母として、ひとりの女性としてできることが「仕事」になる
基本情報
自分と家族のために学んだアロマテラピー
アロマテラピーに出会ったのは、第二子出産に向けた不妊治療がきっかけでした。月経不順で婦人科に10代からお世話になっていましたが、不妊治療で通った2年ほどは大きなストレスがかかり、夫婦間がぎくしゃくしてしまいました。そんななか、体調を整えることは難しく、結局通院は一旦やめようと話し合ったものの、どうしても第二子をあきらめきれず、とにかく毎月の月経がくるように自分の身体を整えるため、さまざまな自然療法を試しました。すると、半年後に自然に妊娠することができたのです。
ヨガ、鍼灸、マクロビオティック、薬膳などをやってみたなかで、 私の心と身体を一番癒してくれたものがアロマテラピーでした。そして家族や身近な人たちにも、この癒しを届けたいと思うようになり、第二子が幼稚園に入ったタイミングで、パートで働いたお給料を使って週2回のアロマスクールに通いはじめました。セラピスト資格を取得後、2011年に「アロマテラピーサロン Neroli」をオープン。
大きな看板を掲げて始めたわけではなかったのですが、 子どもたちのつながりから少しずつお客さまが増えていきました。大きかったのは、小学校のPTAが主催する講習会の講師をご依頼いただいたこと。講習会で興味をもってくれた方が、サロンに来てくださるようになりました。
サロンにお越しいただいたお客さまの、その日の心体の状態を一緒に深めて見ていきながら精油をお選びしていると、「もっと精油のことを知りたい」「私も資格を取りたい」とのお声が増えてきました。そんな折、「公益社団法人日本アロマ環境協会」の総合資格認定校を開校できる機会をいただき、2016年にスクールを始めました。スクールでは、「家族のためにアロマを活用したい」という方から「インストラクターやセラピストの資格を取って仕事としたい」という方まで学んでいただけるよう幅広くコースを設けています。
故郷・宇陀で出会った大和当帰に魅せられて
スクールの開校準備を始めた頃、実家のある宇陀市で「薬草を活用したまちづくり」の一環として大和当帰の栽培希望者に苗の配布が行われることを知りました。以前、月経不順の治療で通院していた時に「当帰芍薬散(とうきしゃくやくさん)」を処方されていた私にとっては、ぜひ栽培してみたい生薬でした。というのも、大和当帰の精油をオイルトリートメントに取り入れたいと探しましたが、販売されていないことがわかり、それなら自分で作れないかと考えていたからです。
宇陀市の祖父の畑で大和当帰を育て始め、実際に自分で蒸留してみて、精油が商品化されていない理由がわかりました。大和当帰の精油は、わずか1㎖を採取するのに2000gもの葉っぱが必要なのです。大量の葉が必要なうえ、大和当帰の葉を採取できるまでには、最低2年もの栽培期間を要します。とても一人で商品にできるものではなかったのです。
なにか良い方法はないかと探ること数年、一昨年に転機が訪れます。中学時代の先輩が、宇陀市の「薬草プロジェクト」を担当している、宇陀市役所の方を紹介してくれたのです。今、宇陀では約80軒の農家さんが大和当帰を栽培していて、収穫後は「薬草協議会」が買い取っています。生薬の原料となる根は生薬問屋に卸されますが、 これまで使用されてこなかった葉を活用するためにも精油をつくりたいと、産業企画課に何度も足を運んだところ、受けられるサポートや商品について丁寧に教えていただきました。精油の加工については、宇陀市薬草加工組合「ウエルネスフーズUDA」の代表・山口武さんが名乗りをあげてくださり 、「大和当帰葉の精油をつくりたい」と言い続けて5年、ついにその願いが叶いました。
大和当帰の良さを伝えるブランディングと体験コンテンツ
今は「大和かぎろひ」というブランドを立ち上げ、大和当帰葉商品の企画・開発を進めています。精油、香水「kagiroi」、お茶と入浴用、そして大和当帰葉を練りこんだ三輪素麺もできました。 販路の開拓や成分検査では奈良県のお世話になり、ふるさと納税の返礼品に加えていただいたほか、県が運営する大和当帰サイトでの掲載もしていただいています。
また、大和当帰葉の良さを知っていただくために勉強会や、宇陀の大和当帰畑を訪ね、実際の栽培状況を見て触れていただく「大和当帰薬狩りツアー」も開いています。現地を知り、その環境を守りたいと思ってもらえるような活動をこれからも続けたいと思います。
周りの人の力に運ばれて夢が実現していった
もともと、家族や身近な人のためにアロマテラピーを始めたこともあり、起業支援や補助金などの制度があることも知らずに事業を続けてきました。スクール開校に関しても、お客さまのご要望と有難いご縁があってこそ進んだこと。今取り組んでいる大和当帰葉の商品開発ができているのは奈良県と宇陀市、「ウエルネスフーズUDA」の山口さんのご協力のおかげです。
今年は、奈良創生をテーマとした事業プランを発表する「ビジネスコンテスト奈良2020」にも挑戦し、大和当帰を通して健やかな女性を増やし、健全な家族や子どもたちの未来をつくっていくというプランで信用金庫賞をいただきました。周りのみなさんの力に運んでもらって、一人ではできなかったことを実現できていると強く感じています。そういった経験から、 これから起業を考えている方たちには、自分の力で足りないことは、県や市の窓口に相談し、プロの意見と力を貸していただきながら夢を実現させる方法もあるということをお伝えしたいです。
私は、最初から大きくビジネスを始めなくても、母として、一人の女性としての想いから始める小さなことも仕事になると考えています。それが次の世代の明るい未来に寄与し、経済を循環させるものになれば素晴らしいのではないでしょうか。そして私が事業を継続するにあたり 大切にしているのは「何のためにこの仕事をするのか」を常に見直すことです。忙しさや周りの雑音で乱れた時こそ立ち止まって、自分に問いかけます。最も大切なものは何か、優先順位を間違えていないか、と。
人は自分自身も環境も、時間とともに変化していきます。目指すものが変化することは構いませんが、 原動力となる自分の根本にある想いがずれていってはいないかと問いただすことが大切だと思っています。私自身は、年を重ね、子供たちが大きくなってきて、がむしゃらに子育てしていた頃と目線が変わり、次の時代に思いを馳せるようになってきました。これからは家庭の外にも視野を広げて、社会全体で子供たちを育てていくという目線で何かできることはないだろうか、と考えているところです。
(10月14日 取材)
印刷用PDF(西田さん記事)(pdf 492KB)