞人
耐久性のある寸法安定性の付与を主な目的として、トリカルボン酸の一種であるカルボキシエチルチオコハク酸を用いて、木材のエステル化を試みた。反応温度150℃としたとき、エステル化が進み、元来水溶性であったカルボキシエチルチオコハク酸は木材中で不溶化した。付与される寸法安定性も十分に高く、乾湿繰り返し等の促進試験後も優れた性能を維持し、さらに腐朽菌に対しても高い抵抗性を示した。処理に伴う材の暗色化を防ぐことができれば、実用可能な技術であると思われる。
伊藤貴文・加藤賢二・西村眞人
トリカルボンの一種であるカルボキシエチルチオコハク酸は、木材に耐久性のある寸法安定性を付与するが、処理に伴って木材が暗色化する。この問題を解決するため、処理温度の低減ならびにそのナトリウム塩での処理を試みた。ナトリウム塩での処理では、材色変化が顕著に改善される一方で、付与される寸法安定性の低下が認められた。また、処理温度を下げることによっても材色変化は少なくなった。乾湿繰り返し試験や煮沸試験の結果から判断すると、120℃まで処理温度を下げることの可能性が示された。
伊藤貴文・加藤賢二・西村眞人
カルボキシエチルチオコハク酸(CETSA)およびクエン酸を用いて、木材の寸法安定化処理を行った。本報では、リン酸塩を触媒として用いたが、それを添加したときの効果、および低温域で反応時間を延長することの効果について検討した。CETSAは、クエン酸に比べて高い反応性を持っているばかりでなく、木材試験片に大きなバルキングを与え、高い寸法安定性を付与した。反応時間を延長することによって、反応は進行した。一方、触媒を添加することによって、薬剤の流脱率は明らかに低下したが、初期性能にあたっては、吸湿性が高くなり、バルキングが若干低下したことから、寸法安定性も低下する傾向を示した。また、乾湿繰り返しや煮沸試験後の寸法安定性に関しては、エステル化の条件が穏やかなときにのみ、触媒添加の効果が認められた。
伊藤貴文・加藤賢二・西村眞人
反応温度や時間、濃度を変えて調整したカルボキシエチルチオコハク酸(CETSA)処理木材の強度性能を、JIS Z 2101に基づくクリア試験を実施することにより検討した。CETSA処理によって曲げヤング係数や曲げ比例限度は上昇するが、曲げ強さはほとんど変化しなかった。最大たわみ量は処理に伴い半減した。反応時間の延長や反応温度の上昇に伴い、脆性的な破壊をする試験片が増加し、曲げ比例限度や曲げ強さは低下した。部分圧縮ならびに縦圧縮性能は、CETSA処理に伴い向上した。これら一連の挙動は、架橋を形成すると考えられるグリオキザール樹脂処理でも認められていることから、CETSA処理においても架橋が形成されている可能性が示唆された。
寺西康浩・小野広治・沖中玲子・久保 健
スギ柱材の乾燥における、時間短縮と仕上がり品質の向上を目的として、従来の蒸気式熱風乾燥(以下熱気乾燥という)に高周波誘電加熱を併用した「高周波加熱併用乾燥」(以下、併用乾燥という)の乾燥特性および加熱効率に及ぼすさん木厚さの影響について検討を行った。結果は以下のとおりである。
(1)仕上がり含水率20%までに要する時間は、併用乾燥では72時間、熱気乾燥では360時間以上となり、乾燥時間が大幅に短縮された。また、熱気乾燥に比べ乾燥むら(乾燥後の含水率のばらつき)が無く、均一で高品質な仕上がりであった。
(2)材温上昇および含有水分蒸発に消費した熱量に対する投入された電力量の熱量換算値の比である加熱効率を求めると、密着状態の加熱効率が、さん木を挿入した場合のそれと比較して、最も高い加熱効率を示したとはいえず、空気を循環させる都合上、さん木を挿入することによってエアーギャップが生じても、インピーダンス整合させることができれば、高い加熱効率での高周波印加が可能であると考えられた。
寺西康浩・小野広治・沖中玲子・松山將壯・山本康二・永田恒雄・児玉順一・斎藤武彦
電極間のキャパシタンス変化に対して常時インピーダンス整合できるよう、高周波発振器の整合回路のコイルおよびコンデンサを可変式に改良した。乾燥開始時にさん木を挿入した状態でインピーダンス整合させ、乾燥中も常時インピーダンス整合させながら運転すると、電極間にエアーギャップが生じても加熱効率の低下が防止でき、一般機を想定した場合に比べ安い乾燥経費で同等の仕上がり状態が得られた。
中田欣作・杉本英明
樹脂含浸処理したスギロータリー単板を、平行積層(Pタイプ)、合板と同様の構成の直交積層(CHタイプ)およびその中間の構成の直交積層(CQタイプ)し、加熱圧縮して17プライの強化LVLを製造した。これらの強化LVL2枚を接合板として用いて大断面のベイマツ集成材をドリフトピン接合し、曲げ型およびL字型の接合試験をおこなった。得られた結果を以下に示す。
1)両接合試験において、Pタイプの強化LVLは、繊維方向に割裂破壊した。CHタイプの強化LVLは、繊維と直角方向に破断する場合があった。CQタイプの強化LVLは、破壊しなかった。いずれの場合も、強化LVLが破壊しない場合には、集成材が破壊した。
2)両接合試験において、最大荷重はPタイプの強化LVLが最も低くなった。CQタイプおよびCHタイプにおいて、集成材が破壊した場合には、最大荷重はPタイプより大きくなった。
3)CQタイプでは、耐力がすぐれているとともに粘り強い破壊形態を示すため、このタイプの強化LVLが接合板に適していると言える。
4)強化LVLの面圧試験より求めた強度および変形の異方性を基にした耐力解析を行った。最大耐力に達するピン位置が判明するとともに、そのピン位置において、実験値より求めた合力と計算値はほぼ一致し、この既往の計算法が近似的に適用可能であると考えられる。
岡崎 旦・西川禎彦
スギ天然出絞次世代品種の育成と天絞形質の遺伝様式を知ることを目的として、天絞クローン(中源3号及び雲外、いずれも京都北山地方原産)の人工交配を行い、得られたF1を試験地に植栽した。7年生時に除伐を行い、その除伐木を対象に天絞形質の発現状況を調査し、さらに一部の個体の板目面における放射組織を観察した。
(1)天絞形質の発現は、中源3号と雲外の正逆交配系統で70%および82%、自然交配系統で30%および35%であった。このことから、天絞形質に関しては次世代品種の選抜が十分期待できる。
(2)天絞形質発現個体および未発現個体間の放射組織細胞数は、未発現個体の方が多い傾向があった。
(3)複列放射組織は対照木にも認められたが、人工交配系統・自然交配系統の方が多い傾向にあった。