奈良の女性起業家取材 河内尚子さん(鳶や)

奈良の森を元気に! 木のブランドを育てる

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基本情報

  • 事業所名: 鳶や(Tonbiya)
  • 創業: 2017年  
  • 業種:製造業・商品企画・開発・販売など
  • 住所: 奈良県奈良市元興寺町
  • Mail: info@tonbiya.com
  • HP:https://tonbiya.com

           

材の仕入れから製作・デザイン・販売までを一貫して行う

 オリジナルブランド「鳶や -TONBIYA WORKS-」として、奈良産の木を使った曲げわっぱや箸、ハーバルウォーターなどの商品を販売しています。公式オンラインショップのほか、「奈良 蔦屋書店」など小売店でも販売中です。

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  メインの商品は奈良の木を使って製作しているわっぱ(曲げ物)です。販売だけでなく仕入れ、デザイン、開発、製作など商品のすべてに自身が関わっています。わっぱ(曲げ物)は秋田県の曲げわっぱの伝統工芸士監修のもと、材を吉野で仕入れ私が工房で木を曲げ、完成までを担っています。

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 商品はBtoBでも対応していて、企業のロゴを入れ、OEMノベルティやお土産品をつくっています。主に、木を使ったビジネスをしている県内外の企業様や地域商品を扱う方にご利用いただいています。
こうした販売や製作、商品管理は基本一人で行っていますが、協力いただいている方々に手伝ってもらったりもしています。



国産の木のことがどうしても気になった

  元々は会社員として、京都の広告代理店で7年近くカメラマンを務めました。その時の経験は撮影の指示や画像処理、カタログ製作やデザインなどに役立っています。その後転職し、全国の伝統工芸品を百貨店などに卸す老舗企業で企画開発を担当していました。ここではターゲット層や地域を調査し、商品を企画して価格を決め、全国にあるメーカーに製造してもらい、卸し、購入者へとつなぐ橋渡しの仕事でした。この時の経験は、今の商品企画やマーケティング、価格設定や掛け率などの調整にも役立っています。

 企画担当として入社したての頃、世間では既にネットブームが起こり、各社がネット通販を始めていたのですが、価格崩壊に巻き込まれた生産者の廃業や、お金やコネのある会社のマスコミ利用による商品価値の創造、様々な物流の大きな変化など、マーケティングの仕事をしていた私にとって、衝撃的な出来事が多くありました。

  そんな中、木製の国産品の製造、仕入れが常に遅れがちになり始めます。「日本は森林の面積が多いのにどうしてだろう?」と疑問に思い、調べ始めました。それこそが、起業に向けた第一歩だったのかもしれません。価格崩壊が起きる一方で、木工職人の減少もあり、現役職人に注文が集中し、出荷が小分けになって生産力が落ちたこと、中国経済の台頭により貿易商品の値段が上がったことが原因だと思われました。

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奈良産の木に携わり、好循環を生む

  私は生まれ育った奈良が大好きで、「木に携わりたい」という思いも強く、「もっと多くの作家さんや職人さんに奈良産の木を使ってもらい、それを発信する場をつくり、販売することで地域を盛り上げ、循環させる仕組みができないだろうか」と考えました。そしていくつかの企業に提案しましたが、なかなか上手くマッチングできませんでした。

 会社員時代に仕事を通じて出会っていた、のちに師匠となる曲げわっぱの伝統工芸士の「俺が教えてやる、お前がやれよ!」という一言に背中を押され、起業を決意。売上が右下がりの伝統工芸品のなかで、上がっていたのが秋田・大館の曲げもので、当時からその発信力に魅せられていました。

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  「わっぱに思いをのせたら、商品がほしい人は自然に森に還元する仕組みにつながり、背景が気になる方には日本の木のことを伝えられる。思いついたビジネスを実行してくれる企業が見つからないなら、自分でやるしかない。これからも気になるのなら、やってみよう!」と思い、勤めていた会社を退社し、起業の準備やわっぱ製作の修業を経て個人事業として2017年に起業しました。


経営でも製作でも失敗の連続

 それまで営業はしたことがなく、知り合いもあまりいない状況でしたから、最初は失敗の連続でした(苦笑)。企業の一員だったときとは違い、個人の営業だと相手にしてもらえなかったり、クライアントが大手だと当社の小ロットとマッチングできなかったり、支払いが先になる手形の問題があったり……。当初は、木材の仕入れすらも難しかったですね。

  貯金を切り崩しながら事業をしていたので、無料の経営相談所「奈良県よろず支援拠点」にものづくり補助金のことで相談したり、「知的財産権」のことで発明協会を頼ったり、「小規模事業者持続化補助金」のために商工会を利用したりしながら、進めていきました。

 また、はじめは製作面でも苦労しました。わっぱは、まず奈良産の木を師匠のもとへ送り、曲げる直前の状態に加工後、奈良へ戻して作業しているのですが、師匠がそばにいないとうまくできないのです(笑)。師匠のもとで修業した際に使った秋田産の杉と、目が細かく硬い奈良産の杉の材質が異なることも要因でした。

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  製作技術の課題は、作業を繰り返して体で覚えていきました。似通った木目や均一な色の木材だけを仕入れるという解決方法もあったのかもしれませんが、私は「木の表情は違いがあって当たり前なので選びたくない」と思っています。天然のものだから、それぞれに違いがあるのは人間の個性と同じ。そのままのものを愛でていただけたらと思っています。
 

 

事業のすべてが縁でできている

 この事業は私一人では絶対に成り立たず、たくさんの方とつながっていて、助けていただきながら、商品も、事業も「すべてが縁でできている」と感じています。私を心配した師匠が奈良まで来てくださったり、未だに月に何度も電話をくださったり。また、起業前に「こういうことをしようと思っていますが、ご縁があればご教示いただきたいです」とお手紙を送った県内同業者の方々にも、今もたくさん助けられています。

 屋号・ブランド名の「鳶や」は、上昇気流にのって上がる鳶から名付けています。周囲の人の力で、みなさんの思いと共に上がっていけたらいいなと。おかげさまで、2018年頃にようやく需要と供給が安定し、発信も当初より多くできるようになりました。

  奈良産の木を使うことで利益を出して、それを森や山側へ循環させていきたいですね。縁あったお客さんから何かのときに「国産や奈良産の木を使おうかな」と考える人や、林業の実状を深く知ろうとする人が出てきたらとてもうれしいです。将来、これまで関わってきた方々の、奈良産の木材を使ったいろいろな商品を販売する実店舗をオープンするのが夢です。

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何かしたい人はその時点で起業に向いている

 起業するには、周囲の人たちに、味方になってもらうほうがいいと思います。もし苦手な人に出会っても、必ず何かいいところがありますので、その部分に敬意を持ってお付き合いをするようにしています。

  今「何かしたい」「ビジネスのアイデアがある」などと考えている人は、起業が向いていると思います。目的やゴールが決まっていても、迷うことはあると思いますが、起業しようという判断をした時点で成功で、ほかの人よりも頭一つ抜けているはず。「現状維持でいいや」ではなく、既に進もうと思えているからです。生意気を言いますが自分の気持ちを大切にして、進めていってほしいと思います。

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(12月23日 取材)

印刷用PDF(河内さん記事)(pdf 414KB)


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