奈良県林試研報No.29(要旨)

ホンシメジ培養菌糸体の林地埋設による人工感染と子実体の発生

河合昌孝

 土壌培地に培養したホンシメジ菌糸体を、単独もしくは取り木苗と共にアカマツ林地に埋設したところ、8カ月から2年9カ月後に子実体を発生した。子実体は単生、または束生して発生し、接種から時間経過につれて、発生場所が埋設地点から移動した。各試験地に発生した子実体から分離した菌株と、接種に用いた菌株は帯線を形成しなかった。これらのことから、人工接種により子実体が発生したと考えられる。

 

 

不飽和ジカルボン酸による木材の寸法安定化

伊藤貴文

 寸法安定性の向上を目的として、木材中での不飽和ジカルボン酸モノマーの重合と、その反応生成物により木材のエステル化を試みた。マレイン酸(MA)、イタコン酸(ITA)の重合開始剤とともに水で溶解し、5~20%の溶液を調整した。MA単独処理のほか、MA・ITA混合系では両者のモル比が3:1~1:1になるように調整した。スギ辺材試験片に加圧注入した後、95℃でビニル重合を、続けて150℃でエステル化を試みた。反応に伴う重量増加率は計算値よりも著しく低く、反応中にモノマーが蒸発あるいは昇華したと推察された。バルキング率は低く、最大でも4%以下であったが、寸法安定性は高く、抗膨潤能(ASE)は60%を越えた。飽水・全乾繰り返しや煮沸試験を行った結果、重量およびバルキング率の減少が認められ、ASEも低下したが、煮沸後にも約40%のASEが保持されており、吸湿性も無処理の木材に比べて顕著に低かった。ITAの混合によって、重量増加率やバルキング率は増加したが、付与される寸法安定性にはほとんど変化がなかった。得られた結果は、架橋が寸法安定性発現の主な因子であるホルマール化木材のそれと酷似していることが判った。

 

 

トリカルボン酸処理による木材の寸法安定化(第5報)
カルボキシメチルチオコハク酸処理

伊藤貴文・加藤賢二・西村眞人

 カルボキシエチルチオコハク酸(CETSA)に代わる安価なトリカルボン酸として、カルボキシメチルチオコハク酸(CMTSA)による木材の化学修飾を行った。濃度を5~30%に調整した後、CMTSA1モルに対して、触媒としてリン酸水素2ナトリウムを1/14モルの割合で加えた薬液をスギ辺材試験片に含浸し、70~150℃で反応を試みた。CMTSA処理付与される寸法安定性は、CETSAのそれよりも若干低いが、実用的な観点からは十分であった。しかし、CMTSAの吸湿性は非常に高く、反応温度が120℃以下のとき、あるいは処理溶液の濃度が高いときには、残存する未反応物によって、処理材の抗吸湿能(MEE)は負の値を示した。また、反応温度が120℃以上のときには、飽水・全乾繰り返し試験での寸法安定性の低下は軽微であったが、煮沸試験では同一の反応温度で比較した場合、CETSA処理よりも性能の低下が大きくなった。したがって、CMTSA処理ではCETSA処理よりも高い反応温度で処理することが望ましい。

 

 

ニッケルを含有する薬剤による木材防腐の試み

酒井温子・加藤賢二・伊藤貴文

 木材用の防腐剤として、銅、亜鉛以外の金属の使用を検討するために、銅、亜鉛とともに、銀、ニッケルおよびコバルトを用いて、木材腐朽菌の生育阻止力を調べた。その結果、銀が最も高い阻止力を有していたが、価格の点を考慮して、今回は、次に高い阻止力を有していたニッケルに注目した。
 カルボキシエチルチオコハク酸金属塩の形で、ニッケル、銅および亜鉛を木材中に含浸させ、木材防腐効力試験を実施したところ、ニッケルはカワラタケに対しては銅と同程度の高い防腐効力を有していたものの、銅と同じくオオウズラタケに対してその効力は不十分であった。抗菌操作後の試験体のSEMおよびEDXによる観察で、オオウズラタケの菌糸は銅のみならず、ニッケルや亜鉛も集積できることが確認され、ニッケルに対しても耐性があることが明らかになった。また、カルボキシエチルチオコハク酸ニッケルの木材への固着力は弱く、耐候操作によって著しく溶脱した。
 以上から、ニッケルを木材中に十分に固着させることができれば、銅と同様に防腐剤として使用できる可能性があるが、ニッケルだけではオオウズラタケに対して十分な防腐効力が期待できないため、補助薬剤の添加が必要であると考えられた。

 

 

圧縮法を導入した薬剤注入法による木材の改質(第1報)
防腐集成材の作製と防腐性能および接着性能の評価

酒井温子・増田勝則

 スギ心材のラミナに防腐薬剤を加圧注入し、乾燥後接着して集成材を作製した。
 その際、2mの長さのラミナを2等分し、一方のラミナには薬液注入前に圧縮率40%の圧縮処理を実施し、残る一方には圧縮処理を実施しなかった。できあがった集成材の防腐性能と接着性能を、圧縮処理の有無で比較したところ、圧縮処理により、薬液の注入量が増加し、防腐性能が向上するとともに、接着剥離率も著しく低下した。また、乾燥に伴う割れも少なくなった。しかし、木部のせん断強さが圧縮処理により低下し、圧縮処理を施さなかった材の約80%となった。圧縮処理により、細胞壁に損傷が生じたためと考えられる。

 

 

前培養で添加されたベンジルアミノプリン(BAP)と光質が発根培養中のヒノキ(Chamaecyparis obtusa)に及ぼす影響

田中正臣

 発根培養前の継代培養で培地に添加されたベンジルアミノプリン(BAP)と光質が、発根培養中のヒノキ(Chamaecyparis obtusa)苗条に及ぼす影響について検討した。前培養でBAPを添加された苗条は、ホルモンフリーであったものに比べて、発根率や平均根長は小さくなるため、BAPは発根培養の前培養で使用すべきでないと考えられた。発根率の増加や根長成長、苗条成長について、緑色光は有効であったが、青色光は抑制的に作用した。発根培養は、550nm以上の光質下で行うのがよいと推察された。

 

 

アゼライン酸拡散処理による木材の寸法安定化(第2報)

岩本頼子・伊藤貴文

 アゼライン酸溶液の拡散処理により、加圧注入法と同等の性能を付与できるかを検討するため、まさ目あるいは板目木取りをした厚さ5mmのスギ辺材試験片を飽和状態にした後、濃度、温度、溶媒さらには試験片と溶液の体積比が異なる一連のアゼライン酸溶液中に、所定時間浸せきした。全乾状態において重量および幅を測定した試験片を、所定条件で調湿し、同様の測定を行った。その結果、まさ目試験片、板目試験片ともに、拡散法によって、加圧注入法と同等の性能を付与できた。

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