ただいま提出しました議案をご説明する前に、昨年12月に発生しました下北山村上池原の国道169号における法面の崩落事故及び令和6年能登半島地震に触れたいと思います。
国道169号の事故では、1名の方がお亡くなりになりました。謹んで哀悼の意を表します。まずは、道路の応急復旧に全力を挙げ、6月を目途に1日も早く、交互通行を確保します。また、沿線地域の生活や生業は今回の事故で大きな影響を受けています。沿線地域の方々に心を寄せ、必要な支援をしてまいります。
年始に発生した能登半島地震に際しては、改めて、自然災害から県民の命と財産を守ることへの決意を強くしたところです。本県としても、地震発生直後から、職員等の派遣を行うとともに、救援物資の提供などを行っています。引き続き、被災地の実情に即した支援を全力で行ってまいります。
県政運営の基本方針
次に、本日、令和6年度予算案をはじめ、令和5年度補正予算案等の議案を提出して、県議会のご審議をお願いするに当たり、議員各位をはじめ、県民の皆様のご理解とご協力を賜りたく、所信を申し上げます。
県政に取り組む私の基本的な考えは、奈良県のもつ可能性を最大限に引き出し、県民が暮らしの豊かさを実感できる奈良県にしていくことです。「変えられるものを変える勇気を、変えられないものを受け入れる冷静さを、そして両者を識別する知恵を与えたまえ。」。アメリカの神学者の言葉です。県民にとって当たり前の感覚を大切に、冷静に、そして変えるべきは断固として改革していくことが、私の責務であると考えています。
奈良県には、豊かな自然や歴史文化、大都市近郊ならではの利便性など多くの魅力がありますが、一方で、仕事と子育ての両立のしにくさ、道路等のインフラ整備の遅れといった早急に改善していかなければならない課題も多くあります。
知事就任以来約10カ月、全身全霊でこれらの課題に取り組んでまいりましたが、限りある人員や予算で、県の経済や社会を活性化していくためには、徹底した行財政改革に、引き続き取り組んでいく必要があります。
知事就任後、直ちに取り組みました令和5年度当初予算の執行査定により、大型公共事業等の見直しを行ったところですが、新年度予算の編成過程においても、既存事業の見直し等に取り組み、21億円の歳出削減を行いました。
一方で、県民目線に立ち、奈良県の発展に重要と判断できる取組に予算を重点配分するとともに、組織対応力の向上等に向け県庁組織の大胆な見直しを行いました。
このような考え方のもと、編成いたしました新年度予算案は、一般会計総額では5,439億8,200万円、前年度の6月補正後予算に比べて0.7%の減となりました。
また、本県の財政運営の指標としております、交付税措置のない県債残高と県税収入額との比率は2.7倍と、昨年度より改善させるなど財政の健全性を維持しています。
この新年度予算案と併せて、財源措置が手厚い国の補正予算を積極的に活用し、物価高への緊急対策や、地域デジタル化などに積極的に取り組むため、令和5年度一般会計補正予算案第7号、61億円余を計上いたしました。
以下、予算案の主な内容につきまして、私が就任にあたって県民のみなさんに約束した「3つの責任」に沿って、来年度重点的に取り組む項目を簡潔にご説明申し上げます。
主要施策
1 県民や事業者の安心と暮らしへの責任
1点目は、県民や事業者の安心と暮らしへの責任です。
まずは県民の命と財産を守るための防災力の強化についてです。
日本一災害に強い奈良県を目指し、「奈良県地域防災計画」に基づき、自助共助の推進、地域防災リーダーの育成等に取り組みます。また、大規模な災害への対応を図るため、広域防災拠点等を活用した受援基本方針の策定や、五條市の県有地における受援機能確保等の検討を進めてまいります。
併せて、県下全域の土砂災害対策、河川の洪水対策など、防災・減災対策を引き続き推進いたします。さらに、老朽化が著しい消防学校の移転整備を進めることとし、消防学校教育のより一層の充実を図ってまいります。
次に、発達障害のある子ども等への支援の強化についてです。これまでの相談支援と療育支援等に加え、発達障害のある子ども等とその家族に寄り添い、早期の段階からライフステージを通じて伴走支援を行うため、県発達障害者支援センターの体制強化等を図ります。
また、支援を必要とする子ども等を、早期に適切な支援につなげるため、発達障害の診断を行う医師の確保・育成に取り組むとともに、福祉と医療が適切な役割分担と連携ができる仕組みを構築します。さらに、当事者を中心に、地域でチームとして支援する体制整備など、障害児支援の質の向上に取り組む市町村を支援するほか、関係機関のネットワークづくり等を行い、障害の有無に関わらず、誰もが能力を発揮できる社会を目指します。
西和地域における重症急性期拠点病院としての役割を担う西和医療センターの移転整備も進めます。昨年12月に移転候補地を「JR法隆寺駅南側地区」に決定したところであり、令和13年度中の開院に向けて、整備基本計画の策定や用地調査などに取り組みます。
2 奈良県の子ども、若者の未来への責任
2点目は奈良県の子ども、若者の未来への責任です。
昨年7月に「奈良県こども・子育て推進本部」を立ち上げ、こどもをまんなかにおき、社会全体で子育てを支援するため、こども・子育て施策を庁内横断的に進めることといたしました。
まず、保育士の処遇改善等について、大都市近郊に位置し、保育人材が都市部に流出している本県の実情に鑑み、民間保育所等に勤務する保育士の給与加算に取り組む市町村への補助制度を創設するとともに、保育士の処遇等の情報開示を進め、適正な保育環境の確保に努めます。
また、奈良県保育人材バンクによる潜在保育士の復職支援の強化、保育人材が様々な悩みを相談できる窓口の設置など、保育人材が県内で働き続けられるための取組を進めてまいります。
女性の就労支援では、県内女性に対し、新たにオンライン学習支援や有給インターンシップの機会を提供し、専門コーディネーターの伴走支援のもと、県内企業への正規雇用を促進するほか、テレワークでの就労支援の充実などにより、働くことを希望する女性が個々の能力を発揮し、就労できるよう支援してまいります。
さらに、奈良労働局と連携し、企業コンサルタントによる県内企業の職場環境の向上等への支援を実施するほか、働きやすい職場づくりに向けた好事例の横展開や男性の育休取得の促進など、男女ともに仕事と家庭・子育てを両立できる社会を推進してまいります。
このほか、「子ども医療費助成」については、昨年の6月補正予算で補助対象を高校生世代まで拡大し、全国でもトップレベルの水準としたところですが、子育て世帯の更なる負担軽減を図るため、助成方式を低額の窓口負担のみで済む現物給付方式に改め、全ての子育て世帯が経済的負担を気にすることなく安心して健やかな子育てができる奈良県を実現いたします。
次に、こども・子育てにやさしいインクルーシブなまちづくりについてです。県営都市公園を、こどもや子育て世代をはじめとした全ての世代にやさしい公園とするため、園路の段差解消やトイレの洋式化、授乳施設の設置などに取り組みます。
また、まほろば健康パークでは、障害のあるこども等が安心して利用できる、いわゆるインクルーシブ公園の機能確保について検討を進めてまいります。
私立高校授業料の実質無償化では、本県で育つ子どもたちに、それぞれの家庭の経済的な事情を気にすることなく、自らが希望する道を歩み、社会に羽ばたいてもらいたいとの考えのもと、年収の目安が910万円未満の世帯に対する県内私立高等学校等の授業料等への支援を大幅に引き上げ、実質的な無償化をスタートさせます。併せて、23歳未満の子どもを3人以上扶養されている年収の目安が910万円以上の世帯についても、子育てにかかる負担を考慮し、国立・公立・私立を問わず、授業料等への支援制度を新たに設けます。
次に、こどもたちを支える学校現場の改革支援についてです。教員が担うべき業務に専念し、子どもと向き合う時間を確保するため、教員業務支援員等の配置を拡充します。
また、不安や悩みを抱える児童・生徒が一人でも多く学びの場につながるよう、スクールカウンセラーやスクールソーシャルワーカーによる支援の拡充を行うとともに、不登校の状況にあっても、安心して学びを継続できるよう、オンラインを活用した支援体制を強化します。
さらに、県立高校の施設は、老朽化の課題も多く、なかでも、トイレに関しては、早急な改善が必要な状況であるため、「県立高校トイレピッカピカ5か年計画」を進め、全ての県立高校のトイレを洋式化・乾式化することで、教育環境の改善を図ってまいります。
このほか、教育委員会において、障害者活躍推進計画を策定し、障害者雇用率の改善に向け取り組んでいるところです。
3 豊かで活力ある奈良県を創る責任
3点目は、豊かで活力ある奈良県を創る責任です。
まずは、脱炭素・水素社会の実現についてです。「地球沸騰化」とも表現されるように、地球温暖化による気候変動は待ったなしの問題であり、脱炭素社会の構築に向けて、エネルギー施策、産業施策、二酸化炭素吸収源整備施策等を一体的かつ効果的に推進していく必要があります。
このため、県施設における太陽光発電施設整備など再生可能エネルギーの導入拡大を図るとともに、燃焼しても二酸化炭素を排出しない水素の利活用の取組を推進し、産業部門における脱炭素化を積極的に誘導・支援していくなど、カーボンニュートラルの実現に向けた、取組を加速してまいります。
また、奈良県フォレスターを市町村に配置し、施業放置林の恒続林化など、災害に強い森林整備を進めます。併せて、持続的に森林資源を供給できる森林づくりにより県産材の安定供給を図り、販路拡大や多用途での利用促進などにつなげてまいります。
次に、職員が県内企業を訪問して聞き取ったニーズや課題を起点として産業政策を再構築し、本県の潜在力に見合った経済成長を実現するため、今後の施策の方向性を「新しい産業政策のパッケージ」としてとりまとめました。
最も多かった意見や要望は、人材確保難や人手不足についてであり、学生と企業をより深く、強くつなげるなど、人材確保の抜本的強化に取り組んでまいります。
また、不足する産業用地の確保を進め、県内での投資を一層加速するため、新たな企業立地補助制度の導入や事業拡大への支援等を行います。さらに、県内企業との関係構築のための県庁版顧客情報マネジメントシステム導入、県内企業への外国人材の呼び込みや定着等の促進、海外展開や事業承継への支援、奈良発スタートアップのロールモデル創出などに取り組みます。
このほか、大和平野中央の県有地の活用については、「子どもを中心に多様な交流が生まれるまち 川西」、「次世代を担う学生×企業のまち 三宅」、「交通安全・安心のまち 田原本」を基本的な方針として、磯城郡三町でのまちづくりを推進してまいります。
次に、観光の振興では、奈良をさらに魅力ある観光地にするため、県内に重点エリアを複数設定し、地域や民間と連携して観光の目的地としての磨き上げを行います。具体的には、観光資源の磨き上げや高付加価値化、交通アクセスやインフラの改善等を進めるとともに、地域の観光人材の育成に取り組みます。
また、大阪・関西万博を契機とし、周遊・滞在型観光をさらに促進するため、外国人観光客にも旅前に奈良を目的地として選んでもらえるよう、興味・関心のあるキーワードを入力するとおすすめの奈良旅のプランが表示される観光リコメンドサービスの多言語化など、海外へ向けた情報発信・プロモーションを強化します。さらに、補助制度の充実等により、一層の宿泊施設誘致に取り組んでまいります。
これらの取組にあたっては、庁内横断的な奈良県観光戦略本部を新たに設置し、女性、若者等の視点も取り入れながら議論を重ね、「産業としての観光」の成長を目指し、観光の振興に取り組んでまいります。
農業分野においては、生産者の所得拡大を目指し県産農産物等の輸出を推進してまいります。このため、輸出先国のニーズに対応したサプライチェーンの構築に向け、県産農産物等の生産から流通・輸送、海外販売までの実態を調査するとともに、海外でのプロモーション等により、ニーズの把握・分析等を実施いたします。
次に、令和13年に本県で開催する「国民スポーツ大会及び全国障害者スポーツ大会」の準備についてです。
スポーツの持つ価値は多様で、特に子どもにとっては、豊かな心、身体、思考力を育むなど、人間形成にたいへん重要なものであると考えています。こうした認識の下、スポーツ施策及び大会の準備を進めてまいります。新年度においては、各市町村との連携のもと競技会場の選定を進めるとともに、大会後においても、子どもから高齢者まで、障害のある人もない人も、多くの県民がスポーツを楽しめる拠点として、県立橿原公苑の各種施設のリニューアル整備等に取り組みます。
南部・東部地域の振興にも取り組みます。県と市町村が地域課題解決のため連携・協働し、地域資源の活用による交流の拡大や、経済の好循環による持続可能な地域づくりを進めてまいります。具体的には、産官学連携による魅力ある地域づくりを支援するとともに、奥大和移住定住交流センター「engawa」を拠点に人材育成、事業創出等の移住・定住支援プログラムを一体的に展開します。
また、南部・東部地域の豊かな自然環境を活用した、アウトドア・スポーツツーリズムを推進し、国内外からの誘客を促進してまいります。
4 3つの責任をしっかり果たすために
4点目は、3つの責任をしっかり果たすための施策です。
まずは、道路整備の加速化についてです。
道路は、県民生活や経済活動の基盤となる最も根幹的な社会資本の1つであり、その整備と維持管理は車の両輪と考えています。
このため、本県における道路整備は「奈良県道路整備基本計画」に基づいて進めており、京奈和自動車道や紀伊半島アンカールートなど骨格幹線の道路整備や、県経済の進展に対応した目的志向の道路整備を推進してまいります。
また、維持管理については、利用者に快適な道路空間を提供できるよう、令和6年度から令和10年度において集中的な維持管理を行う「ならの道リフレッシュプロジェクト」を実施します。具体的には、計画的な舗装修繕による耐久性の向上、区画線補修による視認性の向上、防草対策による不快感の軽減及びSNS等を用いた異常箇所の早期発見による利用者目線に立った効率的な維持管理を進めてまいります。
次に、リニア中央新幹線「奈良市附近駅」の早期確定等についてです。国土軸から離れ、空港や新幹線駅がない本県にとって、リニア中央新幹線「奈良市附近駅」は、県の新たな発展の基軸になるものです。
昨年12月、東海旅客鉄道株式会社が、名古屋・大阪間について、駅位置及びルートを確定するための地質調査を開始し、環境影響評価に着手しました。県としましても、「奈良市附近駅」の位置及びルートが1日も早く確定するとともに、その整備効果が広く県内全域に波及していくよう、東海旅客鉄道株式会社とも連携・協力しながら、必要な調査・検討に取り組んでいきます。
また、2025年に予定されています大阪・関西万博の開催時には、国内外からの来場者を奈良県内に呼び込み、高い経済効果を県内全域にもたらしたいと考えています。
このため、民間事業者や県内市町村、教育機関などと連携し、地域一体型オープンファクトリーの展開や万博に関する催事の準備、機運醸成などに取り組みます。
このほか、県庁の職員が健康でいきいきと職務に従事することが、県民の皆さまの幸福や奈良県の発展につながるとの考えのもと、引き続き、県庁の働き方・職場環境の改革を進めるとともに、受験者にとって間口の広い職員採用試験制度への見直し、戦略的なリクルート活動を展開するための体制整備などにより、県庁の人材の確保に努めてまいります。
新年度予算案等における主な取組の概要は以上ですが、予算案提出と併せて、予算外議案として53の議案を提出しました。これらは主として、ただ今ご説明申し上げました今後の県政の根幹となる条例の制定、当面必要とする条例の改正案等であり、個々の説明は省略させていただきます。このほか、予算案の詳細につきましては、関係部局からの説明と予算概要など別途関係資料によりご承知いただきたいと存じます。
本日、提出いたしました各議案につきまして、議員各位のご賢察とご理解を賜り、慎重にご審議のうえ、ご議決いただきますよう、心からお願い申し上げます。