9)透析食について

合併症の無い透析生活を続けて行くためには食事療法は非常に大切であり、自己管理のうえで最も重要な位置を占めています。


(1)水分・塩分の制限

透析を受けている人は尿量が少なかったり、全くの無尿であったりするため、水分の取り方が非常に重要となります。
透析の終了時から次の透析までの体重の増加は、体の中に水分が溜まったためです。
透析患者さんにとって、「体重管理=水分管理」です。
水分を取りすぎると血圧が上昇したり、心臓が大きくなったり、体にむくみが出てきたりします。
食事以外の飲水量は、尿量+500ml以内に制限する必要がありますが、透析と透析の間の体重増加量をドライウエイトの3%、多くても5%以内にとどめるように調整して下さい。
また、塩分を多く取りすぎると、むくみ、高血圧を起こしやすく、心臓への負担が大きくなります。
さらに、のどが乾き水分が欲しくなり、水分管理が難しくなります。1日の塩分摂取量は5~7gに制限して下さい。

(2)タンパク質は適切に

タンパク質は体の細胞を作る原料として非常に重要な栄養素です。
透析を受ける前では、腎機能を保護する目的から厳しいタンパク制限が必要でしたが、透析を始めると、透析中にタンパク質の原料となるアミノ酸が失われてしまうので、アミノ酸を補充するために一定量のタンパク質を取る必要があります。
しかし、タンパク質の取りすぎは、カリウムやリンの取りすぎにつながってしまいます。
基本的には1.0~1.3g/kg/日を参考として下さい。
タンパク質は、良質タンパク(人の体に欠くことのできないアミノ酸をバランス良く含んでいるタンパク質)の多い、肉、魚、牛乳、鶏如、大豆などの食品を多く取るようにして下さい。

(3)エネルギーは十分に

エネルギーとは体を動かすための燃料です。人が生きて行くためにはエネルギーが絶えず必要です。
エネルギーが不足すると、体を作っているタンパク質がエネルギー補給のために分解されてしまい、その代謝産物である尿素や、クレアチニン、カリウムなどが体の中に増えてきてしまいます。
透析患者さんは、合併症が無い限り特に運動制限がありませんので、体を動かし体力や抵抗力を維持するためにも十分なエネルギーを確保する必要があります。
1日に必要なエネルギーは体重1kgあたり35キロカロリーが標準です。

(4)カリウムの制限

カリウムは身体にとって大切なミネラルですが、透析患者さんでは腎臓から尿中へ排泄されないため、カリウムの血中濃度が高くなります。
血中のカリウムが正常の2倍の8mEq/1(正常4mEq/1)になると、不整脈が出現し、心臓が止まってしまうことがあります。
透析患者さんには“突然死”が多いという統計がありますが、この“突然死”の原因として、心筋梗塞や脳卒中以外に“高カリウム血症”も多いと考えられています。
一般にカリウムは生野菜、果物、芋類、肉類に多く含まれていますが、野菜は煮る、ゆでる、炒めるなど調理の工夫により減らすことができます。
特に、ドライフルーツ(干しぶどう、干柿など)には、カリウムが濃縮され多量に含まれていますので、これらは絶対に食べないで下さい。
1日のカリウムの摂取量は2,000mg以下が理想的です。
ただし、CAPDの患者さんはカリウムを効率よく除去しますので、特にカリウムを制限する必要はありません。

(5)リンの制限

透析を長く続けていると骨がもろくなってしまい、骨の痛みや骨折を起こし易くなってしまいます。
これを予防するためには透析初期からリンを制限する必要があります。
1日800~1000mg以下が理想的です。
リンはほとんどの食品に含まれており、透析患者さんでは一般にリンの制限は非常に困難な事です。
特に、タンパク質の多い食品(牛乳、乳製品、肉、魚、卵類)に多く含まれており、これらの食品を制限しすぎると低タンパク状態となり、体力や体の抵抗力が落ちてしまいます。
最近は、リンの含有量が低い低リンミルクなどの食品が多く出ていますので、栄養士さんと相談して下さい。

(6)カルシウムについて

腎不全ではカルシウムが不足して、その結果、骨がもろくなったり、骨折し易くなったりします。
そのため、カルシウムの多く含んだ食品を取るように努めることが基本となります。
特に牛乳はカルシウムが多く含まれており、吸収率も非常に良い(50%)のですが、リンも多く含まれており、取りすぎると高リン血症になってしまいます。
リンの項目でも記しましたように、低リンミルクなどの食品が多く出ていますので、それらを利用されたら良いと思われます。
最近は活性型ビタミンD3製剤が出現したために、比較的容易に低カルシウム血症はコントロールできるようになりました。

透析食の調理の工夫

調理のコツは、食品成分表を上手に利用して、食べたいものを美味しく食べる工夫をすることです。
食事療法は、最初は面倒かもしれませんが、自分の必要量を体で覚え、体調の維持に努めましょう。
 ここでは、一般的な透析食(糖尿病性腎症を除く)の工夫について取り上げてみます。

(1)十分なエネルギーを取るためには

・1日3回きっちりと食べましょう。
 1回200gのご飯を3回食べると、約900Kcalのエネルギーを摂取できます。
・一品は、油料理を選びましょう。
 毎食あっさりした煮物ばかりでは塩分ばかり過剰摂取になり、エネルギーは上がりません。
 揚げ物・炒め物や、マヨネーズ・ドレッシングを利用した献立を取り入れましょう。

(2)タンパク質は少なすぎず、多すぎず

タンパク質が多く含まれている食品は、卵・肉・魚・乳製品です。これらは同時に、リンもたくさん含んでいるので、取りすぎには注意しましょう。
比率は植物性:動物性は割合を目安にしましょう。

(3)水分・塩分を減らすには

水分と塩分は切っても切れない関係にあります。
まず水分を減らすために、塩分を減らすことから考えましょう。
全ての食品には微量ですが塩分が含まれているため、1日3回の食事で約1.5~2.0gの塩分を摂取することになります。

残り4~5gの添加塩分で美味しく料理するには・・・

・きのこ・海藻・鰹節など、それ自信でうま味のある食品を使いましょう。(ただし、カリウムも多いので量に注意)
・酢を調味料に利用して酸味を塩味の代わりにしましょう。
・メイン料理に重点的に調味料を使い、薄味の料理と組み合わせましょう。
・少量の醤油を、酢やだし汁で割ってみましょう。(特殊食品として出回っています。)
・カレー粉・コショウなどの香辛料を旨く使い、塩分を減らしましょう。
・料理によっては、最初から味付けするより、醤油をつけながら食べる方が、塩味が濃く感じられる時があります。
・水分は、お茶やジュースなどの液体だけを考えるのではなく、食事中の水分を減らすことを考えましょう。煮物・蒸し物・あんかけより、揚げ物・炒め物・焼き物を取り入れましょう。また、果物は重さの90%が水分に相当します。

(4)カリウムを減らすには

もちろん、カリウムの多い食品を減らすことが優先ですが、カリウムはほとんどの食品に含まれているため、なかなか困難な事です。
・水溶性であるため、水にさらしておきましょう。
野菜や芋は切ってから下茹でし、一度茹で汁は捨て、新たに必要な水を加えて料理しましょう。
・茹でこぼしてから料理しましょう。
・上記の事ができない果物は、缶詰にしておきましょう。
単調になりがちな料理を長続きさせるコツは、家族と同じ食事よりタンパク質だけ減らしたり、エネルギーだけ補う方法を考えてみましょう。
例えば、粉アメで作ったシロップを作り置きしておき、飲み物・薬の飲用水にするなど、特殊食品を使うのもひとつの方法です。



   次へ   透析療養マニュアルトップページへ   戻る