昔、昔、宇陀に水分(みくまり)の神様がおられた。宇太水分(うだのみくまり)神社には男の神様、上芳野の惣社(そうしゃ)水分神社には女の神様が祀(まつ)られていた。その女の神様が、年に一度、夫である男の神様に会いに行かれるという。 さて、秋の一日、上芳野の女神様は、輿(こし)に揺られ、お供と一緒に宇太水分神社に向かわれた。 その途中、道の中間点である東郷(とうごう)の地でひと休み。女神様はお供えされた化粧品でお化粧直しをなさった。白粉、口紅、頬紅、眉墨など、それはそれは、た~くさん。 ところが、ある年のこと。村人が、「化粧品といっても、神様はお使いにならんやろ。捨てるのももったいない。娘にやろう」といい、そこである神官が家に持ち帰った。 さてさて、化粧品を入れた箱の蓋をあけてみると、何と、中は空っぽ。びっくりした神官はこのことを村人たちに伝えた。「恋しい夫の神様にお会いなさる女神様。きっと美しい上にも美しくお化粧をなさる。やっぱり、神様はおられるんや」と。それからは、村人たちはいっそう信心深くなったそうや。
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