ご縁あり、県の文化財行政をお手伝いする機会を得た。幼い頃から「奈良は寺が多いな」程度のことを感じていたが、県内の文化財の数は私の予想をはるかに越えていた。それらを今の社会に活かし、後世に伝えていく行政に並ならぬ苦労が伴うこともあらためて知った。 長期にわたる景気の閉塞感、グローバルな規模で蔓延する安全への不安、文系の学問は軽視され、「お金」にならない「こと」、「もの」は常に弱い立場に甘んじる。誰もが知る国宝や重要文化財でさえも厳しい環境にさらされるなか、地域にねざした文化財のすべてを継承していくのは簡単ではない。 こうした社会の価値観を変えるには、奈良のような多様な文化財が息づく地で、文化に対する豊かな感受性をもつ将来の世代を育てることが肝要だろう。科学技術大国もいいのだが、奈良県は豊かな文化資源を手がかりにして、文化立県、教育立県を目指せないものか。文化を学ぶ環境を整え、国内外から大学生や留学生をいにしえの都に誘うのである。 文化やそれを支える人間の尊さをともに学ぶ次世代の結節点としての奈良。「Naraで文化を学びます。」人生の多感な時期を過ごす合言葉になってほしいのである。
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