平成12年度
奈良県衛生研究所年報
No.35
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報文
1.沿道でのベンゼン濃度について pp43-49
植田直隆・阿井敏通・松浦洋文・北田善三
容器採取-GC/MS法で大気中のベンゼン濃度を測定し,常時監視の3局(自動車排ガス局1局,一般環境局2局)の窒素酸化物の値およびパフ式から求めた自動車排ガス局のベンゼンと窒素酸化物濃度の計算値と比較した.測定した3局とも初夏から初秋にかけて低く,晩秋から冬季に高い傾向がみられた.自動車排ガス局で測定した両物質の濃度は平成12年12月までの実測値と計算値は概ね一致した.しかし平成13年1月以降は窒素酸化物については計算値と実測値はほぼ一致したが,ベンゼンについては実測値は計算値よりも低く,乗用車のベンゼンからの排出量をそれまでの0.4倍で計算するとほぼ一致した.
2.大量注入GC/MSによるゼアラレノン類の微量分析 pp50-53
陰地義樹・岡山明子・安村浩平・玉置守人
アフィニティークロマトグラフィーによる精製と大量注入-ネガティブ化学イオン化GC/MSによるゼアラレノン類の微量分析を試みた.HFBエステル誘導すると分子イオンが基準ピークとして観測された(ゼアラレノンm/Z 513,ゼアララノンm/Z 515,a(b)-ゼアラレノールm/Z 711,a(b)-ゼアララノールm/Z 713).小麦粉および牛肉からの平均回収率は87.8および77.5%であった.a(b)-ゼアラレノール,a(b)-ゼアララノールの検出限界は0.01ppb,ゼアラレノン,ゼアララノンは0.5ppbであった.
3.清涼飲料水中のパラコート及びジクワットの分析 pp54-58
岡山明子・安村浩平・陰地義樹・玉置守人
パラコート及びジクワットのキャピラリー電気泳動装置を用いた迅速な試験方法を開発した.泳動液にキャピラリー内壁シラノール基被覆作用のある添加剤としてテトラプロピルアンモニウムを用い,注入量の補正とMigration timeの再現性の向上を目指し内部標準物質として1,1'-ジヘプチル-4,4'-ビピリジニウムを用いたところ,良好な定量性が得られた.検出にはPDA (285 nm)を使用し,試料液として0.5μg/mlまで測定可能であった.試料は精製水で希釈し,内部標準物質を添加後ろ過するという簡便な前処理で迅速化を図った.
4.エコーウイルス9型に特異的PCR法の検討 pp59-61
北堀吉映・足立 修・田口和子・立本行江・大前利市・青木喜也
2000年の4月から9月に,県内各地でエコーウイルス9および25型を原因とする無菌性髄膜炎,発疹症ならびに発疹を伴う上気道炎患者が多発した.本報では,エコーウイルス9型の型別を決定する中和反応の結果が必ずしも良好ではなかったことから,PCRによる遺伝子学的検索法を検討した.エコーウイルス9型には標準株としてHill株が,準標準株としてBarty株が存在するが,VP1領域内で両者に共通する9型特異配列を見い出し,2C領域との間でnested PCRを行い良好なシングルバンド(Hill: 1273 bp,Barty: 1304 bp)が得られた.以上の結果から,エコーウイルスの型識別に煩雑な操作と時間を必要とした同定作業に,PCRを用いた迅速な対応が可能となった.
調査・資料
1.On Accuracy of Total Mercury Analysis of Sediments pp63-66
Munehiko MIZOBUCHI and Chayanin NAMYUANG※
Two sediment samples collected at Taishi and Fujii of Yamato River were sieved according to particle size of the sediments. The maximum concentrations were changed so roughly from 425 to 10,100μg/kg by the particle size.
Although there was no remarkable difference between maximum and minimum mercury concentrations within each sample size, the mercury concentration increased roughly according to the decrease of the particle size.
Our results suggested that the mercury compounds exist heterogeneously in the sediments. It was very difficult to analyze correctly and accurately with new sensitive instruments. Therefore it is very important for sediments to be sieved with a set of testing sieves and total mercury concentration should be measured on each classified samples to get more reliable data.
※)Environmental Research and Training Centre in Thailand
2.奈良県における環境放射能調査(第9報) (2000年4月~2001年3月) pp67-71
玉瀬喜久雄・岩本サカエ・北田善三
奈良県における平成12年度(H12.4.1~H13.3.31)の環境放射能調査結果は,モニタリングポストによる空間放射線量率で従来から指摘されているように降水時の上昇やわずかな季節変動が認められたが,例年とほぼ同程度であり,また全β放射能についても異常値はなく,いずれも全国の測定結果と比較して大きな差は認められなかった.
3.奈良県における酸性雨実態調査(平成12年度) pp72-76
下村惠勇・吉岡浩二・北田善三
奈良県における平成12年度の酸性雨実態調査結果は,年間降雨量が奈良市1375mm,大台ヶ原2711mmと大台ヶ原が奈良市の約2倍であった.pHは奈良市4.81,大台ヶ原4.89と全国平均より若干高い値であった.イオン成分濃度はすべて奈良市が大台ヶ原よりも高く,都市部である奈良市の汚染度が高かった.SO42-,Cl-,Mg2+,Na+の降下量は奈良市と大台ヶ原はほぼ同量であったが,NO3-,NH4+,Ca2+の降下量は奈良市のほうが多かった.また,三宅島の噴火以後SO42-/NO3-比が奈良市,大台ヶ原共に大きく,これは三宅島の噴火の影響によるものと考えられる.
4.酸素飽和百分率から見た河川水質の特徴 pp77-81
兎本文昭
溶存酸素(DO)から見た大和川水系の河川水質の特徴を把握するために,酸素飽和百分率(O2%)を用いて水質項目との関係を評価したところ,DO表示よりも分かり易くなっていた.O2%はpH,NO3-N/TN との関係が顕著であり,pHとは正の相関が見られ,NO3-N/TN とは,O2%が100%付近を境に,これより増減するにつれてNO3-N/TN が減少する傾向が見られた.流量の少ない地点での水質変動は生物活動による呼吸,藻類等の光合成との関係が示唆された.
5.分析機器による各イオン分析比較検討結果について pp82-84
浅野勝佳・松本光弘・溝渕膺彦
湖沼のモニタリング調査における陽イオンの分析において,従来より行ってきたICP法の他に,IC法及び原子吸光光度法を用いた.これら3方法による各データーを比較検討した.その結果,IC法は他の分析方法との整合性も十分に取れ,添加回収率も良好であり,測定上のばらつきも少なかった.一方,ICP法ではNa+の回収率に問題が残った.原子吸光光度法についてはCa2+の測定にランタンを添加することにより,良い一致が見られたが,添加回収試験における回収率が若干悪く,ばらつきも大きかった.
6.平成12年度奈良県水道水質外部精度管理調査結果について pp85-88
伊吹幸代・兎本文昭・中山義博・荒堀康史・桐山秀樹・溝渕膺彦
奈良県内の水道事業体・保健所・衛生研究所を対象に,塩素イオンと鉄について外部精度管理を実施した.調査は2回実施し,第1回目は各分析機関が日常行っている方法で,第2回目は標準液等を配付し,標準液の作成方法,検量線標準液作成点数を指定する方法で配付試料の分析を行った.第1回調査より第2回調査の方がばらつきは小さく,精度が向上した.これは,検量線標準液作成点数の増加が精度向上に寄与したためと考えられる.
7.過去3年間のロタウイルスおよびノーウォークウイルスを原因とした急性小児胃腸炎の発生状況 pp89-92
足立 修・北堀吉映・田口和子・立本行江・青木喜也
1998年4月から2001年3月までの3年間における急性小児胃腸炎患者からの原因ウイルスを検索した.原因ウイルスの主体はロタウイルスおよびノーウォークウイルスであり,前報(所報No34)と同様,両者に好発期,発生年齢,発熱および発症状況に違いがみられた.さらに,ノーウォークウイルスの存在がすでに本県において広く潜在,定着している可能性が明らかとなった.
8.奈良県のマススクリーニングにより発見された9例の神経芽細胞腫 pp93-96
木本聖子・田口和子・立本行江・足立 修・北堀吉映・青木喜也
1997年から2000年度までの4年間に本県で実施した神経芽細胞腫マス・スクリーニングで要精密検査を指摘した乳児の追跡調査をし,神経芽細胞腫と診断された9症例の診断時月齢,原発部位,病期等をまとめるとともに,マス・スクリーニング以外で偶然発見された症例を含め検査結果の評価を行った.マス・スクリーニングによる患者発見頻度は0.018%と全国平均とほぼ同様な値を示した.また,マス・スクリーニング以外で偶然発見されその経緯が明らかな7例は検査月齢前であったことから,マス・スクリーニングとしての目的を十分に達しているものと考えられる.
9.うがい液からの異なる検出法によるインフルエンザウイルス検出 pp97-99
-ウイルス分離培養法,PCR法および迅速診断キット-
田口 和子・立本 行江・北堀 吉映・足立 修・木本 聖子・青木 喜也
インフルエンザ集団発生事例におけるうがい液からのインフルエンザ検出法をウイルス分離培養,PCR法および迅速診断キットについて比較検討した.材料78例中,ウイルス分離培養陽性は30例(38.5%),PCR陽性は45例(57.7%)であり,ウイルス分離培養陽性の30例はPCR法で全て陽性であった.また,ウイルス分離培養陽性であった26例について迅速診断キットを使用したが3例のみ陽性であった.以上の結果から迅速性が要求される集団発生事例からの検出には,比較的短期間で高率な成績が得られたPCR法の導入が最も適切であると考えた.
10.奈良県のインフルエンザ抗体保有状況および2000/2001シーズンの流行 pp100-103
立本行江・田口和子・足立 修・北堀吉映・木本聖子・青木喜也
本県の各年齢層におけるインフルエンザ抗体保有状況を検討するとともに2000/2001シーズンの流行状況について考察した.流行前の抗体保有状況は,B型に対する保有状況が全年齢層で低く,B型の流行が危惧される結果であった.2000/2001シーズンの流行は,B型を優位とする近年稀なA/ソ連型,A/香港型との3種混合のほぼ同時流行であった.特記すべきは,南和地区ではB型を主としたもので,北和地区および中和地区と異なる流行様式が観察され地理的要因が影響したと考えられる結果が得られた.