国宝 興福寺五重塔

国宝 興福寺五重塔について

 興福寺は、『宝字記』によると、天智8年(669)に藤原鎌足の夫人であった鏡女王が、夫の病気の回復を祈願するために、堂舎の建立を夫に再三願い出て許しを得て建立を果たしたとされております。

 山科にあったので「山階(やましな)寺」と呼ばれておりましたが、この寺がのちに近江から飛鳥に遷都され、さらに平城遷都に際して再度平城京に移建されて興福寺と改称されたと伝えられております。

 五重塔の創建は天平2年(730)光明皇后の発願によるものとされ、創建以来、度々雷や兵火、類焼による火災に見舞われ、5度の罹災と再建を経ております。応永33年(1426)のものが現在の建物となっております。塔の高さは、50.937mで、奈良県内で1番高い建物です。

 修理は奈良県が興福寺より受託し、文化財保存事務所興福寺出張所が直営にて調査と工事を実施します。

 

興福寺HP

現在の五重塔修理状況(令和6年12月26日時点)

 

奈良県で1番の高さ!!

興福寺五重塔

構造強化

【構造強化の工夫】

巨大な塔は軒が深く、軒先に大きな荷重が掛かるため、三手先組物(みてさきくみもの)で軒を支えています。

通常、このような組物では、肘木(ひじき)の上にYの字の断面形状をした巻斗(まきと)を乗せて、その巻斗の上にまた肘木を乗せて、組み上げられます。その時、肘木と巻斗で囲まれた部分は漆喰仕上げの土壁となっています。

しかし、この塔では、手先方向(てさきほうこう・壁と直交する方向)の肘木と肘木で挟まれる部分は下側の肘木と一木で作り出し、一体化して面的にすることにより、構造強化が図られています。

なお、肘木と肘木の間には外部から見える巻斗の一部が張り付けられ、その両脇の盃面戸(さかずきめんど)は胡粉(ごふん・貝殻から作られる白色塗料)が塗られていて、一見すると、通常の組物のように見えます。

基本情報

指定概要(国宝 興福寺五重塔)

○建立

・応永33年(1426)

○構造

・三間五重塔婆、本瓦葺

修理期間

 令和4年(2022)6 月~令和13年(2031)3月

修理方針

 五重塔の屋根瓦には、ずれ・破損等が見られ、軒廻りや造作の木部にも腐朽が確認できます。漆喰壁は上塗が剥離しており、汚損も著しいため、屋根瓦の全面葺替及び軒廻り・造作等の木部修理、漆喰壁の塗り直しを行います。また、組物、特に大斗の潰れや台輪へのめり込みが生じており、詳細調査を実施して対処が必要かどうか判断を行い、必要な場合にはその工法を検討・設計のうえ実施いたします。

令和5~6年度の主な工事

素屋根建設工事

 文化財建造物の工事を行う際には、まず建物全体を覆う全天候型足場(「素屋根(すやね)」といいます)を建設します。これは、工事のために建物を守っている瓦などを外してしまうと、雨や風で建物が傷んでしまうおそれがあるからです。興福寺五重塔では、高さ約51メートルの塔を覆うために、約60メートルの高さの素屋根を建設します。素屋根ができると、工事を行う職員も、安全に屋根に近づいて作業ができることになります。素屋根の建設は、令和5年7月から始まります。

素屋根

 

今後の予定

 今回の工事は、主に屋根の瓦の葺き替えになります。瓦の葺き替えとはいえ、高さが約51メートルもある五重塔の瓦は、概算で約6万枚と試算されています(今後、より正確な枚数が判明する予定です)。文化財建造物の修理では、できるだけ元の部材を再使用することが求められます。そのため、屋根から下ろした瓦は、全て保管して、職員が1枚1枚調べ、再度使用することができるか慎重に確認することになります。現在使われている瓦の中には、室町時代の瓦も残っており、600年以上も五重塔を雨から守ってきたことになります。

 瓦調査は令和6年度以降に実施の予定です。

 

屋根1屋根2

令和4年度の主な工事

隅部の検討

 今回の工事は、主に屋根の瓦の葺き替えの予定です。建物を支える柱や梁などは健全な状態であり、修理の必要はないと考えています。ただ、屋根を支える部材(「組物(くみもの)」といいます)のうち、大斗と呼ばれる部材に潰れなどが見られます。これは、五重塔という巨大な建物の重量を長年にわたって支え続けていることによるものと思われます。現在、その部分の修理が必要か、詳細な調査を行っているところです。

 

隅部調査

修理前調査、記録

 調査工事から引き続き、破損状況の調査や実測調査などを行い、実測データの整理や写真記録をとります。

 巨大建築物を支えるため、内部のほとんどが構造材で占められています。調査は狭い空間での作業となります。調査は素屋根建設後、引き続きさらに詳しく行っていきます。

調査

修理前写真撮影

 修理前の五重塔の姿を記録するため、写真撮影を行います。外部の撮影、内部の撮影、さらに五重塔は約51メートルと大きいため、ドローンによる空撮も行いました(一番上の写真など興福寺全体が写っている写真はドローンで撮影したものです)。

 五重塔には初層以外に床はありません。そして暗くて狭いので、内部の撮影では撮影機材を準備するのも大変です。

調査2

工事の準備

 工事を行う前には各種調査や写真撮影のために、作業環境を整える必要があります。初層以外の階は、通常人が出入りしないため、埃や鳥の糞が大量に積もっている状況でした。そのままでは痕跡調査が行えず、また、修理工事の作業の際の安全上の観点より、埃や鳥の糞の掃除を行いました。600年前の埃や鳥の糞もあるかもしれないと思いながら職員総出で掃除したところ、鳥の糞はおよそ3トンもありました。

はと糞処理

高所作業

 興福寺五重塔は、約51メートルの高さがあります。修理をする前に、建物の各部分の調査を行っていますが、時には最上層の高欄(塔の各層の周りに作られた手すりのついた床)や、命綱をつけて屋根の上で調査をすることもあります。地上ではそれほど風がない日でも、最上層ではかなり風が強く吹くことがあります。このため、屋根の軒を支える木材(「垂木(たるき)」といいます)が風によって削り取られているような箇所があります(「風蝕(ふうしょく)」といいます)。なお、興福寺は平城京を見下ろす高台にあるため、五重塔の上からは奈良の町の景色が良く見えます。

高所

これまでの調査

修理の規模が大きいと、工事の前に調査工事を実施しております。

調査工事についてはこちらのページに記載しております。