令和4年度の主な工事
揚前工事
旧織田屋形の修理工事では、礎石ごとに異なる沈みがみられたため、建物の床下全体に板状のコンクリート基礎を設置しました。また、コンクリート基礎の設置に伴い、礎石周辺の軟弱な土を取り除いたことで耐震性能も向上しています。基礎工事を行う場合、建物を解体してから実施する方法もありますが、旧織田屋形の場合は、基礎以外の木部はしっかりしているため、全体をジャッキアップして基礎工事を行うことになりました(「揚前工事(あげまえこうじ)」といいます)。
揚前工事では、建物全体を同じ速度でジャッキアップしないと、建物にひずみが生じてしまいます。そのため、慎重に、4日間で1メートル揚げました。揚前工事は珍しいため、その様子を早送りで見ることができる動画をYouTubeに掲載しています。ぜひご覧ください。
揚前工事の様子(動画はこちら(Youtube))
耐震補強
建物の耐震性能を上げるためには、できるだけ開口部を小さくして、補強材を入れる必要があります。指定文化財建造物では、建築基準法の適用が除外されていますが、人が出入りする建物については耐震性能を有していることが必要です。旧織田屋形は、橿原神宮の「文華殿」として結婚披露宴会場などに使われているため、橿原神宮としては、できるだけ周囲の庭園の眺望を妨げないようにしたいとのご意向がありました。
そのため、新たに「ガラス耐震壁」を開発して耐震補強することになりました。これは、従来の耐震壁の代わりになる地震に耐える設計のガラスに木枠を廻したパネルを作り、開口部にはめるというものです。これにより、外光を取り入れ開放的な雰囲気を保ちながら、景観も損ねることなく耐震性能が向上します。
貝塚発見?
旧織田屋形の修理工事では、しっかりした基礎を設けるため、地面を掘り下げて、コンクリートの基礎を設けました。
この過程で、地中から大量の貝殻が発見されました。貝塚なら大発見ですが、貝殻が見つかった場所は昭和15年まで民有地で、大正時代以降に貝殻からボタンを作る工場が建っていたらしく、ボタンに加工する部分をくり抜いたあと不用になった貝殻を埋めたようです。
大発見!!とテンションが上がりました(笑)
調査
文化財建造物の修理工事では、必ず建物の調査を行います。調査によって、過去の建築様式や技法、修理の痕跡などが分かるため、非常に重要な作業となります。旧織田屋形では、表の玄関には非常に立派なケヤキの木が梁などに使われていることが分かりました。一方、普段人の目に触れない建物の裏側では、細い木が使われていることが分かりました。
これは、織田信長の血筋を引く織田藩としての高い格式を示しつつ、できるだけ経済的な建物を建てようとした工夫だと思われます。その他、束石に古墳の石材を転用したことや玄関の後に大書院が建てられた事実も判明しました。
この程度なら県職員の技師も大工もひょいひょいと動けます