奈良県林試研報No.30(要旨)

大型ビンを用いたシイタケ菌床栽培(第4報)
種菌の接種法および培養途中における容器の反転が子実体の発生その他に及ぼす影響

渡辺和夫

 大型ビンを用いたシイタケ菌床栽培において、市販の2品種(H-600、H-607、北研)を用いて、種菌の接種方法や培養途中におけるビンの反転が子実体の発生に及ぼす影響を検討した。このような処理は、菌糸の蔓延日数、乾燥重量減少率、菌床含水率および子実体の発生量などに影響を及ぼした。H-600では、ビンの反転に拘わらず種菌を培地表面に散布する接種方法は中央部に接種する方法に比べ子実体発生は良好であった。また、H-607では、接種方法に関係なく、培養途中で反転しない方が子実体発生に良好であった。シイタケ子実体に影響する主要な要因は用いた品種によって異なることが明らかになった。

 

 

ヤマブシタケの菌床栽培において培養温度が子実体発生と菌糸体の栄養生理に及ぼす影響

小畠 靖

 培養温度が異なる3つの条件下で、ヤマブシタケの菌床栽培をおこない、培養温度が培養終了時の菌床中の菌糸体量および炭水化物量と子実体発生量に与える影響について調べた。子実体発生量は、25℃で培養した時に最も多くなった。この場合、培養終了時において、19℃区および22℃区と25℃区を比較すると、菌床中のキチン、アラビトール、マンニトールおよびトレハロース含有量が25℃区で多く、α-グルカンおよびグルコース含有量が著しく少なくなった。特に25℃区のアラビトール含有量は極めて多いが、子実体収穫後の菌床において著しく減少していたことから、アラビトールが子実体形成に重要な役割を担うと考えられる。更に25℃区における子実体発生量の増大は、培養課程において、子実体形成に必要なキチンと低分子炭水化物が栄養菌糸中に多く蓄積された結果であると考えられる。

 

 

ホンシメジの単核菌糸体の性状及び交配系について

河合昌孝

 ホンシメジ(Lyophyllum shimeji)の交配系を調べるために、自然発生した子実体および純粋培養により得られた子実体から胞子を採取して自家交配試験を行った。交配試験の結果、ホンシメジの交配系は4極性であることが示された。

 

 

ホンシメジ(Lyophyllum shimeji)-ウバメガシ(Quercus phillyraeoides)菌根の形成確認

長谷川美奈・河合昌孝

 ホンシメジ(Lyophyllum shimeji)をウバメガシ(Quercus phillyraeoides)に人工接種したところ、当年生実生苗と取り木苗の両方で菌鞘とハルティッヒネットを持つ菌根の形成が確認された。菌根は白色、ウール状で、菌鞘構造は表層がfelt-prosenchyma型、内層がnet~irregular-synenchyma型であったが、1本の菌根中でも連続的な変化が観察された。これはホンシメジがウバメガシに菌根を形成する事を確認した最初の報告である。

 

 

明日香実験林・野外杭試験報告(第7報)
試験地、樹種および防腐処理による被害状況の違い

酒井温子

 当センターでは、明日香実験林において約30年間野外杭試験を実施し、素材や防腐処理木材の被害経過から耐用年数を明らかにしてきた。本報では、野外杭試験結果をより有効に利用していくために、いくつかの検討を行い、以下の結果を得た。
 (1) 設置場所によって試験体の被害状況は異なった。すなわち、湿潤な土壌では試験体の底部よりも地際部において被害が著しいこと、落ち葉や枯れ枝が多く、生物による有機物の分解が活発な土壌では地中部の被害の進行が早いこと、草が試験体を覆うと地上部の被害が早く生じることが明らかになった。
 (2) 光学顕微鏡による観察で試験体に被害を与えた生物の推定を試みた。その結果、①表層部から内部へと徐々に進行する被害の主原因は、軟腐朽菌による分解であったが、ヤマトシロアリ、バクテリアおよび担子菌が同時に活動する場合もあった。②内部で褐色あるいは白色への変色と同時に、著しい脆弱化や多孔質化が生じる場合、活動しているのは担子菌であった。②の被害は、無処理のスギ辺材試験体と、容脱しやすい薬剤で防腐処理された試験体に観察された。一方、①の被害は、無処理のスギ辺材試験体のみならず、防腐処理された試験体や高耐朽性木材にも観察された。
 (3) 杭試験体の被害調査では、被害の経時変化を観察する必要上、非破壊的に試験体の表面しか観察できない。このため、内部被害に気づかずに、被害度を低く評価していることがあった。

 

 

木材に対する銅の固着性評価(第3報)
アゼライン酸銅の防腐効力とオオウズラタケによる銅の移動・集積

岩本頼子・酒井温子・伊藤貴文・中村嘉明

 アゼラン酸溶液とアゼライン酸銅溶液の二段処理について、薬液の銅の濃度範囲を0.14~1.12%として、防腐性能を評価したところ、白色腐朽菌であるカワラタケには十分な効力があったが、褐色腐朽菌であるオオウズラタケに対しては、JIS K 1571-1998にある木材防腐剤としての性能基準(重量減少率3%未満)を満たすことができなかった。そこで、耐候操作前後およびオオウズラタケによる腐朽後の木材試験片における銅の分布を、走査型電子顕微鏡(SEM)とエネルギー分散型X線分析装置(EDX)を併用して観察した結果、オオウズラタケによる腐朽に伴い、木材に固着している銅が移動し集積される様子がみられた。

 

 

高周波加熱併用乾燥法の実用化試験(第3報)
スギ柱材を乾燥する際の適正な高周波出力と効率的な高周波印加時期の検討

寺西康浩・小野広治・岡崎 旦・山本泰司・上田 守

 スギ柱材の人工乾燥において、時間短縮と仕上がり含水率の均一化が確認されている高周波加熱併用乾燥法の経済性を向上させるため、特にエネルギー単価が高い電力の消費量を抑える場合の鍵になる高周波出力と乾燥工程中における効果的な高周波印加時期について検討した。その結果、材温を95℃に加熱する際、高周波出力が小さくなると所要時間および投入電力量が急激に増加する点が認められ、これが経済的な高周波出力の設定下限値であることが明らかとなった。また、乾燥時間の短縮を求める場合は乾燥工程前半に、良好な仕上がり含水率を求める場合は乾燥工程後半に高周波を印加すると効果的であることが明らかになった。

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