昔、昔、曽我の村に北林(きたばやし)という大きなお屋敷があった。そこに初孫が生まれて、旦那さんは大喜び。お祝いの赤飯を村中に配ったが、飯はまだお釜に残っていた。 その夜中、台所で何やら音がする。「もぐもぐ」。旦那さんがこっそり障子の隙間から覗(のぞ)くと、何と、二匹の親だぬきとたくさんの子だぬきが、赤飯をおいしそうに食べているではないか。 「あれ、お腹がすいとるのか。好きなだけ食べたらええ」。それからは、たぬきの親子のために毎晩ご馳走(ちそう)を用意しておいた。 ある晩のこと。このお屋敷に包丁を持った泥棒が入った。「やいやい、金を出せ」。旦那さんが恐る恐る蔵の鍵を泥棒に渡そうとしたその時、「ドシッ、ドシッ」と大きな足音がして、二人の大男の力士が入ってきた。「こら!さっさと出て行かんと、捻(ひね)りつぶすぞ」。さすがの泥棒も一目散に逃げ出した。 旦那さんが「おおきに、おおきに」といって深々と頭を下げている間に、二人の姿は消えていた。 その夜、旦那さんの夢にたぬきの夫婦が現れた。「いつもご馳走さんです。お陰で子どもたちはひもじい思いもせず育ちました。今夜はその恩返しができました」。「ああ、あの力士はお前たちやったんか」と、旦那さん。それからは、たぬきが北林家の守り神になったそうだ。
0744-21-1115
スマホアプリ「マチイロ」でも電子書籍版がご覧になれます。 詳しくはこちら
電子書籍ポータルサイト「奈良ebooks」でもご覧になれます。 詳しくはこちら