意見書第5号

意見書第5号

 

刑事再審制度の改正を求める意見書

 

 2023年(令和5年)3月13日、袴田ひで子氏請求による袴田巖氏についての再審請求事件(袴田事件)において、東京高等裁判所は、再審開始を認める決定を行い、この決定は確定した。

 本事件は、2014年(平成26年)に静岡地方裁判所で再審開始決定がなされた後も、上級審の判断が二転三転し、9年経過してようやく再審が開始されることとなった。現在、静岡地方裁判所において再審公判が進行中である。

 この間、袴田事件を含む多くの再審請求事件の審理を通じて、現行の再審請求制度には、次のような重大な欠陥があることが明らかになった。

 第一に、再審請求の事実調べが裁判所の職権に委ねられていて、係属した裁判所において審理の運営が区々になっていることである。デュープロセスを重視して当事者主義的な運用を行う裁判体がある一方で、弁護人に十分な手続関与の機会を認めないまま棄却決定をする裁判体もあり、このような意味での再審格差が問題となっている。かかる再審格差が生じる原因は、再審請求における事実調べについては、職権主義による規定がわずかに一箇条あるだけで、すべてが裁判所の裁量に委ねられているところにある。したがって、再審請求の審理、とりわけ事実調べについてデュープロセスの理念による手続規定を整備することは重要な課題である。

 第二に、再審請求に関して、検察の手持ち証拠の証拠開示制度がないことである。検察が開示した証拠が有力な新証拠となって再審開始につながった事件は多い。最近の事件だけでも、袴田事件のほか、布川事件、日野町事件、松橋事件などが存在する。確定判決の誤りを正し、冤罪を救済するためには、検察の証拠開示が必要不可欠であるところ、現行法には規定がなく、再審請求後の裁判所の裁量による検察に対する勧告により開示がなされるにとどまっている。また、再審請求の前段階では、検察が任意に応じない限り開示はなされない。これでは、冤罪の救済という再審制度の目的が達成できない。

 第三に、再審開始決定に対する検察官の不服申立を認めているために、再審請求審が長期化することである。現行の再審制度が専ら冤罪の救済のために存在していることは、憲法上の要請に基づくものであるから、速やかな冤罪被害者の救済を図るべきである。他方、再審請求審は、再審を開始する事由があるかどうかを審理する手続であり、有罪か無罪かを審理する手続ではない。そうであるならば、再審開始決定に対する検察官の不服申立を認めなくとも、開始された再審そのものの手続内において、検察官が有罪を維持するために必要と考える主張・立証を行えば足りるものであるといえる。上記袴田事件でも、検察官の抗告により、再審開始決定からその確定までだけでも9年を経過していることからもわかるとおり、検察官の不服申立により再審請求審が長期化することは多く、とりわけ袴田事件についていえば、すでに高齢になっている袴田氏の状況を考えると、かかる審理の長期化は、深刻な人権侵害というべきである。

 よって、国におかれては、次の事項について、刑事再審制度の改正を強く要望する。

 

 

  一 再審請求審の事実調べについて、デュープロセスに基づく当事者主義を基調とした手続規定を創設すること。

 

  二 再審請求の前後を問わず、検察の手持ち証拠の開示制度を創設すること。

 

  三 再審開始決定に対する検察官の不服申立制度を廃止すること。

 

 

 以上、地方自治法第99条の規定により意見書を提出する。

 

  令和6年7月3日

                                 奈良県議会議長 中野 雅史

 

 衆議院議長 殿

 参議院議長 殿

 内閣総理大臣 殿

 内閣官房長官 殿

 法務大臣 殿

 

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