2023年3月号
|
|
【vol.43】
「神具」の時代から
「新具」の時代へ
吉谷木工所
専務
吉谷 侑輝(よしたにゆうき)さん
受け継がれてきた三宝
弊社は明治43年に創業し、現在は吉野ヒノキを使った「三宝(三方)」を製造しています。三宝は神様への供え物などをのせ、またお正月には鏡餅、お月見では月見団子をのせる台としても使われます。南北朝時代に作られたのが始まりとされ、下市町は三宝発祥の地といわれています。昔は町内にも多くの三宝製造業者がありましたが、今では4社になりました。それでも吉野ヒノキの三宝の全国シェアは80~90%を占めています。
地域が一つのチーム
三宝の材料には吉野ヒノキの背板を使っています。背板は丸太を柱に加工するときに出る端材を板にしたものです。限りある資源を有効に使う先人の知恵が詰まっています。吉野ヒノキは香りがよく、艶や粘り(折れにくい)があるのが特徴で、この粘りが三宝作りには適しています。三宝の加工技術の「挽曲げ」は、一枚の板にスリット(溝)を入れて水につけて曲げますが、粘りがないと簡単に折れてしまいます。吉野ヒノキの三宝は、地元の吉野林業、丸太を加工する製材所、そして私たちのような木工所が一つのチームのようにつながり、その中で作られています。
次の世代へ継承するために
古くから受け継がれてきた三宝ですが、生活様式の変化などもあり、三宝の市場自体は減少しています。そこで「神具」から「新具」をモットーに、三宝の製造を続けながら、三宝の技術を生かした新しい商品開発にも取り組んでいます。その中で生まれたのがマルチボックスです。ダストボックスや棚、スマートフォンのスピーカーなどさまざまな使い方が楽しめ、一昨年に開催された「にっぽんの宝物JAPANグランプリ」の工芸・雑貨部門でグランプリに輝きました。マルチボックス以外にも、茶道の道具を収納する「八宝茶箱」やマルチボックスの底板を外した「猫のトンネルベッド」などの商品も好評です。
材料の確保や情報発信など課題は多くありますが、マルチボックスなどの商品から三宝に興味を持ってもらい、一緒に盛り上げてくれる人が出てきたらうれしいです。これからも三宝を芯に据えつつ、三宝の技術を生かした商品開発、SNSなどを活用した情報発信・販路開拓に取り組み、三宝の魅力を多くの方に伝えていきたいです。
吉谷木工所の製品やこだわりについて詳しくは上記URLから!