奈良祭時記

県民だより奈良
2023年3月号

奈良祭時記
【vol.28】
蛇穴(さらぎ)の蛇曳(じゃひ)き汁掛(しるか)け祭り
御所市蛇穴にある野口神社で5月5日に行われています。「蛇穴区自治会」の区長の川端さん、副区長の西川さん、評議員の澤さんにお話を伺いました。
蛇穴の蛇曳き汁掛け祭り
撮影: 野本暉房
大和の野神行事(のがみぎょうじ)
一年の五穀豊穣を祈る
 奈良盆地では古くから榎(えのき)(ヨノミ)の大木が立つ塚に「野神(のがみ)」が祀られています。「野神」は水を司る神様である蛇(じゃ)の姿であることが多く、農業の守護神とも考えられてきました。
「野神」に対し、一年間の五穀豊穣・無病息災を祈るため、稲作が始まる5~6月頃に行われるのが「野神行事」です。県内には現在約30カ所の「野神行事」があり、「蛇穴の蛇曳き汁掛け祭り」を含めた14件が、「大和の野神行事」の名称で国の選択無形民俗文化財になっています。
村中で大蛇が大暴れ
 「蛇曳き」はおはらいの味噌汁を振り撒(ま)き、藁(わら)で作られた大蛇が集落を練り歩くユニークな祭りです。役行者(えんのぎょうじゃ)への恋情のあまり蛇に化けた村娘に、味噌汁をかけて退治したという伝説が由来として伝わっています。
 7時半頃、御神体(ごしんたい)と藁の蛇頭(じゃがしら)が頭屋(一年間の神事や祭りを主宰する家)宅を出発します。蛇頭は前日に作られたもので神社に到着後、藁を継ぎ足し10mを超える蛇綱(じゃづな)を作ります。蛇綱の完成後、ワカメの味噌汁を周囲に振り撒く汁掛けの神事が行われます。境内では参加者や見物客に味噌汁やおにぎりが振る舞われ、神社はにぎやかな雰囲気に包まれます。皆がお腹を満たした12時頃、いよいよ蛇綱が神社を出発します。行列を先導する触れ太鼓と笛の音が響く中、「蛇頭を北に向けてはならない」という言い伝えを守るため、時にはしっぽを前に向けて進み、集落の各戸を訪れます。家に着いた一行は、「よいしょ」の掛け声で蛇綱を大きく上下に揺さぶります。現在は家の前で行われていますが、かつては家の中で蛇綱を暴れさせていました。集落全域をくまなく巡り、15時半頃野口神社に戻ってきます。
 行事の締めくくりは「頭屋渡し」と「御供まき」です。神社内の蛇塚に蛇綱を巻き付けた後、次の頭屋宅に御神体を奉納し、神社内に組まれた櫓(やぐら)の上から餅を撒いて祭りが終了します。
伝統の舞
絆を紡ぐ祭りの力
 「蛇曳き」は江戸時代から続きますが、かつては男子のみが蛇綱を引いていました。昭和60年頃からは女子も加わるようになり、少子高齢化の影響で現在は地域の大人も一緒に蛇綱を引いています。
 「蛇曳き」にはさまざまな思いが込められていますが、現代で最も重要なのは人と人とのつながりです。初めて出会った人でも祭りで楽しい時間を過ごすだけで親しくなれる、祭りにはそんな力があります。これからも祭りを通して、楽しみながら地域の絆を深めていきたいです。
北浦さん、奥野さん

右から西川さん、澤さん

野口神社
5月5日
野口神社
感染症予防のため、蛇綱の巡回や御供まきなど行事の一部を行わない場合があります。
御所市蛇穴540
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