福本通治
奈良県の森林・林産業について、市町村別の生産・定住・加工機能の特性と、グラビティ・モデルを用いた各機能のポテンシャルの大きさの分布状況により、地域特性を分析した。結果は次のとおりである。
1)奈良県の林業は吉野林業地帯、木材加工業は桜井市に集中していた。
2)このため、紙野が「地方林政の課題」(3)で示している地域分画の手法による市町村のグルーピング、すなわち森林・林業・林産業のバランスのとれた地域の設定を行う事はできなかった。
3)市町村の3機能の特性(類型)は、1970年と1980年では、林業・木材加工業の盛んな所では変化がなく、吉野林業地帯では生産・定住の2極地域、桜井市・吉野町では加工機能のみの1極地域であった。
4)1970年・1980年共内地材入荷量の多い所では、1980年の天理市を除き、生産機能ポテンシャルの高い所が多かった。
山中勝次
シイタケ子実体原基の形成を誘導または阻害する要因の一つとして樹皮の形質をとりあげた。ほだ木の外樹皮厚さを評価する指標として、ほだ木表面から一定面積の外樹皮をとり、気乾重量を測定して求めた外樹皮重量面積比(WAR-g/cm2)を用いた。原基形成や子実体発生量と樹皮の形質の関連を検討するWARを指標とすることが有効である。
山下俊二・更屋萬司
一般に市販されている2機種の自動枝打機を用いて、その作業功程および枝打ち性能について比較試験を行った。その結果作業功程においては、ワイヤ巻き付けゴム輪を駆動輪に持つ供試機Aが78.88m/h、ゴムクローラの駆動によって機械本体を上昇させる供試機Bが103.41m/hであった。
一方、枝打ち性能の調査項目である枝打ち跡の残枝長については、残枝長ゼロの枝打ち跡と多少なりとも樹幹表面上に枝が残った枝打ち跡の構成比が、供試機Aの場合51.9%と48.1%であるのに対して、供試機Bではそれが13.0%と87.0%であった。さらに、平均残枝長は供試機Aが0.36cm、供試機Bが0.72cmであった。また、枝切断面の仕上がり状態は、供試機Aでは全枝打ち跡の29.5%が平滑に切断されていたが、供試機Bではそれが9.8%であり、残りの90.2%の枝打ち跡には何等かの欠点が認められた。
天野孝之・酒谷昌孝
ヒノキ芽生えの子葉、幼芽、胚軸を用いてMurashige and Skoog培地上で不定芽誘導を試みた。その結果子葉からの分化がほとんどで、幼芽からは少なく、特に胚軸からは極めて希であった。子葉から誘導した不定芽分化は二つのタイプが観察できた。第一は乳頭状器官(不定芽原基)を経由して、第二は直接子葉表面から不定芽を形成した。
子葉は6-benzyl-aminopurine(BAP)に良く反応し、その適値は0.5mg/l前後にあると思われた。
不定芽形成には背腹性が認められた。鉄イオンに対して系統間の反応に差があると思われた。
培地に活性炭を添加することによって不定芽形成は完全に抑制された。
同一個体の子葉対は、不定芽形成に関して同じ性質を持っているものと思われた。
MS培地を5倍に希釈することによって苗条の90%から発根が誘導でき、その平均根端数は5.6であった。培地にindole-3-butyric acid(IBA)、2、4-dichlorophenoxy-acetic acid(2、4-D)を添加したが、無添加に比べ特に優れた効果は認められず、高濃度になるにしたがいカルス形成が増え発根が抑制された。
酒谷昌孝・天野孝之
奈良県林業試験場内に植栽されている、ナラノヤエザクラ(Prunus leveilleana Koehne cv. antiqua)の冬芽の茎頂を、植物成長調節物質を含む改変Murashige and Skoog(MS)培地(3%ショ糖)で培養し植物体を増殖することができた。
シュートの成長にはBAPが必要であり、GA3はシュートの伸長に有効であった。
シュートをIBA2.0mg/lを含む培地(2%ショ糖)で7日間培養の後ホルモンフリー培地へ移すことにより発根させることができた。また、暗黒処理により発根が促進された。
発根した幼植物体は比較的簡単に馴化することができた。
中村嘉明
インサイジング加工後の防腐処理において、処理材中に薬液の未浸透部分が多いと、十分な防腐性能が発揮されないので、インサイジング刃物間隔を適性に決定する必要がある。そのため、ベイツガとヒノキの無処理心材を、吸収量既知のCCA防腐剤処理材間に挟むように組み合せて未浸透材部を持つ試験片を作り、腐朽試験を行い、その未浸透材部の幅がどのように腐朽に影響するかを求め、それによって許容される未浸透幅を確認して、刃物間隔の限界を考察した。
得られた結果を要約すると次のとおりである。
1)ベイツガ、ヒノキ共にCCA防腐剤処理材間に置いた無処理心材は、無処理辺材間にあるより著しく腐朽が少なく、薬剤効力がそこまで及んでいる傾向が認められた。
2)耐朽性が低いベイツガにおいては、許容される未浸透幅は、処理材部のCCA防腐剤の吸収量の差によって違いがあり、実用作業液の標準吸収量(3.5kg/m3)では3mm以内、さらに高い吸収量(5.5kg/m3)でも4mm以内であることが望ましい。したがって刃物間隔は、通常の刃厚2~3mmの刃物を用いると、それぞれ7.0~8.0ないし8.0~9.0mm以内とすることが適性であると考えられる。
3)耐朽性が高いヒノキにおいては、許容される未浸透幅は、CCA防腐剤の吸収量による差は少なく、いずれの処理材でも4mm以内であることが望ましい。したがって刃物間隔は、通常8.0~9.0mm以内とすることが適性であると考えられる。
4)両樹種をカワラタケで腐朽した結果は、菌の活性ないし菌叢の生育状況はほとんど正常と認められるにも拘らず、本試験の範囲内では、処理材間に置いた無処理材はほとんど腐朽しなかった。
和田 博・坂野三輪子
かもい材の溝を有する面が凸に反り返ることを逆反りといい、製品の価値を低減させる。そこでスギ柾目板を芯材として、ヒノキ単板(つき板)を接着し、その際に熱圧温度、接着剤、含水率など反りの発生に関与すると思われる因子と、変形との関係から逆反り対策を検討した。その結果、
1)芯材のみを片面から熱圧した場合には、熱盤温度が高いほど残留矢高が大きい傾向があり、加熱側が凸に変形した。
2)熱盤を加圧せずに接触させた場合にも凸に変形した。
3)残留矢高量に関係する因子として熱圧温度や接着剤の種類よりも含水率の影響がはるかに大きかった。
4)気乾状態の芯材、単板を使用すると逆返りが生じることが多かったが、芯材の含水率を下げることにより順反りとなった。
5)かもい材製造時に逆反り防止のための適正な芯材、単板の含水率構成は化粧張り柱材の場合とほぼ逆転した。
江口 篤
スギおよびヒノキラミナを使用した7Plyのスギ集成材、ヒノキ集成材およびスギ-ヒノキ混用集成材の実大曲げ試験を行い、強度性能について検討した。
1)スギラミナの曲げヤング係数の平均値は77ton/cm2で、ヒノキラミナの平均値より約40ton/cm2小さかった。
2)それぞれの集成材の曲げヤング係数は、ラミナの曲げヤング係数から推定した曲げヤング係数より5%程度低い値を示し、スパン-はりせい比によるせん断力の影響が認められた。
3)スギ集成材およびヒノキ集成材の強度性能は、大断面-JASに示された樹種区分のそれぞれ1級の値を満足していた。またスギ-ヒノキ混用集成材は針葉樹B-1類1級以上の強度性能を示した。
4)スギ-ヒノキ混用集成材において、フィンガージョイントによる曲げ強さの低減は約10%であった。
5)スギ集成材の曲げ強さは同寸法のスギ心持平角材の曲げ強さより40%高い値を示し、積層効果が曲げ強さにおいて顕著に認められたが、ヒノキ集成材では20%程度でありスギ集成材と較べて曲げ強さにおける積層効果は小さかった。またスギ-ヒノキ混用集成材はヒノキ心持平角材と同等の強度性能を示した。
6)スギ-ヒノキ接着層は大断面-JASに示された浸せきはくり試験、ブロックせん断試験で良好な結果がえられ、スギ-ヒノキ異樹種接着による接着障害は認められなかった。
松山將壯・伊藤 貴文
建築用材として広く用いられているヒノキ辺材が紫外線の影響を受けて褐色に変化する、いわゆる光変色について、促進試験、室内暴露試験を行い、変色の程度を調べ、変色材の調色法、変色防止法について検討した。
紫外線照射促進試験によれば、変色は10時間以内に激しく起こり、この間、L*は低下し、b*は増加した。
室内暴露試験では、90日までは変色は激しくなく、△E*は5程度であった。
光変色した木材の調色には過酸化水素系の薬剤による処理が有効であった。
光変色を防止するためにはポリエチレングリコール水溶液を材表面に塗布する方法が有効で、紫外線照射促進試験(80時間)によれば、△E*をおよそ1/2に抑えることができた。