現在、社会における様々な事件・事象から、子どもたちの善悪の判断力や規範意識などが十分に育っていないという指摘がなされています。
しかしその一方で、例えば、バスの中で席を譲ろうとしたり、笑顔であいさつをしたりと、心温まる子どもたちの姿も数多く見かけます。そのたび、本来どの子どももよりよく生きていきたいという願いをその心の中にもっているということを感じます。そんな願いを温かく見守りつつ、夢や希望をもって人生を切り拓こうとする意欲や態度とともに、善悪の判断力や規範意識、自らを律する心などをはぐくむ道徳教育を充実させることが必要であると考えます。
そのためには、学校だけではなく、家庭や地域社会と連携して、子どもたちの生活の場全体で取り組むことが大切です。特に、少子化や住環境の都市化などに伴う家庭や地域社会の教育力の低下が生じている現在、家庭においては、人格の基礎を形成する場として、道徳教育の基本である「しつけ」を見直し、子どもたちへの愛情を基盤として保護者が毅然とした態度と信念をもち、かつおおらかに子どもたちと接する必要があります。また、地域社会においては、文字どおり人間が人と人との間で育つために、高齢者など様々な人々と子どもたちが出会いふれあう場や機会を充実させることが大切であると考えます。
県教育委員会では、学校、家庭、地域社会のそれぞれが役割を担い、連携して子どもの豊かな育ちを支える体制づくりを目指して、昨年度より、「学校サポート体制の構築」(スクール・サポート・プラン)を提案しています。これは、学校、家庭、地域社会がそれぞれの特質を生かし、連携して「笑顔の絶えない学校づくり」を実現しようというものです。また、本年1月には、教員に加え多くの保護者の参加を得て奈良県道徳教育冬季研修会を開催し、学校、家庭、地域社会の連携の在り方についてのパネルディスカッションを実施したところです。
本冊子「心に響く道徳教育の広がりを求めて」は、本県における道徳教育の推進・充実のため設置している「奈良県道徳教育振興会議」の協力により作成したものです。本冊子には、奈良県道徳教育振興会議からの提言と併せて、各学校段階における学校、家庭、地域社会が連携して取り組む道徳教育の事例を紹介しています。その他にも小・中・高等学校それぞれの推進研究校の取組を所収し、各学校における道徳教育推進に役立つ資料となるよう作成しました。子どもの心に響く道徳教育の充実と普及に向けて、本冊子を積極的に活用いただくことを願っています。
最後になりましたが、奈良県道徳教育振興会議 小田切毅一会長をはじめ委員の皆様や推進研究校の教職員の方々には、本冊子の作成に当たって多大な御尽力をいただきました。心より厚く感謝申し上げ、ごあいさつといたします。
平成18年3月
|