奈良県林試研報No.19(要旨)

ヒラタケのプロトプラスト化による高温培養耐性株の選抜(第1報)

衣田雅人

 ヒラタケビン栽培において、高温条件下でも培養可能な菌株を得るためにプロトプラストに高温処理を施し、再生株20菌株を得た。その20菌株をPDA培地で35℃の条件下で8日間培養し、菌株より栄養成長が早い6菌株を選抜した。その6菌株をさらにPMY液体培で35℃の条件下で14日間静置培養し、親株より菌体乾重量の多い4菌株を選抜した。その4菌株と親株を対峙培養により帯線形成の有無を調べたが、いずれの組み合わせにおいても帯線形成が見られなかった。しかし、電気泳動法による4株と親株のエステラーゼとリンゴ酸脱水酵素のアイソザイムパターンを比較し、4菌株が親株の変異株であることを確認した。

ワサビの組織培養による増殖

酒谷昌孝・天野孝之

 ワサビ花茎を材料とした組織培養による増殖条件を検討すると共に、馴化苗の形状を調べた。材料の表面殺菌にNaClO、H2O2、クロラミンTを用いた結果、殺菌力、薬害の発生から考えるとクロラミンTが優れていた。花茎をBAP0.02~0.4mg/リットル含むMS培地で培養すると腋芽を生じた。この腋芽を切り取り継代培養することにより増殖できた。腋芽の培養において、半固形の培地では生重量の増加が大きかった。BAPの添加は増殖に効果があったが、発根は阻害した。ショ糖濃度が20と30g/リットルでは発根率と成長には差がなかった。活性炭の添加は発根を阻害した。馴化苗を畑で約2か月養苗した結果、45.4%の個体で分けつが見られた。

奈良県黒滝村スギ複層林試験地における林内相対照度の経年変化と下木の生長(1982~1988年)

和口美明・柴田叡弌・米田吉宏

 1982年に設定した奈良県黒滝村のスギ複層林試験地において、試験地設定時から1988年まで、林内相対照度と下木の生長を毎年測定した。林内相対照度は本数率33.9%の間伐によって6.9%から22.5%に上昇し、その後時間の経過とともに低下した。間伐後の経年変化に対数式をあてはめて推定すると、林内相対照度は間伐直後で22.5%、6年後で15.1%となり、6年間で7.4%の低下を示す結果となった。さらに10年後、15年後、20年後の林内相対照度を試算すると、それぞれ13.8%、12.8%、12.1%となった。下木の平均樹高と平均地際直径は6年間でそれぞれ118.4cm、11.9mm増加した。下木は順調に成長しており、当分の間、下木の生育のための受光伐は必要ないと考えられた。

スギ、ヒノキのロータリーベニアによる化粧用合板の性能

杉本英明

 磨き丸太および間伐小径木の需要を拡大するために、これらの材料からロータリー単板を採取し、建築内装用の面材料として利用の可能性を検討した。スギ天然絞り、人工絞り丸太から得られる優美な杢単板を用いて合板を作成し、JASに基づく(1)浸せきはくり試験、(2)耐摩耗性試験、(3)常能接着力試験、(4)平面引張り試験を行った。
 これらの結果、一部の試験片の結果を除いてすべての試験がJAS基準を満足することが判明した。したがって、これらの面材料は性能面からは、それぞれの特徴を生かした建築内装材としての利用の見通しは明るくなったが、単板価格を試験するとかなり高価になった。今後、実用化を図るには採算性の問題を解決する必要がある。

刃物の寿命に関する研究(第1報)
帯のこ歯の摩耗に伴う切削面性状の変化の観察

中田欣作・杉本英明

 送材車付き帯のこ盤によるスギ丸太の連続製材試験を行い、のこ歯の刃先の摩耗の進行に伴う切削面性状の変化を肉眼及び走査電子顕微鏡(SEM)によって観察し、のこ歯の寿命との関連性を考察した。その結果は以下のとおりである。
(1)1歯当たりの切削長が3,000mを越えると、刃先の摩耗が急速に進みあさり幅が減少した。
(2)肉眼による板の切削面の観察では、切削長が0~2,000mの範囲では良好な切削面が、2,000m~6,000mではやや良好な切削面が得られた。
(3)SEMによる板及びのこ屑の切削面の観察では、切削長が0~3,000mの範囲では良好な切削面が得られた。
(4)以上の結果から、切削長4,000mがのこ歯の寿命と考えられる。

建築用材8樹種におけるCCA1号木材防腐剤の防腐効果

中村嘉明

 樹種によって防腐剤効力ないし長期耐朽性に差異が認められることを経験する。それらについて、現在までに系統的に論じられた報告はなく、その理由は明らかにされていない。おそらく、処理する樹種、用いる防腐剤の種類、処理の程度などが関与して、防腐効力ないし長期耐朽性に差異が生じるのであろうと推測される。これを明確にして、実用的な処理技術を適正なものとすることを目的として、樹種の違いに基づく傾向と薬剤固有の有効注入量下限値を知るため、防腐効力試験を実施した。
 試験には、素材の耐朽性が異なる8樹種の心材を供試して、腐朽操作方法3タイプ、薬液濃度6種類等の条件下における、CCA1号木材防腐剤の防腐効力の差異を検討した。
 得られた結果は次のとおりである。
(1)腐朽操作3タイプの違いによる腐朽の容易さは、前腐朽材と処理試験片の間に餌木を介在させたAタイプの腐朽試験体が優れ、概ね安定した結果が得られた。
(2)CCA1号木材防腐剤処理材には、樹種別の注入量下限値に差異が認められた。
(3)非常に厳しい腐朽や劣化条件に遭遇した場合を想定すると、このCCA1号木材防腐剤は、現行の諸規格に適合する薬剤注入量(第1種処理)6kg/m3では、樹種による防腐効力に差異が生じることが避けがたく、樹種別の素材の耐朽性の大小に拘らず、少なくとも10~11kg/m3に相当する薬剤注入量が必要であろうと考えられた。

集成材の接着不良とその原因(第1報)
接着層の蛍光顕微鏡による観察

坂野三輪子

 接着不良原因と接着層断面の形態との関連を調べるために、レゾルシノールフェノール共縮合樹脂接着剤でエゾマツ材を接着条件を変えて集成化し、落射蛍光顕微鏡を用いて接着層断面の観察を行った。接着層の形態は各条件ごとに以下の特徴があった。標準的な条件では接着層が薄く、材中への接着剤の浸透も良い。接着層内部には充填剤、小気泡が認められる。小気泡は連続して現れることがない。圧締圧力が過大な時には追い柾面の早材部に圧縮破壊が認められるが接着部は薄く、浸透は比較的良好で、接着層内部の気泡も少ない。圧締圧力が過小な時には接着層が厚く、材中への接着剤の浸透量は小さく、接着層内部には比較的多数の大きな空隙が存在する。接着剤がプレキュアを起こしている場合には、接着層は厚く、接着剤はほとんど浸透しておらず、圧力過小の場合と接着層の形態は極めて類似している。どちらの場合も接着剤が硬化するときに充分な圧力が加わっていないことが影響していると考えられる。
 以上の結果から、圧締圧力の過不足やプレキュアが接着不良の原因であった場合、接着層厚さ、接着剤の浸透の程度、気泡や空隙の存在、早材仮道管の変形等は各原因ごとの特徴的な形態を示すことがわかった。また、蛍光顕微鏡による観察は接着不良原因と、接着層のミクロな形態との関連を調べる上で有効かつ簡便な方法であることがわかった。

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