日本に現存する最古の和歌集『万葉集』をわかりやすくご紹介します。
vol.21 吉野宮(よしののみや)への讃歌
今月の歌
見れど飽かぬ吉野の河の常滑の絶ゆることなくまた還り見む(巻1の37番歌)
訳
見あきることとてない吉野、その川の滑らかさが永遠であるように、いつまでも絶えることなく、くり返し見よう。
本文
今、吉野は桜の名所として多くの人々が訪れる場所です。しかし『万葉集』の歌では、山や川の清らかさが吉野の景として詠まれています。場所も少し違います。万葉人がその美しさを讃えた吉野は、私たちが花見を目的に目指す吉野山ではなく、天皇が築いた吉野宮という離宮があった場所なのです。
吉野宮へは、斉明天皇、天武天皇、文武(もんむ)天皇、元正(げんしょう)天皇、聖武天皇など、歴代の天皇がたびたび行幸しました。なかでも最も多く吉野へ行幸したのが持統天皇です。持統天皇は在位中に31回、位を退いてからも2回、吉野を訪れています。
上の歌は、そんな持統天皇の行幸に従って行った柿本人麻呂が、吉野宮を褒め称えて詠んだ歌です。直前の長歌とセットになっています。長歌の最後が「……この川の 絶ゆることなく この山の いや高知らす 水激(みづたぎ)つ 滝(たぎ)の都は 見れど飽(あ)かぬかも」(三六番歌)と結ばれているのを受けて、初句で同じ言葉をくり返し用いています。
「常滑(とこなめ)」という語は聞きなれないですね。具体的には川底や岩などに水苔が生えつるつるして滑りやすい場所をいいますが、ここでは永遠性を象徴する表現となっています。
いつも「はじめての万葉集」をご愛読の方でしたら、この歌をみて「おや?」と思われたかもしれません。そうです、良く似た歌をVol.14(県民だより奈良2015年6月号)でご紹介しました。同じところ、違うところはどこでしょうか。作歌の前後関係はわかりませんが、こうして歌を見比べながら考えることも、『万葉集』の楽しみ方のひとつだと思います。
(本文 万葉文化館 小倉 久美子)
万葉ちゃんのスポット紹介
歴代天皇が幾度となく訪れた吉野宮は、吉野町の宮滝にあったといわれています。
宮滝の滝は、水が激しく流れているという古語の「激(たぎ)つ」の意味で、今も変わらぬ「たぎつ瀬」のようすを見ることができます。
宮滝へのアクセス
近鉄大和上市駅発の奈良交通バスで宮滝下車
問い合わせ
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