奈良県林試研報No.16(要旨)

スギ・ヒノキ樹皮を原料とする和紙の製造(Ⅲ)
樹皮パルプシートの紙力向上試験

伊藤貴文・松山將壯

 スギ・ヒノキ樹皮を原料とする和紙の製法を確立することを目的として、リグニン含有率の高い未漂白樹皮パルプを供試して、ナイヤガラビーターによる叩解試験及び紙力向上試験を行った。その結果、
(1)リグニン含有率が高い未漂白樹皮パルプは繊維が剛直で叩解は極めて困難である。叩解に伴う平均繊維長の低下はいかなる叩解線圧においても認められたが、本研究で設定した叩解線圧の範囲内では57g/cmの場合において最も良好な結果が得られた。
(2)樹皮パルプシートの紙力向上を目的として(1)針葉樹木部クラフトパルプの混入、(2)エマルジョンポリマーの内添を試みた結果、前者はシートの引裂強さの向上に寄与し、混入した木材パルプ以上の値を得るに至った。内添には剛性の異なる3種のエマルジョンポリマーを用いたが、剛性の大きいポリマーは引張強さの向上に、剛性の小さいポリマーは破裂強さおよび耐折強さの向上に寄与した。
(3)ポリマーを内添した木材-樹皮パルプ混合シートは木部パルプシートに類似した強度を示した。

 

 

ベイスギ材の落ち込みとその防止法

小林好紀

 ベイスギ材の落ち込みを防止するために、熱気乾燥法、マイクロ波乾燥法、および減圧熱気乾燥とマイクロ波乾燥を併用した併用乾燥法を用いて乾燥した。その結果、落ち込みは乾燥応力によって生じることが明らかになったので、落ち込みを防止するための実用的な乾燥法として、低温除湿乾燥法を試みた。
1)熱気乾燥では落ち込みが発生し、マイクロ波乾燥では内部割れが発生した。しかし、併用乾燥では、落ち込みも内部割れも発生しなかった。
2)熱気乾燥では、併用乾燥に比べて急峻な水分傾斜が生じ、大きな乾燥応力が発生した。
3)低温除湿乾燥では、熱気乾燥に比べて乾燥応力を抑制でき、落ち込みを抑制できた。この方法は、ベイスギ材の落ち込みを防止するために有効である。

 

 

スギ磨丸太の除湿乾燥

小野広治・小林好紀

 実大のスギ磨丸太を用いて4種類の乾燥条件による除湿乾燥試験と、冬季の室内放置による乾燥試験を行ない、乾燥条件の違いによる乾燥経過の差異について検討した。得られた結果は以下のとおりである。
1)除湿乾燥では、乾燥条件の違いによる乾燥経過の差異は認められなかったが、初期含水率と乾燥速度との相関は高かった。
2)除湿乾燥と室内放置では、乾燥経過に大きな差異が認められた。特に、乾燥初期の乾燥速度に大きな差が認められ、初期含水率が近似している場合での除湿乾燥による乾燥速度は、室内放置によるそれの約3倍であった。
3)14日間の乾燥により、除湿乾燥では材内の水分傾斜はほぼ解消されたが、室内放置では内部の含水率が高く、水分傾斜も大きかった。
4)背割り幅は、除湿乾燥では含水率の低下とともに広がり乾燥度合の指標としてとらえることができたが、室内放置ではほとんど変化がなく、指標とはならなかった。また除湿乾燥では、乾燥温度が40℃の場合が30℃の場合にくらべて割れが生じやすかった。
5)磨丸太の除湿乾燥を効率的に行うためには、初期含水率や収容材積を考慮して、水分蒸発量に見合う除湿性能を有する除湿機を選定することが必要であった。

 

 

マイクロ波による曲げ木加工

和田 博・坂野三輪子

 マイクロ波を木材に照射した後に曲げ木加工を行なった結果以下のことが明らかとなった。
1.少数の試験片を用いて曲げ性能を予測するには繰り返し曲げ試験が簡便で有効である。
2.マイクロ波加熱装置ごとに照射時間と材温の関係を求める必要があり、カエデ材のように温度が上昇し易い材に対しては、とくに照射時間が長過ぎないように注意する必要がある。
3.製材直後の生材状態の木材でも十分使用できる。
4.トーネット法はスギ材、ヒノキ材に対しては有効でない。ケヤキ材のようにとくに曲げやすい材を除いて、厚さ1~2cmのカエデ材、ミズメ材などは、トーネット治具との間隔は2~3mmが適当である。
5.曲げ加工後の材は、トーネット治具を取り付けたまま乾燥すると引張破壊が生じにくくなるが、氷水に数分浸せきした後に治具を外して乾燥することも効果的である。
6.ポリ塩化ビニリデンシートなどにより被覆した後に曲げ加工を行うことは、曲げ可能な曲率半径を小さくするのに有効である。被覆しない場合は照射時間が長くなるほど圧縮側のしわが大きくなる。
7.曲げ加工した木材は湿度の変化により曲率半径が変化するが、圧縮側の変形は引張側より数倍大きい。

 

 

ヒラタケ栽培における生長ステージの酸素消費量の変動

衣田雅人

 ヒラタケのビン栽培における生長ステージの酸素消費量を測定し、その消費量がヒラタケの系統、培養温度、培地組成によって異なるかどうかを検討した。
 接種してから収穫までの1時間当たりの酸素消費量の経時変化には、種菌の系統、培養温度、増収剤併用などによって栽培日数や収量が異なっても、ぼぼ一定の傾向が見られた。酸素消費量は、接種してから菌糸が伸長するに従って徐々に増加し、接種後12日目で最大となり、そのあと減少した。そして、菌かき後消費量は増加し、収穫直前には再び最大となった。

 

 

ヒノキの葉条培養による増殖

天野孝之・酒谷昌孝

 15年生ヒノキ(Chamaecyparis obtusa)の鱗状葉3枚を植物生長調整物質を添加したWhiteとWotter and Skoog培地で培養、最終移植後30~40日目で発根苗を得た。
 5年生ヒノキの葉条を植物生長調節物質を添加したWolter and Skoog培地で50日間培養し、移植後40日目で発根苗を得た。
 根形成にGellum Gumが良好であった。
 活性炭を入れることによって発根は抑制された。

 

 

昭和61年3月春雪による奈良県精英樹次代検定林の雪害調査

岡崎 旦・西川禎彦・吉田明男

1)昭和61年3月24日の降雪により、県中東部を中心に大きな冠雪害をこうむった。被害地域内の10年生スギ精英樹次代検定林におけるさし木クローンの被害差異および生長形態と被害の関係を調査した。
2)調査対象の12クローンの被害率は6%から68%、平均33%であった。被害率から被害の少なかったクローン4・多かったクローン4のグループにわけられた。
3)被害形態は、幹曲がりがもっとも多く被害木の63%となり倒伏と幹折れはぼぼ等しくそれぞれ17%、20%であった。
4)生長量調査木の値から、被害率の低いクローンは樹高、胸高直径ともに大きな傾向があり、初期生長の良否が被害率に関与したものと思われた。        

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