令和6年2月定例県議会における議員提出の条例議案にかかる再議書

奈良県の県行政に関する基本的な計画等を議会の議決すべき事件として定める条例の一部を改正する条例にかかる再議書

令和6年2月定例会において、令和6年3月25日に可決された令和5年度議案「議第120号 奈良県の県行政に関する基本的な計画等を議会の議決すべき事件として定める条例の一部を改正する条例」(以下「本件議案」という。)については、次の理由により異議があるので、地方自治法(昭和22年法律第67号)第176条第1項の規定に基づき、再議に付する。

理由

1 長と議会の役割分担について

 長と議会の権限の分配について、議会は、憲法第93条の規定により議事機関として位置づけられており、長については地方自治法第148条の規定により、当該普通地方公共団体の事務を管理し及びこれを執行するとされており、執行機関として位置づけられている。

 議会の議決事項については、地方自治法第96条第1項において、「次に掲げる事件を議決しなければならない」として限定列挙されている。したがって、議会の議決により団体の意思が決定する場合は、一般には同項に掲げた15項目の場合であり、これ以外の事項については、第2項によるもののみとされている。

 地方自治法第96条第2項において、「普通地方公共団体は、条例で普通地方公共団体に関する事件・・・につき議会の議決すべきものを定めることができる」と規定されており、同項に基づき、「奈良県の県行政に関する基本的な計画等を議会の議決すべき事件として定める条例」(以下「現行条例」という。)が平成20年に制定され、その議決すべき事項を追加して定めている。しかしながら、この場合においても、法令が明瞭に長その他の執行機関に属する権限として規定している事項及び事柄の性質上当然に長その他の執行機関の権限と解さざるを得ない事項については、議決の対象とならないものと解される。(「地方自治法施行令の一部を改正する政令等の施行について(通知)」(平成24年5月1日付け総行行第67号総務大臣通知))

 本件議案は、広範な基本計画を一律に議会の議決に付すことを規定しており、執行機関の行政執行を困難にするとともに、執行機関と議会との適切な役割分担を阻害するおそれがあるため、不適切である。

 なお、奈良県議会基本条例(平成22年12月奈良県条例第13号)第13条において、「議会は、二元代表制の一翼として、議会が議決権を有し、知事その他の執行機関・・・が執行権を有するという互いの役割を尊重しつつ・・・」と規定しているところ、本件議案は、執行機関と議会との役割分担を阻害している。その結果として、同条例第23条において、「議会に関する他の条例等を制定し、又は改廃する場合においては、この条例の趣旨を尊重し、この条例に定める事項との整合を図るものとする。」と規定していることに対して、本件議案は、この規定の趣旨に沿っておらず不適切である。本件議案は、議会が自ら制定した議会運営の基本を定めた条例の趣旨に鑑み適切でない内容の条例となっている。

 

 また、今回提案されている本件議案により、執行機関の計画策定及び行政執行にどのような影響があるか、取り急ぎ調査したところ、次のような問題があることが判明している。

 

 まず、今般の一部改正案においては、これまで議決すべき事件として定められていなかった「5年未満3年以上の基本的な計画等」、「法令により知事その他の執行機関が策定することとされている基本的な計画等」、「特定の地域を対象とする基本的な計画等」が議決すべき事件となることから、議決対象となる計画等が大幅に増加することが見込まれる。

 過去5年間で、各派連絡会において、104件の計画等が議決の要否を判断されており、そのうち70件が対象外となっている。内訳としては、5年未満の基本的な計画等が22件、「法令により知事その他の執行機関が策定することとされている基本的な計画等」及び「特定の地域を対象とする基本的な計画等」が33件、その他議長が定める除外事項15件となっている。その他、担当部局が明らかに議決対象外と判断している計画等もあり、それらを含めれば、新たに議決対象となる計画等は相当の件数になることが予想される。

 議決対象となる計画等が増加することにより、資料作成や県議会との調整など、職員の事務量が大幅に増大することは明らかであり、これは本県が進める働き方改革と逆行するものであり、ひいては県民サービスの提供に支障を来すことも懸念される。

 また、今般の一部改正により議決対象となった計画等については、各派連絡会の取り決めにより、これまで対象となっていた計画等と同様、上程予定定例会の1定例会前の議会に計画案の事前報告を行う必要があることから、計画策定のスケジュールが前倒しになる。

 「法令により知事その他の執行機関が策定することとされている基本的な計画等」の中には、例えば、県計画と市町村計画の計画期間の始期を4月で同一とすることを法令で規定されているものもあるが、県計画の根拠となる国計画が10月に閣議決定された後、県計画を12月議会で事前報告し、2月議会で議決を得た場合、市町村はその後に計画策定を開始することになるため、市町村計画の始期が4月に間に合わず、法令の規定に反する事態が生じる可能性があり、行政執行上懸念がある。

 さらに、個々の施設の整備計画など、「特定の地域を対象とする基本的な計画等」が議決対象となった場合、予算要求等の事業の本格的な開始が議決後になる可能性があり、場合によっては、補正予算要求が必要になるなど、事業の実施スケジュールが遅れるおそれがある。

 その他、「法令により知事その他の執行機関が策定することとされている基本的な計画等」の中には、国への事前協議や有識者等への意見聴取が必要なものがあり、議会で否決または修正可決された場合、再度、国への事前協議や有識者等への意見聴取が必要となり、関係機関との調整に時間等を要することにより、計画の開始が大幅に遅れるおそれがある。

 緊急に調査を行っただけでも以上のような問題が判明したことから、基本計画の議決対象を拡大することは、執行機関の行政執行を困難にするものと考えられる。

 

2 本件議案の個別条文について

(1)条例第2条関係

 本件議案により、「基本計画等のうち、法令により知事その他の執行機関が策定することとされているもの」(以下「法定計画」という。)を議決対象とすることとなるが、法定計画については、計画期間、記載項目や策定手続が法定されている場合や、計画の基本的な方針部分についても法律に基づき国が指針で示すこととされている場合がある等、現行条例第3条第1項の規定により定められている議決対象について法令上の制限があり、議会の意見を反映できないことが想定される。

 また、現行条例第5条において、「議会は、・・・基本計画等を変更し、又は廃止する必要があると認めるときは、・・・知事等に対し、意見を述べることができる」こととされているが、法定計画については、当該意見を述べたとしても、法令がある限り廃止できない等、法令の規定上対応できない場合がある。

 以上のとおり、法定計画を議決の対象とすることは、計画策定及び実施に係る行政執行に関し、議決内容の実施に向けて執行機関と議会の間に無用の軋轢を生みかねず、また、国の法令との間でも行政執行上支障が生じるおそれがあり、不適切である。

 なお、本件議案では、「基本計画等のうち、特定の地域を対象とするもの」についても議決対象とすることとなるが、当初特定の地域を対象とする基本計画等を議決対象外としていた趣旨に対する考え方及び今回議決対象とすることとした理由が不明確である。

(2)条例第3条関係

 本件議案の第3条第1項第1号の改正により、「基本計画等の内容」について議会の議決が必要とされているが、同項第2号の「基本計画等の期間」及び同項第3号の「基本計画等の実施に関し必要な政策及び施策のうち、基本的なもの」との関係が不明確である。

(3)附則関係

 どの計画から本件議案による改正後の条例の適用対象となるのかが不明確である。例えば、令和6年4月を計画期間の始期とする計画について、本件議案による条例改正に伴い、仮に当該計画にも適用があるとすると、その時点で議会の議決を経ていないため、令和6年4月からの計画実施ができないと解する余地もあり、一部の計画の取扱いが不明確であり、また、行政執行に大きな支障が生じる。

 

3 本件議案の制定手続等について

 平成20年6月議会に提案された現行条例の制定理由は、地方分権の進展等による地方公共団体の権限と役割の拡大や地方議会を取り巻く環境の変化、全国の地方議会における取組等を考慮した上で、更に国の調査会や委員会の意見等を踏まえ、議会が多様な民意を反映する合議制の議決機関として、執行機関に対する監視、審議、修正を行い、積極的な政策提案をすることであった。

 令和6年3月6日に行われた本件議案の提案理由説明は、平成20年6月議会における現行条例制定時の提案理由説明とほぼ同一の内容である。平成20年の制定から現在に至るまでの事情の変化や制定時の趣旨を踏まえた議論を行う必要があり、制定時の議決対象では、条例の制定趣旨が実現できないこととなった理由が明らかではない。また、執行機関において、現行条例の議決対象外の計画であっても執行機関の判断で議会の委員会に任意で報告する等の取扱いを行っていたが、その対応にどのような問題がありどの点が不十分で、本件議案による条例改正に至ったのかの理由が不明確である。

 また、各会派で合意した「議員提案政策条例制定フロー(平成20年3月24日各派連絡会決定。以下「フロー」という。)(最終改正 平成24年7月19日)」の手続が、本件議案の提案に当たり行われていない。

 このフローによると、事前調整会議の手続が記載されており、執行機関との協議や法制上の参考意見聴取、有識者からの意見聴取の手続が明記されているが、本件改正条例の制定に当たっては、その内容から事前調整会議の手続を経るべき必要性が高いと考えられる。

 しかし、議会として自ら定めたルールに則らずに、本件条例改正の提案を行う理由が不明確であり、改正条例の制定過程が不適切である。

 そもそも、基本計画の策定に関しては、地方自治法第96条第1項に掲げる議決事項ではなく、本来執行機関の権限において自らの判断と責任において、誠実に管理し及び執行する義務を負っているものである。本件議案は、議会の権限を拡大する内容であり、その趣旨、意義、必要性、執行機関の権限との関係の検討等が議会内部で十分に行われるべきであるが、議会内部において十分に検討がなされていない。

 また、本件議案は、議会と執行機関との役割分担を大きく見直し、それに伴い、執行機関の行政執行に問題が生じかねない条例改正であり、執行機関と十分な協議を行った上で、本件議案が上程されるべきものである。この点、自らが権限及び責任を有さない事務について協議を求めているのではなく、上述したように、本来執行機関自らの権限及び責任を有する業務である基本計画の策定であるため、協議があってしかるべきであると考えているものである。

奈良県太陽光発電施設の設置及び維持管理等に関する条例の一部を改正する条例にかかる再議書

令和6年2月定例会において、令和6年3月25日に議決された令和5年度議案「議第121号 奈良県太陽光発電施設の設置及び維持管理等に関する条例の一部を改正する条例」(以下「本件議案」という。)については、次の理由により異議があるので、地方自治法(昭和22年法律第67号)第176条第1項の規定に基づき、再議に付する。

理由

 産業・社会構造をクリーンエネルギー中心へ転換する「グリーントランスフォーメーション」(GX)は、我が国のエネルギー安全保障上必要であるのみならず、産業の強化、経済成長を実現するための最重要課題とされている。脱炭素の成否が企業及び地域の経済成長を左右する状況となっている(「脱炭素成長型経済構造移行推進戦略」令和5年7月28日閣議決定及び「GX実現に向けた基本方針」令和5年2月10日閣議決定)。こうした認識の下、我が国は、2050年カーボンニュートラル実現を国際公約に掲げ(「G20サミットで決意表明」令和2年1122日)、本県も同様の目標を決定した(「奈良県環境総合計画(2021-2025)」令和3年3月策定)。

 

 温室効果ガスの排出量の85%はエネルギー起源であるため、目標の達成には、化石燃料から再生可能エネルギーへの転換、再生可能エネルギーの主力電源化が必要となる。このことは本県も同様であるが、本県では内陸県であるという地勢的制約と送電線への接続制約があるため、風力や水力発電による再生可能エネルギー導入には限界がある。このため、本県では、太陽光発電を中心として再生可能エネルギー導入を進める必要がある。

 

 その際、太陽光発電施設は、自然環境、生活環境その他の環境に影響を及ぼす可能性がある。こうしたことを踏まえ、本県は、令和5年3月に「太陽光発電施設の設置及び維持管理等に関する条例(令和5年3月奈良県条例第42号)」(以下「現行条例」という。)を制定した。現行条例は、住民の生活環境に係る被害の防止と環境の保全を図るために必要な措置等を講ずることにより、本県の今後の発展に重要な太陽光発電の導入を住民の生活環境に係る被害の防止等と調和的に進めるためのものである。なお、県民等に義務を課し又は権利を制限する条例の制定には、パブリックコメント等の慎重な手続きが求められる。現行条例も、そうしたパブリックコメントや有識者からの意見聴取等の手続きを経た上で制定された。

 

 本件議案は、上記のとおり今後の本県の成長と発展に不可欠な太陽光発電について、事業及び行為に規制を行うもので、現行条例を改正するものである。しかし、本件議案は、概要以下のとおり、住民生活及び環境を守るという現行条例の趣旨を後退させ、県民等の正当な権利を脅かし、本県の成長と発展を阻害するものとなっている。すなわち、本件議案は、

 1.「住民の生活環境に係る被害の防止」といった現行条例の趣旨を後退させる

規制の対象及び内容が不適切で、規制の必要な事業等と規制の必要のない事業等を無分別に取り扱うこととしており、かえって、「住民の生活環境に係る被害の防止」や「環境の保全」といった現行条例の趣旨を後退させるものとなっている。

 

 2.「住民の生活環境に係る被害の防止」のために必要な措置等の実行を阻害する

義務の内容が不明確かつ履行困難なものとなっており、行政や事業者が条例を適切に遵守することができなくなるため、かえって、行政や事業者による「住民の生活環境に係る被害の防止」のために必要な措置等の実行を阻害するものとなっている。

 

 3.県民等の正当な権利を脅かす

土地の利用や発電事業の実施は財産権や経済活動の自由という憲法上の権利とも関連するにもかかわらず、現行条例の施行からわずか半年で、条例の目的に対して不必要に過大な規制を導入するもので、県民等の正当な権利を脅かすものとなっている。

 4.本県の産業競争力を衰退させる

現在、本県も含めて8県で同様の条例が制定されているが、規模及び区域の両面での規制を有する条例は、本県の現行条例のみである。規制区域の範囲は8県で一番幅広く、規模規制では和歌山県に次ぐ厳しい規制規模となっている。このように全国的にみても厳しい規制内容を更に厳しくする本件議案は、県民等の自由な経済活動を阻害し、本県の産業競争力を衰退させるものである。

 

 5.パブリックコメントなどを省略して県民等の権利を制限する悪しき前例

県民等へのパブリックコメントなどこれまで守られてきた重要な手続きを省略して、県民等の権利を制限する条例を制定するものであり、悪しき前例となる。

 

 等、県民生活や事業者の活動、県の今後の発展に重大な支障を生じさせるものとなっている。

 

 上記のとおり、本件議案は、上記のような大きな意義を有する太陽光発電に係る事業・行為規制を行うものであり、憲法上の権利とも関連することから、規制内容は、政策目的に鑑み、必要かつ最小限の規制として合理性を有するものでなければならないことは言うまでもない。このような観点からすると、本件議案には具体的には以下のような問題がある。

 

1 第5条及び第6条関係

 現行条例の第5条において、知事の許可が必要な範囲を「土地の形質の変更で規則で定めるものを伴うもの」に限定している趣旨は、生活環境に係る被害の防止や環境の保全を図るという現行条例の目的を踏まえ、一定の高さの崖が生じる等、住民の生活環境等への影響が大きいと考えられる方法による太陽光発電施設の設置のみ知事の許可が必要と考えたためである。

 本件議案のようにその限定を廃した場合、空き地や休耕田等に太陽光発電施設を設置する場合等、環境に対する影響が少ない場合にまで知事の許可を取得する義務を事業者に課すこととなり、条例の目的に比して過大な規制であるため、不適当と考える。

 第6条についても、本件議案のように改正した場合、第5号に掲げる区域である旧宅地造成等規制法に基づく宅地造成工事規制区域において同法の許可不要となるものにまで知事の許可を取得する義務を事業者に課すこととなり、現行条例の目的に比して過大な規制であるため、不適当と考える。

 

2 第9条関係

 本件議案の第9条において、第5条の許可を申請しようとする者は、「地域住民の意見を反映させるために必要な措置を講じなければならない」と規定されているが、反映しなければならない住民の意見とは何かが条文上明確でなく、住民の意見は多種多様なものが出されることが容易に想定されるため、事業者に義務を課すこととなる条文であることを踏まえ、当該条文の執行は困難である。

 また、特定の事業に対して住民の意見が相反する場合や、住民の意見が条例の趣旨、目的とは関係ない場合もあり得ることから、そのような意見についてまで事業者が反映しなければならないとすることは不適当と考える。

 

3 第10条関係

 本件議案の第10条第1項において、知事は、太陽光発電施設の設置が、一定の基準に適合し、かつ、「事業区域を管轄する市町村の条例・・・に違反していないと認めるとき」は、設置許可をすることができるとされているが、県の設置許可の要件の一部を市町村の条例等に違反しないこととすることは、本来県が責任を持って許可すべき事項の判断の一部を市町村に委ねることとなり、不適当と考える。

 なお、設置許可に関し、要件を満たした場合に「許可しなければならない」という規定から、要件を満たした場合に「許可することができる」という規定に改正されることにより、許可されるかどうかが不明確となることから、例えば事業者であれば、事業の進捗について見通しが立たず、問題がない事業にまで躊躇せざるを得なくなる等、事業者及び住民に無用の混乱を生じさせるおそれがある。

 また、第10条第項において、知事は、「当該設置許可に係る事業区域の全部又は一部をその区域に含む市町村の長その他の関係市町村の長から意見を聴き、その意見を尊重しなければならない」とされているが、県の設置許可に当たり、どのように意見を尊重するかが不透明であるとともに、関係市町村の長からの意見についても、必ずしもこの条例の趣旨、目的に沿ったものでないものもあり得るところである。どのような意見についても尊重義務があると規定することは、許可権者である県として、どんな意見をどの程度尊重すれば許可要件を満たしたことになるのか不明確である等条例の目的に従った条例の執行において、困難が生じる。なお、関係市町村の長の範囲も明確になっておらず、運用が困難である。

 

4 附則関係

 本件議案の附則において、本件議案は、「公布の日から施行する」こととされているが、本件議案は知事の許可が必要な範囲を広げる等、規制を強化する内容を含んでいるため、一定の周知期間を設けるべきであり、公布の日に即日施行することは不適当と考える。

 また、本改正案の施行日前に太陽光発電施設の設置に着手し、各種許可申請等を行っている場合について、改正前の条例との適用関係が明らかではなく、不適当と考える。

 

5 その他の本件議案に関する事項

 (1)県民等の権利・義務を制限する条例の制定・改正の過程における検討すべき事項

 現行条例は、県民等に義務を課し、又は権利を制限する条例である。そもそも、条例の改正に際しては、条例の目的と手段を基礎付ける社会的な事実、いわゆる立法事実が必要であるが、本件議案についてどのような立法事実があるか不明確である。

 なお、規制を行う場合であっても、その事実に対応するために適切な手段となってい

ることが必要であり、必要に応じて有識者等の意見を参考にしながら策定することもあるが、どのような検討や有識者等の意見があったのかが不明確である。

 経済労働委員会で提案議員は、本件議案の改正条例案は現行条例と大きく手続面として変わるわけではないと答弁されたが、本件議案の内容は、新たに許可申請の対象となる者を拡大し、許可に際し必要な義務を追加する等、県民等に義務を課し、又は権利を制限する内容を追加するものである。現行条例の制定時には、県民等に義務を課し、又は権利を制限することを踏まえ、パブリックコメント手続を実施している。本件議案について、上述のとおり県民等の権利義務に影響を及ぼすにもかかわらず、パブリックコメント手続を行っていないが、その理由が不明確である。

 

(2)各会派で合意した「議員提案政策条例制定フロー(平成20年3月24日 各派連絡会決定。以下「フロー」という。)(最終改正 平成24年7月19日)」が守られていないこと

 このフローについては、平成20年に定められているが、本件議案の提案に当たり、このフローの手続が行われていない。

 このフローによると、事前調整会議の手続が記載されており、執行機関との協議や法制上の参考意見聴取、有識者からの意見聴取の手続が明記されているが、本件改正条例の制定に当たっては、その内容から事前調整会議の手続を経るべき必要性が高いと考えられる。

 しかし、議会として自ら定めたルールに則らずに、本件条例改正の提案を行う理由が不明確であり、改正条例の制定過程が不適切である。

 また、本件議案について、その趣旨、意義、規制の必要性の検討等が議会内部で十分に行われておらず、執行機関と協議を行ったわけでもない。本件議案は、執行機関の行政執行に多大な影響を与える条例改正であり、執行機関と十分な協議を行った上で、本件議案が上程されるべきものである。この点、自らが権限及び責任を有さない事務について、協議を求めているのではなく、上述したように、本来執行機関の行政執行に多大な影響を与える条例改正であるため、協議があってしかるべきであると考えているものである。