奈良県林試研報No.18(要旨)

奈良県の林業地域・地帯の特性分析(Ⅱ)

福本通治

 奈良県の森林・林業・林産業について、0-1型のクラスター分析により地域分画を行った。結果は次のとおりである。
1)0-1型のクラスター分析により、地域的にも隣接している4地域に分画することができた。
2)この地域のうち2地域は林業不活発地域、1地域は木材加工地域、1地域が木材生産地域に位置づけられた。
3)分画された地域に含まれる市町村は、1970年と1980年で大きな変化はなく、安定していた。
4)0-1型のクラスター分析の結果は判別分析の結果と類似していた。

 

 

ヒラタケ栽培における細菌汚染

渡辺和夫

 ヒラタケのビン栽培において、菌糸の伸長が遅れたビンから、湿熱に対し著しく抵抗性のある細菌を検出し、2菌株を得た。これらの菌株について、分類学的試験、耐熱性試験、汚染の再現試験、汚染の発生機作について検討した。結果は次のとおりである。
1)これらの菌株は、Bacillus Iicheniformisと推定された。
2)これらの菌株は、おが屑・米糖培地では、99℃-7時間の耐熱性があり、常圧殺菌の殺菌条件(99℃-3.5時間)では死滅しなかった。
3)これらの細菌が、培地に残存すると、菌糸の伸長は遅れ、発生量は著しく減少した。
4)高圧殺菌では、殺菌釜の冷却過程で釜内へ再入するもどり空気に耐熱性細菌が含まれると、培地表面は、著しく汚染された。しかし、釜出し後のビンの放冷過程では、培地表面の汚染は生じなかった。

 

 

自動枝打機による「キズ」の発生

山下俊二・更屋萬司

 自動枝打機による枝打ち作業によって幹に発生したキズについて調査した結果、全供試木の75%に幹キズ(樹皮剥離を含む)が認められた。そしてその幹キズの81%は樹幹上部に集中的に発生した。
 自動枝打機の枝打ち作業による材内部への影響を調査するため枝打ち樹木を割木し、キズの発生、変色の有無、残枝長について測定し検討を加えた。その結果、枝打ち跡の大部分はその周囲にキズがまったく認められないかあるいは発生しても樹皮剥離程度の軽傷であり、枝の着生基部の形成層にダメージを与えるほど深くまで到達した幹キズは全体の約8%に過ぎなかった。材内部において、幹材キズが発生した部分にはそのすべてに変色の発生が確認されたが、その他の位置にはほとんどそれは認められなかった。また、残枝長は平均0.8cmであり人力による枝打ち作業に比べ残枝が長く残り、その影響によって枝打ち跡の巻き込み速度が低下する傾向が認められた。

 

 

スギ精英樹クローンの特性について(Ⅰ)
種子生産量、発芽率及び発根得苗率

西川禎彦・岡崎 旦・吉田明男

 採種穂園を構成する精英樹クローンについて、過去数年間の種子生産量、発芽率及び発根得苗率の調査結果から特性分析を行い、採種穂園の体質改善のための基礎資料を得た。毎年の発芽率と400粒重の間に相関関係が認められた。また、種子生産量、発芽率及び400粒重ともに、各年においてクローンの間でバラツキもみられた。このうち種子生産量が良好なクローンは、吉野-52及び宇陀-30であり、不良なクローンは、吉野-64であった。また、発芽率が良好なクローンは、宇陀-2、及び27で、不良なクローンは、宇陀-4であった。発根得苗率では、各クローンとも毎年変動が認められ、そのうち、良好なクローンは、吉野-8、26、宇陀-27であり、不良なクローンは、吉野-62、宇陀-11及び31であった。

 

 

奈良県におけるスギカミキリ成虫の脱出消長

柴田叡弌

 1984年から1987年までの4年間にわたって、試験場のゲージ内でスギカミキリ成虫のスギ丸太からの脱出消長を調査した。脱出成虫数の多かった1984年と1985年には、雄の方が雌よりも有意に多く脱出した。各年の雄および雌の脱出消長は一山型を示し、スギカミキリ成虫は3月中旬から4月中旬の間に脱出した。成虫の5%、50%および95%脱出日をRichardsの成長関数を適用して算出したところ、雌よりも雄の方が早く脱出する傾向がみられた。また50%脱出日までの4.4℃以上の有効積算温度は、1984年で62.3日度、1985年で87.9日度になった。また、スギカミキリ成虫の50%脱出日とソメイヨシノの開花日や満開日との関係を検討した結果、それから成虫の脱出傾向を把握できることを示唆した。

 

 

マイクロコンピュータ・光センサを導入した加工システムの開発
光電スイッチによるたいこ材の樹皮部検出

和田 博・坂野三輪子

 マイクロコンピュータとセンサ(光電スイッチ)を用いて、スギたいこ材の木材部の幅(樹皮を除いた部分の幅)を計測した。その結果、光電スイッチの作動点を光量が少ない状態に設定すると、木材部の幅は大きく計測され、その状態で光電スイッチと試料との距離を増加すると木材部の幅は小さく計測された。また、材面と樹皮部の接線がなす角度が大きい材は光電スイッチと試料との距離を小さくとると木材部の幅は大きく計測された。検出距離が小さく、精度の高い光電スイッチを用いても、試料間の計測値のばらつきは小さくならず、材面をプレーナーがけしても同様であった。含水率が異なるもの、樹皮が欠落したものにおいても計測は可能であった。実際に樹皮部(丸身)を除去するには光電スイッチで計測した点から、鋸の挽道に相当する量を減じた木材部寄りの位置で鋸断することが必要と思われた。

 

 

フィンガージョイントの接合効率と構造用大断面集成材の強度性能

江口 篤・海本 一・中西祺周

 4樹種(スギ、ヒノキ、エゾマツ、ベイマツ)のラミナを用いて、フィンガージョイントの接合効率試験(曲げ試験および引張試験)と構造用大断面積集成材の実大曲げ試験(寸法:105×285×6,000mm、15 ply、試験体数は各樹種5体ずつ)を行ない、各樹種の構造用大断面集成材の強度性能と、フィンガージョイントの接合効率との関係および構造用大断面集成材の日本農林規格との関係について検討した。その結果は以下のとおりである。
1)スギ、ヒノキ、エゾマツ、ベイマツのフィンガージョイント材の曲げ接合効率は、それぞれ0.74、0.85、0.88、0.70であり、樹種による差が認められた。またフィンガージョイント材の引張接合効率は、曲げ接合効率よりかなり低く4樹種とも0.50程度と低い値であった。
 また、FJ材の引張強さは曲げ強さより小さく、引張強さ/曲げ強さの値は、スギ、ヒノキ、エゾマツ、ベイマツそれぞれ0.72、0.84、0.83、0.75であった。
2)ヒノキ、エゾマツによる構造用大断面集成材は曲げヤング係数、曲げ強さともにすべて構造用大面積集成材の日本農林規格に示された下限値を上回っていた。しかしスギでは曲げヤング係数、曲げ強さともに、またベイマツでは曲げ強さでこの下限値を下回るものが出現した。
3)構造用大断面集成材の実大曲げ試験において、ストレインゲージにより測定した引張側最外層の歪から推定した引張側最外層の引張応力度の値は、曲げ強さの値とよく一致しており、構造用大断面集成材の曲げ強さが引張側最外層のフィンガージョイントの引張強さによってほぼ決定されることが判明した。

 

 

熱収縮フィルムによるスギ心材の光変色防止

松山將壯・伊藤貴文

 造作用集成材の光による変色を、熱可塑性樹脂フィルム、特に紫外線吸収剤を添加されたものによってどの程度防ぐことができるかについて試験をおこなった。
1.紫外線吸収剤無添加のポリ塩化ビニルフィルムは、その厚みに関係なくスギ心材単板の紫外線による変色を防ぐことはできなかった。
2.ポリ塩化ビニル、ポリスチレンいずれの場合も、紫外線吸収剤を添加したフィルムを使用すると、光変色をかなり抑えることができた。
3.スギ心材単板の紫外線による変色は、主として明度L*の低下によると考えられる。色相C*はほんど変化しなかった。このことは使用したフィルムの種類、厚さによって変わることがなかった。


 

建築用針葉樹製材品の水分管理における問題点
乾燥材の実態と含水率検定法について

小林好紀・小野広治

 生産、流通過程および建築過程における建築用針葉樹製材品の含水率を測定して乾燥の現状を分析した。また、製材品の水分管理の目安として生産現場で使用されている高周波式含水率計の性能を検定して、以下のような結果を得た。
(1)乾燥材と表示されている製材品は高周波式含水率計では、ヒノキ材で約20%、スギ材で約30%であった。しかし、樹種や材種による含水率計の差が大きいために、乾燥がトラブルを拡大する原因ともなるので、住宅部材の総合的な乾燥基準を設定する必要がある。
(2)建築過程にある住宅部材の含水率は流通過程の製材品の製材品のそれよりも高く、生材が多く使用されていることを示していた。とくに、大引きなどの床材の含水率が高かった。
(3)市販されている3種の高周波式含水率計を比較検討した結果、樹種によって測定値に差があり、使用に際しては相互の補正を要することが明らかになった。
(4)除湿乾燥材に対する電気式含水率計の測定値は常に低く示され、高含水率材ほど全乾法との差が大きく現れた。しかし、天然乾燥材に対しては、電気抵抗式含水率計は30%以下の含水率域で、高周波式含水率計は30%から50%の含水率域で有効であった。

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