はじめての万葉集

県民だより奈良
2024年6月号

はじめての万葉集
【vol.122】
やすみしし わご大王(おほきみ) 高照らす日の御子(みこ) 荒栲(あらたへ)の 藤井が原に 大御門(おほみかど) 始め給ひて 埴安(はにやす)の 堤の上に あり立たし 見(め)し給へば大和の 青香具山(あをかぐやま)は 日の経(たて)の 大御門に 春山と 繁(しみ)さび立てり畝火(うねび)の この瑞(みづ)山は 日の緯(よこ)の 大御門に 瑞山と 山さびいます耳成(みみなし)の 青菅山(あをすがやま)は 背面(そとも)の 大御門に 宜(よろ)しなへ 神さび立てり 名くはし 吉野の山は 影面(かげとも)の 大御門ゆ 雲居(くもゐ)にそ 遠くありける 高知るや 天(あめ)の御蔭(みかげ) 天知るや 日の御蔭の 水こそば 常(とこしへ)にあらめ 御井(みゐ)の清水(しみづ)
作者未詳 巻一 (五二番歌)
あまねく国土をお治めになる大君、高く輝く日の御子。荒布の藤井の原に新しい朝廷をお作りになって、埴安の池の堤の上にいつもお立ちになって御覧になると、大和の、青々とした香具山は、東の御門に向かって、春の山とてうっそうと繁茂した姿を見せている。畝火の、この瑞々しい山は西の御門に対して、瑞祥としての山の姿を見せている。耳成の青菅にかこまれた山は、北の御門の前に、恰好の形をもって神々しくそびえている。その名も美しい吉野の山は、南の御門から遠く雲のかなたにある。高々と統治なさるよ、この大殿。天高く支配なさる日の大宮よ、その水こそは永久にあるだろう。御井の清水よ。
藤原宮の御井の歌

 持統天皇八(六九四)年十二月、飛鳥の地から藤原京に都が遷されました。
この長歌は新しい宮を讃美したものです。題詞に「藤原宮の御井の歌」とあり、歌の最後に「御井の清水」とあるように、宮の水、ひいては宮そのものが永遠であることを予期し祝福しています。
 この歌の魅力は、宮の周囲を見渡し、四方の山々を讃えながら詠み込むところにあります。近くに見えるいわゆる大和三山―東の香具山・西の畝傍(うねび)山・北の耳成山、そしてはるか遠い南の吉野の山という四方の山に守られた地であることを、六句ずつ対にして歌い上げます。このような壮大な長歌を詠むことができたのはどのような人物だったのか、柿本人麻呂か、あるいは神官か、などさまざまに想像されています。
 歌の冒頭「やすみししわご大王高照らす日の御子」は、遷都を行った持統天皇を指すとみるのが一般的ですが、天武天皇の事業を受け継いで遷都に至ったと考えられています。『日本書紀』天武天皇十三(六八四)年三月条には「宮室之地(おほみやのところ)」を定めたと記されています。「藤井が原」、藤原の地は天武天皇によって選ばれた場所だったと考えられます。
(本文 万葉文化館 阪口由佳)

万葉文化館 イベント情報
 
特別展「生誕110年 佐藤太清展 水の心象」
開催中~7/7(日)
佐藤太清が生涯にわたり多数描き出した「水」に関する作品に着目し、約70年の画業における心象世界の作品を展観します。
佐藤太清「暎」1969年<br>©MasakoSato2023/JAA2300061
佐藤太清「暎」1969年
©Masako Sato2023/JAA2300061
万葉集をよむ「春の雑歌(ぞうか)(3)」(巻8・1432~1440番歌)
申込不要 無料
6/26(水)14時~15時30分
[定員]150人(先着)※オンライン視聴は要申込(定員なし)
[講師]中本和(当館主任研究員)
にぎわいフェスタ万葉 春
開催中~6/9(日)
詳しくは当館HPへ。
TEL 0744-54-1850
URL www.manyo.jp
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