第36号(平成13年)

平成13年度


奈良県保健環境研究センター年報


No.36


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はじめに、第1章、第2章(840KB)

第3章(4,272KB)

b006lis 論文

1.生駒山頂と奈良市内における揮発性有機化合物濃度の比較       pp43-47

     井上ゆみ子・植田直隆・溝渕膺彦

 過去の調査から、生駒山頂では奈良市内に比べ夏期にオキシダント濃度が高い結果が得られている。今回、40種の揮発性有機化合物濃度について生駒山頂と奈良市内に調査地点を定め、季節変動および経時的変化を詳細に調査した。結果、7月に生駒山頂ではトルエン、エチルベンゼンおよびo-キシレンが奈良市内と比べ2倍以上の高値で検出され、経時的変化では11時に突出したピークが観察された。同様に、1月にも生駒山頂で高い測定値を得たが、測定開始時を最高として以降減少する傾向であった。9月および11月の測定では両地点間の顕著な濃度差および経時的変化は観察されなかった。以上の結果から、生駒山頂ではトルエン、エチルベンゼンおよびo-キシレンが奈良市内と比較して7月および1月に高濃度であり、特に7月で顕著な経時的変動を伴うことが明らかとなった。

2.奈良県内の大気中揮発性有機化合物について       pp48-52

     植田直隆・井上ゆみ子・溝渕膺彦

 奈良県内6地点で大気中の揮発性有機化合物9物質の測定を行った。沿道の測定点では自動車排ガス由来の物質が高く、工業団地内の測定点ではクロロホルム、アクリロニトリルおよびジクロロメタンの濃度が高かった。一方、一般環境の3ヶ所では概ね同レベルの値を示したが、ジクロロメタンやクロロホルムは他地点よりも高く検出された地点もあった。後背地に該当する測定点では概ね一般環境での値よりも低濃度であったが、中には他地点と同レベルの濃度を示す物質もあった。

3.奈良県における酸性雨実態調査(平成13年度)       pp53-59

     下村惠勇・吉岡浩二・溝渕膺彦

 奈良県における平成13年度の酸性雨実態調査結果は、年間降雨量が奈良市1,110mm、大台ヶ原3,051mmと大台ヶ原が奈良市の約3倍であった。pHの年平均値は奈良市4.65、大台ヶ原4.93であった。イオン成分濃度はすべて奈良市が大台ヶ原よりも高く、都市部である奈良市の汚染度が高かった。SO42-、NO3-、NH4+、Ca2+の降下量は奈良市の方が多く、Cl-、Mg2+、K+、Na+は大台ヶ原の方が多かった。また、奈良市、大台ヶ原共に三宅島の噴火以後、SO42-濃度及び降下量が増加した。さらにSO42-/NO3-比が奈良市、大台ヶ原共に大きくなり、これらは三宅島の噴火の影響によるものと考えられる。

4.飛鳥川の水質調査 -アルキルフェノールとビスフェノールAについて-       pp60-65

     中山義博・兎本文昭・伊吹幸代・荒堀康史・桐山秀樹・北田善三

 大和川の支川である飛鳥川について、その源流部近くから大和川合流点までの10地点において4-t-オクチルフェノール(以下4-t-Octyl)、4-n-オクチルフェノール(以下4-n-Octyl)、ノニルフェノール(以下NP)及びビスフェノールA(以下BPA)の濃度を1年間にわたって定期的に調査した。その結果、4-t-Octyl、NP及びBPAが検出され、これらの濃度については人口密集地域との関連性が大きいことがわかった。また、一部のに二次河川から検出されたNPとBPAが、飛鳥川に影響していることも確認された。

5.飛鳥川の水質調査 -イオン成分等の変動について-       pp66-72

     兎本文昭・桐山秀樹・荒堀康史・伊吹幸代・中山義博・北田善三

 平成13年度の飛鳥川の水質について汚濁とイオン成分の関係を調べるために調査を行ったところ次のような結果であった。水質項目間の相関係数からはNa+-K+-Cl--NO2--CODグループ内での強い正の相関関係、NO3-と他の水質項目との負の相関傾向、pHとDO%の強い正の相関関係が見られた。飛鳥川の上流部は清浄な水質であったが、都市部からは急激な汚濁が見られた。利水等のための堰によって水が滞留し、水質が悪化する傾向が見られた。

6.高速液体クロマトグラフィーによるゴルフ場使用農薬の一斉分析について       pp73-76

     伊吹幸代・兎本文昭・北田善三

 平成13年12月に新たに指針値が設定された4農薬を含むゴルフ場使用農薬10項目について、高速液体クロマトグラフィー(HPLC)による同時分析法を検討した。カラムとしてポリマー系のRS-Pak DE-413を、移動相としてリン酸でpH3.3に調整した30mMリン酸水素カリウム溶液540mlにアセトニトリル460mlを加えたものを用いたとき、10項目は良好に分離した。ゴルフ場排水に対する10μg/L添加時の平均回収率及び変動係数は、72.2-107.0%及び4.3-10.6%と良好な結果が得られた。

7.エトフェンプロックスの固相抽出による分析法の検討       pp77-79

     伊吹幸代・兎本文昭・北田善三

 エトフェンプロックス(EP)の固相抽出について検討した。添加回収試験においてEPの非常に強い疎水性による採水容器への吸着が回収率の低下に影響していた。固相抽出カートリッジの種類の違いによる差がほとんど認められなかったことから、固相抽出カートリッジとしてGL-Pak PLS-2を、固相からの溶出にアセトニトリル10mlを用いたところ、ゴルフ場排水に添加した10μg/L溶液で回収率40%、変動係数5.7%であった。

8.奈良県におけるダム湖の酸性化調査       pp80-86

     松本光弘・浅野勝佳・氏家英司・北田善三

 平成8年度から平成12年度までの5年間にわたり、奈良県内のダム湖4ヶ所(津風呂ダム湖、大迫ダム湖、池原ダム湖、坂本ダム湖)で酸性化のモニタリング調査を行った。その結果、ダム湖の酸性化は見られなかったが、各ダム湖の導電率と緩衝能を示すアルカリ度より判断して、池原ダム湖と坂本ダム湖について酸性化の影響を受けやすいと考えられる。

9.奈良県における河川の酸性化調査       pp87-96

     松本光弘・浅野勝佳・氏家英司・北田善三

 平成13年4月から1年間にわたり、奈良県内の4水系(大和川水系、淀川水系、紀の川水系、新宮川水系)で年4回、河川の酸性化調査を行った。この結果、pHについて4水系では酸性化は見られなかったが、導電率と緩衝能を示すアルカリ度より、淀川水系と新宮川水系において酸性雨の影響を受けやすい地点が見られた。

10.素麺の貯蔵による油脂と香気成分の変化について       pp97-101

     山本圭吾・田中健・森居京美・山本徹・大橋正孝・玉置守人

 手延素麺10種類を室温で2年間貯蔵し、油脂及び香気成分の変化を観察した。素麺に含まれる油脂の酸価は貯蔵期間とともに増加し、製造所による違いがみられた。脂肪酸組成が変化する素麺もあり、脂肪酸組成の変化とともに過酸化物価にも変化がみられた。香気成分としては、ヘキサナール、ペンチルフラン、ノナナール、ノネナール、ヘキサン酸等が主に検出された。貯蔵により、吉草酸、ヘプタン酸、オクタン酸、ノナン酸の強い臭気をもつカルボン酸が検出される麺もあったが、官能試験では異臭とは感じられなかった。

11.水蒸気蒸留-高速液体クロマトグラフ法による食品中の保存料8種の一斉分析       pp102-104

     森居京美・田中健・山本圭吾・山本徹・大橋正孝・玉置守人

 食品中の8種類の保存料(ソルビン酸(SoA)、デヒドロ酢酸(DHA)、安息香酸(BA)及びパラオキシ安息香酸エステル類(PHBA-Es)5種類)について、窒素蒸留装置を用いて抽出した後、高速液体クロマトグラフ(HPLC)で一斉分析する方法を検討した。その結果、SoA、DHA、BAでは蒸留時間7分で96%以上の回収率が、PHBA-Esでは19分で93%以上の回収率が得られた。また、HPLCのカウンターイオンとして臭化セチルトリメチルアンモニウムを用いたイオンペアー法を検討したところ、8成分が良好に分離した。

12.牛乳中の残留抗生物質の微生物学的試験法について       pp105-109

     岡山明子・安村浩平・陰地義樹・玉置守人

 食品衛生法で残留基準値及び検出下限値の定められた抗生物質8種類について、固相抽出法と微生物学的分析法を組み合わせてスクリーニングする方法を開発した。まず標準品による最小発育阻止濃度を調べたところ、乳の検出下限値を満足するためには前処理で10倍に濃縮しなければならないことがわかった。また、除タンパク液には0.01MEDTA含有マキルベン緩衝液が適していた。さらに、被験菌を3種類用い、ペニシリナーゼを併用することで、抗生物質の系統を同定することができた。

13.コクサッキーB群5型ウイルスを原因とする無菌性髄膜炎の地域流行と散在流行における遺伝子型の差異に関する検討       pp110-112

     北堀吉映・丸橋欣之*・松山郁子*・足立修・田口和子・立木行江・吉澤弘行*・青木喜也                                                 * 済生会中和病院小児科

 2001年6月末から11月初旬にかけて、奈良県中・南部で無菌性髄膜炎と診断された34名の患者髄液からコクサッキーB群5型ウイルス(CB5)を分離・同定した。20名の患者は限局した地域での発生で7月中旬から8月初旬にかけての短期集中的流行であった。また、他の14名の患者は6月末から11月初旬までの長期間で散発的に発生し、多くは上記に近接する地域に居住するものであった。患者の好発年齢は1歳および4~6歳であった。臨床的特徴としては、髄液所見で多核球優位が約20%にみられ強い炎症反応を伴う傾向であった。ウイルス遺伝子学的検索では、VP1から2C領域を遺伝子増幅し4種の制限酵素切断によるRFLP解析を行った結果、全症例が同一切断部位を有していた。以上の事から、地域流行と散発流行事例の無菌性髄膜炎を誘発したCB5ウイルスは、同一遺伝子による連続的感染であった可能性が明らかとなった。

14.奈良県のインフルエンザ抗体保有状況および2001/2002シーズンの流行       pp113-116

     田口和子・立木行江・足立修・北堀吉映・木本聖子・青木喜也

 本報では、インフルエンザ流行予測株に対する各年齢層の抗体保有状況と、2001/2002シーズンの流行様式について総括する。抗体保有調査はA型2株(New Caledonia,Panama)、B型2株(Johannesburg,Akita)に対し検討した。調査の結果、昨シーズンに流行したNew Caledonia,PanamaおよびJohannesburg株に対する抗体価は、いずれも5~19歳の年齢層で感染防御能の指標とされる抗体価40倍以上の高い保有状況(51~73%)を示した。しかし、乳幼児、成人および高年齢層では低い保有状況(7~25%)であった。本シーズンの流行で特記すべきは3種混合流行(A/ソ連型、香港型およびB型)で、その主流はA/ソ連型(New Caledonia類似株)であった。また、北・中・南部でそれぞれ特異な流行様式がみられたことである。特に、北部のみ3種混合で、他の地域ではA型2種による流行であった。以上の結果から、本シーズンの流行が比較的小規模であった要因として、主流行株が昨年と類似株であり学童児らがそれらの抗体を高頻度に保有したことが重要であったと考えられる。また、地域的に明らかに流行種および様式が異なったことは、本県の地理的要因を伴う人口流動による伝播の違いによる可能性を示唆させるものと考えている。

b009lis 短報

1.奈良県内の食鳥肉のサルモネラ汚染状況と分離株の血清型および薬剤耐性(平成4年~平成13年)       pp117-119

     橋田みさを・山本安純・井上凡巳・青木喜也]

2.奈良県における環境放射能調査(第10報) (2001年4月~2002年3月)       pp121-122  

     岡田作・岩本サカエ・玉瀬喜久雄・溝渕膺彦

3.奈良県内における地下水のイオンバランスとイオン成分濃度調査       pp123-124  

     浅野勝佳・氏家英司・松本光弘・北田善三

4.飛鳥川の水質調査  -農薬について-       pp125-126  

     伊吹幸代・兎本文昭・中山義博・荒堀康史・桐山秀樹・北田善三

5.酸性化によるダム湖周辺土壌の影響調査       pp127-128  

     松本光弘・浅野勝佳・氏家英司・北田善三

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